7月7日(土)七夕の日に開催された、ミモレ大学3回目の講義。株式会社ブラウンシュガー1ST代表の荻野みどりさんの次に登場したのは、BUSINESS INSIDER JAPAN統括編集長の浜田敬子さん。朝日新聞社に28年間在籍し、女性初のAERA編集長を経て昨年3月に50歳で転職されました。そんな浜田さんが、「これからの女性のキャリアアップに必要なこととは?」というテーマで登壇されました。

BUSINESS INSIDER JAPAN 統括編集長/AERA前編集長 浜田敬子 1989年に朝日新聞社に入社。前橋支局、仙台支局、週刊朝日編集部を経て、99年からAERA編集部。記者として女性の生き方や働く職場の問題、また国際ニュースなどを中心に取材。米同時多発テロやイラク戦争などは現地にて取材をする。2004年からはAERA副編集長。その後、編集長代理を経て、AERA初の女性編集長に就任。編集長時代は、オンラインメディアとのコラボや、外部のプロデューサーによる「特別編集長号」など新機軸に次々挑戦した。2016年5月より朝日新聞社総合プロデュース室プロデューサーとして、「働く×子育てのこれからを考える」プロジェクト「WORKO!」や「働き方を考える」シンポジウムなどをプロデュースする。2017年3月末で朝日新聞社退社。2017年4月より世界17カ国に展開するオンライン経済メディア「BUSINESS INSIDER JAPAN」の日本版統括編集長に就任。 「羽鳥慎一モーニングショー」や「サンデーモーニング」などのコメンテーターや、ダイバーシティーや働き方改革についての講演なども行う。

 

女性が長く働けないのは女性のせい?
経済に翻弄され続けた「女性の働き方」


浜田さんが朝日新聞社に入社したのは、男女雇用機会均等法が施行されて3年目となる1989年のこと。入社時からAERA編集部で働きたいという希望を抱いていたという浜田さんは、週刊朝日編集部にも在籍。そこでオウム真理教の事件取材に身を投じたり、写真家・篠山紀信が撮影する女子大生表紙に携わったりしたそう。さまざまな経験を経て99年に念願のAERA編集部に配属されます。

「それから17年間AERAに在籍しました。本当にAERAが大好きでした。副編集長を9年勤め、管理職として出産した子どもも今は12歳。女性初の編集長にもなったのですが、2年前に編集長を交代した時、燃え尽きました。人生100年時代といわれているのに、この先どうするの私? って」

毎週締め切りがある週刊誌の現場は、「毎週が中距離走」のようだったという浜田さん。あまりにも大変すぎて「早く定年にならないかな」と考えていたのですが、ちょうど仕事で一緒になった『ライフ・シフト』著者のリンダ・グラッドンさんに「定年後に行くクルージングは2ヶ月で飽きる。もっと長く働くことを考えたら」と言われ、ふと立ち止まって考えてみるように。

「仕事あってのいい人生というのは自分でもよく分かっていて、少しでも長く働くんだったらまだ体力的に余裕のある今、動かなければと思ったんです」

そんな時、友人から声をかけられたのがきっかけで、2009年にアメリカで創刊された、経済、ビジネスニュースを中心としたオンライン・メディア「BUSINESS INSIDER JAPAN」の統括編集長に転身します。

男女雇用機会均等法の施行直後から社会人として働き続けている浜田さんは、「女性たちは経済に翻弄されてきた」と指摘。同法によって男女が同じ立場、同じ権利を持って働けると思いきや、実際はそうではありませんでした。女性が働きはじめても、企業に育休制度が導入されるようになったのはあとの話なので、結婚や出産を機に退社する女性が大半でした。

「私の同級生はほとんど仕事をやめました。今でも働いているのは独身のままか、既婚でも子どものいない人がほとんどです」

政府は2020年までに女性管理職を30%にまで引き上げるという目標を掲げていますが、実現は困難と見られています。総合職として入社した女性の大半が結婚や出産で辞めてしまったため、企業内に女性管理職候補になりうる世代の女性社員がいないという現実があるからです。


