エンタメ感度が高い人がチェックしている日本映画やドラマには、この人の名前があります。
今年は5本の出演作が公開され、現在はドラマ『今日から俺は!!』のヤンキー役が話題を呼んでいる俳優、太賀さん。『母さんがどんなに僕を嫌いでも』では、美しい母に邪険にされて育ち、17歳で家を出たタイジを演じています。
ミモレでは太賀さんに、母親に向ける“息子の目線”を探るべくインタビュー。友人の支えに後押しされて過去と向き合い、愚直なまでに母の愛を求める息子を演じるにあたって「タイジが感じたささやかな幸せも深い悲しみも、すべて繊細にすくっていきたかったんです。タイジという存在をまずは僕が肯定してあげたいと思っていました」と語ります。

太賀 1993年、東京都出身。13歳で俳優デビューを果たし、‘08年に映画で主演を務めると、その後、話題の映画、ドラマ、CMなどに多数出演。確かな演技力で、存在感を示している。現在ドラマ『今日から俺は!!』に出演中。12月7日には中島哲也監督の映画『来る』が公開予定。趣味のカメラはプロの腕前で、雑誌で連載も。

 

虐待をする母・吉田羊さんとの絶妙な距離感


「母から愛情を受けていなかったタイジは大人になって、本当に寄り添える友達と出会います。
母との関係が希薄だからこそ友だちにすがってしまうし、友だちとの関係が満たされていけばいくほど、母との希薄さが浮き彫りになっていく。
自分を支えてくれる友人関係があるからこそ、そこをスタート地点に母と向き合えるようになったとのだと捉えてタイジを演じました。どうしても埋まらない欠落感を抱えながら、色んな人との関係性を大事にしていった感覚です。
母親を演じた吉田羊さんは“タイジの母”として現場にいてくれたからとてもやりやすかったし、近くにはいるけれど遠いような距離感は映画にも反映されています」

愛を知らない女は、子供にも上手に愛のバトンを渡すことができない。
その負の連鎖が描かれてはいますが、この映画は「うちの子になっちゃえば?」と言ってくれるような周囲の友人たちとタイジとの関係を通して、ひとりの青年の胸を打つ成長物語を描き出した作品でもあります。

「完成作を観て、壮絶な過去を描いていても、悲しいだけではなくて希望や喜び、生きていくための力強さのある映画になっていることが嬉しかったんです。
いつもはリアルに演じるためにどうしたらいいのかを考えるのですが、今回は監督からの“多くの人に共演を得てもらうために、地上から10㎝だけ浮いたポップな世界観を目指したい”という言葉がヒントになりました。
タイジがダンスを踊るシーンを観ながら、その10㎝がすごく大事だったんだ、リアリティを追い求めただけではこの物語が昇華されなかっただろうな、と感じましたね」

 

母から愛情を受けなかった子供を演じる難しさ
 

母の愛がほしいという願い、自身を誰かに認めてほしいという思いと向き合ったタイジの葛藤は、自分で自分をしっかりと抱きしめる方法を見つけるまでの道のりだったとも言えるかもしれません。

「彼が持っていた強烈な寂しさは、人生を動かす原動力だったと思います。演じていて思ったのは、母を思う気持ちには共感しかないな、ということ。
色んな家族の形はあれど、母と子のつながりには普遍的なものがあると思いますね」

 

実はマザコン!?自分にとっての母親の存在、そして今の関係


太賀さん自身は「ずっと母を頼りにしているけど、こういう感覚はタイジにはないものなんですよね。そこは想像力との戦いでした」と語ります。

「母は僕の根幹にある存在だし、揺るがない基準。
結構甘えん坊で、超マザコンなんですよ。だからと言ってママ、ママ~! って感じではないので、それは書いておいてください。でも大好きですよ、ってことです(笑)。
僕は中学生の頃からこの仕事をしていたからか反抗期もありませんでしたし、厳しい家庭環境ではなくて、わりと放任主義。で、今こうなっています(笑)。
おばあちゃんも働いていたので家に帰ってもひとりで過ごしていたから、寂しさはどこかにあったかもしれない。かといって共働きが嫌だという思いも一切なかったです。
働いていることで子供に悪いなと思っているお母さんがいたら、子供は勝手に育つから、全然大丈夫だと思います、って伝えたいですね(笑)」

劇中では思い出の料理として混ぜごはんが登場しますが、母の味は「チキンの何か…、トマトで煮込んでいてタマネギとかが入ってるやつです。カチャトーラ、って言うんですか? 初めて知りました(笑)。家に帰ると、それを作ってほしいとリクエストします」。

「最近はちょっとさぼっているのですが、母の日や誕生日は花を贈ったり、ご飯に連れて行ったりしています」


「母は僕の基準になっている存在だと言っても仕事の相談とかをするわけではなくて、“最近、どう?”って聞くだけで何かしら話題があるから楽しいですね。
働いているから仕事の話を聞いたりもしますし、性格的にあまり似ていないからか違いがあって話していると面白いんです。
俺が家族みんなと仲がいい感じだったので、俺がいなくてもちゃんとバランスよくまわってるかな、と逆に心配になります(笑)。
もともと親には感謝しているので、ひとり暮らしをはじめてからあらためて思ったことではないのですが、何かしてほしいというよりも、いてくれるだけでいい。どんな状況でも自分が何かをしたときに喜んでくれる人がいる、ってすごいことだし、そういう意味では父にも母にも感謝していますね」

<映画紹介>
『母さんがどんなに僕を嫌いでも』

 

漫画家、小説家、エッセイストの歌川たいじの実話エッセイを映画化。主人公のタイジは、美しく、大好きだった母親・光子(吉田羊)に幼少の頃から虐待を受けて育つ。児童保護施設にまで入れられてしまうが、母親への思いは変わらない。が、17歳になったタイジは、ある日、光子から決定的な暴力と言葉を浴びせられ、家を出る。
社会人になったタイジは、幼い頃に自分を守ってくれた“婆ちゃん”との再会、心を許せる友人たちに出会い、今一度、母親と対峙することを決意する。

監督:御法川修
出演:太賀、吉田 羊、森崎ウィン、白石隼也、秋月三佳、小山春朋、斉藤陽一郎、おかやまはじめ 、木野 花
11月16日(金)より新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、 イオンシネマほか全国公開
©2018 「母さんがどんなに僕を嫌いでも」製作委員会


取材・文/細谷美香
撮影/横山順子
構成/片岡千晶(編集部)