2017年末に惜しまれながら終了した、光野桃さんの人気連載『美の眼、日々の眼』。心の奥深くに染み入るような文章はもちろん、毎回皆さまからお寄せいただく感想と、それに応える光野さんのやり取りでコメント欄が盛り上がっていたことも、ほかにはないこの連載ならではの特徴でした。

企画が終わる際には『光野さんの温かく、そして力強い言葉にずっと触れていたい』という多くの声が。その熱いご要望にできるだけ早くお応えしたく、このたび連載を抜粋してまとめた単行本『これからの私をつくる 29の美しいこと』が、刊行されることになりました。

それにあたり今回、光野さんに約2年ぶりのロングインタビューを実施。書籍化にあたっての思いやエッセイの内容、近況についてなど、さまざまなお話を伺うことができました。3回にわたってお届けする光野さんの言葉のなかにも、きらめくような人生のヒントがたくさん見つかるはず。まずは新著をより楽しむためのプロローグとしてお読みください。

【光野桃さんインタビュー①】ミモレ連載が一冊に!読者と歩いた1年を振り返る_img0
光野桃 作家・エッセイスト 東京生まれ。小池一子氏に師事した後、女性誌編集者を経て、イタリア・ミラノに在住。帰国後、文筆活動を始める。1994年のデビュー作、『おしゃれの視線』がベストセラーに。 主な著書に『おしゃれのベーシック』(文春文庫)、『実りの庭』(文藝春秋)、『感じるからだ』(だいわ文庫) 『あなたは欠けた月ではない』(文化出版局)『森へ行く日』(山と渓谷社)『おしゃれの幸福論』(KADOKAWA)『自由を着る』(KADOKAWA)。今年刊行された『白いシャツは白髪になるまで待って』(幻冬舎)も絶好調。公式サイト桃の庭FacebookファンサイトInstagram


初めて尽くしで
とまどうことばかりだった
ウェブでの連載


ミモレ今回、ファンの皆さんお待ちかねの新著が出版されることになりましたが、これはミモレでの1年間の連載をまとめたもの。そもそも、ミモレで連載を始めることは、光野さんにとって冒険だったと以前仰っていましたよね。

光野はい。それはもうウェブの世界というと初めてのことだらけでしたから。もともと2年前まで、私自身がウェブマガジンを読むということもほとんどありませんでしたし。ウェブで連載するとどういう効果とリスクがあるのか、まったく見当がつきませんでした。ただ、雑誌や単行本に書くのとは勝手が違うということは分かっていたので、読者に何をどう伝えたらいいのか常に暗中模索していました。まず慣れなかったのは、はじめて横書きで原稿を書くということや、読みやすいように行間を空けるという作業。今までとは違う脳の使い方をしなければいけない、という感じでしたよ。内容にしても、手紙でいえば時候の挨拶から始まって本題に入るというスタイルをこれまで通してきましたが、ウェブではより読者の心に届きやすいよういきなり本題に入るようにするとかね。

締め切りが毎週やってくるというのも、新聞に連載を持っていた40代のとき以来のことで。20年ぶりに老体に鞭打って書いていました(笑)。


日本人ならではの
季節感を意識した
テーマを取り入れたい


ミモレとくに大変だったのは、毎回のテーマ選びだったとか。

光野そうですね。やはりもともと編集者でしたので、読者を飽きさせないように1年間の構成を考える、ということにはずいぶん頭を悩ませました。たとえば、ファッションの分野は大草さんが提案されているミモレの主軸の部分だったので、そこにはあまり触れないでおこうとか。同じようなテーマを2回続けないようにするとかね。あと、オンタイムで記事がアップされるというウェブの特性上、季節や時事問題などの影響を微妙に受けるものだと知って。つまりピーカンの日が似合うような記事を用意していても、当日に大雨になってしまったら読者への伝わり方が違うので、タイミングや伝える内容についても常に熟慮を重ねていました。最初のうちはどうしていいか分からなかったけれど、連載を続けるうちにだんだん慣れてきて、「季節感のあるテーマ」をうまく取り入れていきたいと思うようにもなりましたね。日々、仕事に生活にと忙しく走り回っていると、季節はグレーにしか見えない。そうではなくて、もっと丁寧に日本の四季を感じましょう、という連載にしていけたらいいなと。

ミモレそれが「ゆる歳時記」として新著に加筆された部分ですね。それぞれのくだりを読むと、まるで母親や身近な存在から近くで優しく語りかけられているようで、心がほっと落ち着きます。

