9月21日(金)に公開される映画『食べる女』。小泉今日子、沢尻エリカ、前田敦子、広瀬アリス、山田優、壇蜜、シャーロット・ケイト・フォックス、鈴木京香ら豪華女優陣が競演するこちらの映画。原作者の筒井ともみさんが、自ら脚本・プロデュースも務めています。構想から10年、筒井さんが配給先やスポンサー探し、キャスティングまで手がけ、すべてに妥協なく大切に育て上げた作品です。
編集部:公開おめでとうございます。原作が最初に出版されたのは2007年ですよね。当時もかなり話題になり評価が高かった作品。私も大好きな本だったので、感無量です。
筒井ともみ(以下筒井):映画化の話は10年ほど前からあったの。でも、女8人の愛と性と食を描いた作品といって『SEX & THE CITY』にはしたくなかったのね。だからいったん決まりかけた配給会社とは白紙にしたこともありました。東京藝術大学・大学院で脚本家コースのゼミを持っていて忙しかったこと、また股関節を人工にする手術をしたりしたこともあって、時間がかかっちゃったのね。
編集部:人気女優の競演でもかなり話題になっていますが、キャスティングはどうやって決めたんですか?
筒井:10数年前の時から、主演を小泉今日子さんにやってもらいたいというのだけは決めてた。いろいろ紆余曲折があって、今回のカタチの脚本を書いて、まずはキョンキョンに本を見せました。それから内諾をもらって、企画書も作って、映画会社に売り込んだの。
編集部:なぜ、小泉さんを主演に、と思ったんですか。
筒井:ドラマ「センセイの鞄」でご一緒してからのお付き合いなんだけど、「いつも女優っぽくない、新しい存在になりたい」って小泉さんは言っていて。『食べる女』は「女たちのひそかなレボリューション」がテーマ。だから映画化を考えたときにも、主演は小泉さん以外に考えられなかったかな。
編集部:原作の小説『食べる女』は、いろんな女性の愛と食べることとセックスにまつわるオムニバスの物語でした。映画ではその女たちが出会い、救われたり、一緒に笑ったり。8人の女優さんたちの掛け合いも本当に楽しかったです。古書店の女主人で、文筆家のトン子(小泉今日子)とごはんや道草の女将(鈴木京香)、トン子の編集担当のドドちゃん(沢尻エリカ)のやり取りとか…。
筒井:この8人のチャーミングな女優たちがね、本当に食べっぷりがよくて。撮影では、食べるシーンのタイミングで、できたての料理を用意するようにしてたから、本当に美味しくてみんな結構ぜんぶ食べちゃってた(笑)。
女優たちとのゴハン、撮影。筒井さんが見た彼女たちの素顔とは
編集部:たくさんの魅力的な女優さんたちを、それぞれどうしてキャスティングしたのか、筒井さんから見た女優として女性としての素顔があれば、ぜひ教えて頂きたいのですが…。
筒井:素顔はあんまり知らないわよ(笑)。
編集部:ゴハンを食べに行ったりもしたんですか? たとえば前田敦子さんとか。
筒井:ええ、食べましたね。何を…そう、肉と上質なマグロの赤身、小さい手作り餃子も食べたかな。彼女は美味しいものを食べたときに「ウマい!」って言うタイプね。仕事が終わると、さっと支度して、まっすぐ早足にサングラスもかけず人ごみの中に歩いて行ける女ですね。昔から、いい女優はみんなそう。自分で荷物を持って、自分で移動する。はじめて会ったときはいい意味で「木綿の白いシミーズが似合う女だなァ」と思ったの。アナログでちゃんとしてて、どこか昭和の匂いがする。
編集部:前田さんは、今年、映画にも出演されている勝地涼さんと結婚をし、先日、妊娠していることを発表されましたね。
筒井:そうね。いろんな監督に気に入られる人ですごく忙しかったから、出産でワンクッション置いて、またこのあとさらにいい女優になると思いますよ。
編集部:ぜひ他の方についても教えて下さい…!