仕事以外でもスキルは磨ける!
自分で働き方をデザインしていこう


「これからのキャリアアップを考える前に、いま、女性をとりまく労働環境に何が起こっているかを知っておきましょう」

 

そう言って浜田さんはいくつかの事例を挙げました。まずは「資生堂ショック」。これは、福利厚生が充実し、女性にとって働きやすいと思われていた企業の代表格である資生堂が、美容部員に対して「育児中でも夜間までの遅番や土日勤務をしてほしい」と呼びかけたことに端を発する騒動です。

「これはAERAでも特集をしたのですが、女性の労働強化をしているととられ、バッシングされました。子どものいる社員が夜間や土日勤務を外れると、必然的に独身や子どものいない既婚女性社員の負担になります。一方で、子どものいる社員にとっても、時間的制約によりキャリアを積むことができず、やりがいを失って辞めてしまっていたのです」

仕事と家庭や育児の両立を図りつつ、キャリア形成や能力向上を目指すための試みを目的とした呼びかけだったにも関わらず、それが大きく誤解されてしまったというのです。実際に、育休復帰後に部署を異動させられたり、重要な仕事は任せてもらえなくなったりする「マミートラック現象」に直面する既婚女性は少なくありません。これは女性だけの問題ではなく、男性社員もまた女性と同じだけ家庭に関わるべきことであるにも関わらず、「男性の家庭進出」が遅々として進まないことにも原因があります。

こうしたことを踏まえ、浜田さんは企業に対して変えなければいけない3つのことを掲げました。

①長時間労働
②女性のキャリア支援
③男性の意識改革

「長時間労働は長らく問題になっています。人生100年時代で長く働こうと思うのであればなおさら、今のような長時間労働では到底体が持ちません」

浜田さんが今の会社への転職の決め手の一つに、「家から近く、リモートワークもできる」という理由があったそう。また、今の職場では、家族の介護との両立のため自宅で仕事をする社員や、2人の子どもがいるため朝5時から仕事を始める社員がおり、それぞれが工夫して仕事と家庭を両立させているといいます。

「自分の自尊心を守るためにも、自分で働き方をデザインできるかどうかというのも大切なポイント。より自由に働ける会社に移るのは一つの方法ですし、簡単に転職できないのであれば、自分から会社と交渉してみてはいかがでしょうか? 待っていても会社はすぐには変わりませんから」

「あなた自身の仕事のつまずき」を会場内でシェアし合いました。


女性をとりまく労働環境は決してよくはないものの、「チャンスもある」という浜田さん。

「今の時代に必要な能力はコミュニケーション能力。中でも重要な『共感力』『調整力』『忍耐力』は人間としての体力が求められます。昔は『俺についてこい』という男性的なリーダーシップが主流でしたが、周囲と調整を図り、みんなで分け合う女神型のリーダーシップが求められています。女性はもともと2、3人が集まれば誰かが自然と音頭を取るものですし、実は女性こそリーダーに向いていると言えるのです」

浜田さんは、事前に受講生に対して「本当にあなたには何もないの? まず自分を知るところから考えよう」という宿題を出していました。そして、スキルは会社の仕事を通してだけではなく、すべての経験から得ることができるとアドバイス。

「女性は自信過少、男性は自信過剰なところがあります。自分がやってきたことをもう一度振り返って、まずは自分から一歩を踏み出してほしいのです」

そう語りかけ、受講生の背中を力強く押してくれました。

受講者の方から届いた感想PICK UP!

「ワークスタイルを自分でデザインすることは、前向きに生きることだと思いました。第一線で働いて来られた方の言葉は説得力があり、パワーになりました」

「心が折れてしまうのは自分の努力不足だけだ…、と思っていました。時代の流れや社会的な要因もあることがわかり、改めて参考になりました」

「そもそも“キャリアを積む”ということがどういうことなのか? を考えるきっかけになりました。今の会社で働き続けることではなく、自分軸で“積む”ことができるよう、一歩を踏み出したいです!」

取材・文/吉川明子 撮影/朏亜希子(編集部)
構成/川端里恵(編集部)