「セリーナの全米オープンのウェアについて書いてみて欲しい」という依頼を大森編集長から受けたのは先週末のこと。以前書いたW杯の記事でもお分かりのように実はスポーツネタに弱いワタクシでありますが、今回はウェアのお話なので私なりの考察を書いてみたいと思います。
女子テニス界にパワーテニスを持ち込んだことで知られるセリーナですが、2017年9月に娘を出産し、今年3月にアメリカで行われたインディアンウェルズ・マスターズに出場したのが復帰戦に。そして5月の全仏オープンでは、ボディにフィットしたブラックのキャットスーツを着用して颯爽と登場、伝統ある全仏オープンでの攻めたウェア選びに賛否両論を巻き起こしました。しかし実はこのスーツには、出産時に患った血栓症の症状を和らげるための機能があったとか。
セリーナはこのスーツのことを、映画『ブラックパンサー』に出てくる架空の国「ワカンダ」風スーツと呼び、「このスーツは身体に対する精神的・肉体的な悩みを乗り越えて自信を持ち、自分のことを信じる女性たちの姿を表しているのです」と試合後の記者会見で語っていました。ですが8月25日に、フランステニス連盟会長がこのセリーナのウェア着用に対し「度を越している」、「試合と試合をする場所を尊重しなければならない」という苦言を呈し、今後このスーツや人目を引くような奇抜なウェアは来年以降の全仏オープンで禁止される見通しとなったそう。
その3日後の全米オープンの試合でセリーナは、今度は本来バレエの衣装であるチュチュを身につけてテニスコートに登場しました。このチュチュはルイ・ヴィトンメンズ部門のアーティスティックデザイナーやオフホワイトで知られる気鋭のデザイナー、ヴァージル・アブローとナイキによる特注のもの。――ということは、フランステニス連盟会長の声明の3日後にはこの新しいウェアが用意されたということ!? 本当にそうなのかは定かではありませんが、キャットスーツを否定されたわずか数日後の試合でも普通のテニスウェアでは登場せず、チュチュを着たというところにセリーナの反骨精神が垣間見えて思わずニヤッとしてしまうではありませんか。「キャットスーツが女性らしくなくて伝統に反しているというのなら、女性らしいチュチュで私は戦うわ!」とでも言いたげな様子。そして実際、この衣装でセリーナは試合に6−4、6―0で勝利したのです。
アスリートにとって伝統あるスポーツの規範を守るのも、もちろん大切なこと。だけどセリーナのキャットスーツに健康上の理由があるのなら、それを禁じるのはおかしなことでもあります。そして何より、セリーナのウェアには、単なるマナー違反というよりも、テニスをプレイする、そして試合を観戦する女性たちをもっと楽しませたいという想いが詰まっているような気がするのです。その証拠に彼女の全米オープンでの姿を見たファンたちは、SNSで彼女に賞賛のコメントを次々に送っていました。
「チュチュで気に入っているのは、女らしさをとても感じるところよ。私が常に言っている、『強いと同時に美しくあること』を体現していると思うわ」とセリーナ。
スポーツの世界でも依然男女格差は存在し、テニスは賞金格差では少なくとも4大大会の賞金には差がないものの、女子選手への待遇改善はまだまだだと言います。そんな中、女子テニス界人気を牽引しているのがセリーナ。2015年の全米オープンでは彼女のおかげで男子よりも女子の試合の視聴率の方が良かったというし…。そんなテニス界の貢献者でインフルエンサーである彼女の意見は、もっともっと尊重されてもいいのではないかなあ、と。
この秋からまたテニスを再開しようと思っている私にとってもキャッチーだったこのニュース。久々過ぎて何を着ればいいのか悩んでいたけど、彼女を見ていたら、もっと自由に、テニスウェアのおしゃれを楽しみたいなあとワクワクして来たのでありました。
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