光野『この季節になったから小豆を煮ましょう』とか、『今の時期は白いものを食べたほうがいいから、大根を買わなくちゃ』etc.……。といった具合に、昔は歳時記といえば親から当たり前に伝えられるものでした。だから、とくに勉強などしなくても生活の中で自然に耳から入ってきて、いつのまにか覚えていたという人が多かったように思います。でも、今の若い女性たち、とくに子育て世代の人たちにはそういう機会がずいぶん減ってきているのではないかなと。そこで、昔ながらの母親の教えや私がずっと勉強してきた東洋医学の豆知識なんかを頭の片隅に入れておいてもらえたらいいなと思って、新著にも「ゆる歳時記」を入れたんです。食べるものや装い、身体との向き合い方。そういったいろいろなことに季節感を意識してほしいですね。


読者の皆さんと
一緒に走って共に
作り上げてきた連載


ミモレなるほど。そういう光野さんの一人一人に語りかけるような「温かさ」が、常に読者の方々に伝わっていたような気がします。だからなのか、この連載ではとくに皆さんからの熱いコメントが多かったのが印象的でした。

光野ありがたいことですよね。これまで私が手がけてきた書籍や雑誌の仕事では、書いたものに対して反応が返ってくるということはまずありませんでした。今の時代、ファンレターをいただくということもほとんどないですから。物書きはどこに読者がいるのかはっきりと知らずに、自分の書いたものをただ投げるだけという一方通行の関係が続いていたんです。それが、ミモレではオンタイムで読者の皆さんからたくさんのコメントをいただき、ダイレクトに反応を知ることができたのが嬉しかったですね。それも嫌なコメントは一つもなく、ほめてくださるような内容ばかり。『もう少しこういう風に書いた方がよかったかな』と考えさせられるようなヒントをいただくことも多々ありました。

ミモレ光野さんは一つ一つ丁寧にお返事を返されていましたよね。

光野あまりにもコメントの内容が深いので、お返事を返さないではいられませんでした。とにかく、ミモレの読者の知的レベルや感受性には、驚くべきものがありました。この連載は、そんな読者の方々と一緒に走りながら共に作り上げてきたものだったといま実感しています。今までこんな経験をしたことはなかったので、たくさんの学びを与えてくださった皆さんには、ただ感謝するばかりです。

今回は人生で初めて日々を振り返りながら、ゆっくりとした呼吸のなかで目にしたものや感じたことを書いていくということにもトライできました。その多彩な内容を玉手箱のようにぎゅっと1冊にまとめたこの本は、最初から順を追って読むのもいいけれど、基本的には好きな部分から自由に読んでいただければ、と。肩の力を抜いて楽に読んでいただけたらと思っています。

ミモレそうですね。ミモレの読者の方々は皆さん真面目なので、リラックスして読んでいただけたら嬉しいですね。さて、次回はさらに新著の内容に深く切り込んでいきたいと思います。皆さま、どうぞお楽しみに!

【光野桃さんインタビュー①】ミモレ連載が一冊に!読者と歩いた1年を振り返る_img1
今年に入ってばっさりと髪を切り、それまでのボブヘアからショートへと一気にヘアスタイルをチェンジしたという光野さん。洗練された雰囲気に、シンプルなネイビーのシルクワンピースがマッチしながら、大人の色香を漂わせます。ワンピースは新著にも登場する光野さんのお気に入りブランド、『saqui』の一着。パールのピアスは『ボン・マジック』のもの。冒頭の写真のデスクに置いたパープルのポーチは『CIANSUMI』のお気に入り。

 


[8月5日刊行記念イベントのお知らせ]

2018年8月5日(日)14時から、三省堂池袋本店で『これからの私をつくる 29の美しいこと』の刊行を記念し、光野桃さんのトーク&サイン会が開催されます。イベントのテーマは「40代は人生の土台をつくるとき」。トークショーの聞き手は、ミモレ編集部の川良咲子が務めます。定員に達し次第受付終了となりますので、ご予約はお早目に!皆さまのお越しをお待ちしております…!

編集部注:トークイベントは定員に達しましたので、申し込みを終了しているようです。ご了承ください。(7月31日現在)

三省堂池袋本店特設サイト内告知ページはこちら>>

 

【光野桃さんインタビュー①】ミモレ連載が一冊に!読者と歩いた1年を振り返る_img2
 

<新刊紹介>
『これからの私をつくる 29の美しいこと』

光野 桃 著 1200円(税別) 講談社

2017年の1年間にわたってミモレに掲載され、多くの読者から大好評を博した連載、『美の眼、日々の眼』。そこからとくに光野さんが気に入っている記事を抜粋し、加筆・再編集を行った新著。人生の土台を築く支えとなってくれるものは「美の力」であると語る光野さんが、それを生み出す物やひと、自然、おしゃれ、言葉など、「29の美しいこと」を情緒豊かな言葉で丁寧に紡ぎ出す。ふと、迷いやさみしさを感じたときに好きなページをめくるだけで、心のもやが晴れていくような一冊。


撮影/目黒智子 取材・文/河野真理子
構成/川良咲子