筒井:鈴木京香さんはね、映画『それから』(監督:森田芳光/脚本:筒井ともみ)を高校生のとき地元で観て衝撃を受けて、女優に憧れるきっかけだったと。そのあと森田芳光監督の『愛と平成の色男』のオーディションを受けてデビューした。私はそのあとの映画『119』(監督:竹中直人/脚本:筒井ともみ)でご一緒しました。真面目で、映画好きでね。先日、一緒にゴハンを食べたときは、殆どすっぴんに近い可愛い女でした。肉とか豆腐とかタンパク質が好きなんですって、言ってたかな。
沢尻さんはね、人見知りで最初はなかなか目を合わせてくれない(笑)。何回会っても、最初は人見知りなの。彼女は、最近いろんな意味で自由になったみたいね。家でもゴハンを作ってるんだけど、洋風ばかりで、和食を覚えたいって言ってました。
広瀬アリスさんは、初主演映画『巫女っちゃけん。』を観て、いい意味で男っぽいというかタフなのがいいなと。どこかプリミティブな雰囲気もあって。笑い顔が泣いているみたいなのが可愛いなと。
壇蜜さんはね、輪郭がしっとりファジーなんだけど存在感が深い、そんな雰囲気が好きです。とても頭が良い人で、ものごとをナナメに見ることもできる人。映画公開に合わせて、原作を文庫にまとめたのですが(『食べる女・決定版』新潮文庫刊)、巻末の解説は壇蜜さんにお願いしました。とても面白いのを書いてくれて。
シャーロットさんはね、日本語は話せるけど読むのは苦手なはずなのに、脚本をとても深く理解してくれた。日本語を話すブルーアイでブロンド美人の女優は日本ではまだめずらしいけれど、もっと複雑でクセのある役をやったらいい、やれると思うな。
編集部:おおお…そうなんですね…!山田優さんも大きいお腹でバーに立つ姿がかっこよくて色っぽくて好きでした。
筒井:映画に出てくるバー「ロマ」の上の支度室でふたりきりになったとき、初めてお喋りをした。とてもリラックスできて、タフで美しい女だと感じました。そのあいだにも携帯に電話がかかってきて、子どもに食べさせるのはお粥にしてと指示したり、忙しいけど楽しそうでしたね。
トン子=筒井ともみ、なんですか…?
編集部:トン子は文筆家で、猫を飼っていて、どこの国か分からない柄の羽織りとクタっとしたパンツを身につけてて、途中からこれは筒井さんなのかなと錯覚するくらい似てると思いました。
筒井:そうかな。あ、そう?
編集部:身内がいなくて天涯孤独で、でも東京のど真ん中でタンポポの綿帽子みたいにフワフワユラユラを楽しんでいるところ。いろんな年代の迷える女たちに、しょっちゅう自宅でゴハンを作ってあげているところとか、そっくりですよ(笑)!
筒井:「まあいいか」が口癖のところは同じね。何かあっても、食べて飲んで寝ちまえばいいかと。抱え込まないのね。人生、いいお天気ばかりじゃつまらない。痛いこと、寂しいこと、やるせないことがたくさんあってこそだけど、そのことはいつか自分を励ましてくれる経験にもなりますから。
大切なのは「ささやかな自由とひそかなプライド」
編集部:映画の「おいしい女になろう。おいしい男を育てよう」って、いいコピーですね。
筒井:男が元気がないなら、女が元気になって男を育ててあげればいいじゃないかと思ってるんですよ。
編集部:「おいしい女になって“私”を味わい尽くそう」というコピーもありましたね。
筒井:私はずっと「美味しいゴハンと愛しいセックスがあれば世界はもっとタフで優しくなる」と言ってきました。セックスは相手が必要だけどね。でも、ゴハンは毎日食べるでしょう(笑)。難しい料理である必要はないんです。劇中にあるように、卵かけご飯でもいいし、アスパラを茹でて卵の黄身につけて食べるだけでもいい。「自分が何を食べたいのかが分からない」というのは問題だなと思います。子どもや夫が食べたいものを作ってあげるのもいいけど、自分自身がいま何を食べたいかをちゃんと感じられるようだといいですね。
編集部:自由に生きるって案外難しいですよね。真面目な人ほど、自分を棚上げして役割を生きてしまう。でも映画を見ると、自分の五感に蓋をせずに生きたいなという気持ちになりました。まずは食べることからですね!小泉さんも、完成披露試写の最後に「女たちよ、美味しいものを食べて頑張りましょう〜!」と高らかに宣言してましたし(笑)。
筒井:人は、ささやかな自由とひそやかなプライドがあれば、その人らしく生きていけると思う。女たちが食べることでそれを取り戻したら、レボリューションだと。この映画で言いたかったのはそういうことなんです。
〜つづく〜
いかがでしたか? インタビューの続きは、9月22日(土)公開予定です。筒井さんの新刊『いとしい人と、おいしい食卓〜「食べる女」のレシピ46』について、また本で紹介されているレシピについてもご紹介する予定です。お楽しみに!
<イベント告知>
映画『食べる女』公開記念
おいしいレシピとおいしいトーク
①書籍『いとしい人と、おいしい食卓 「食べる女」のレシピ46』付イベント参加券(税込1,620円)もしくは、②書籍『食べる女・決定版』付イベント参加券(税込680円)を購入すると、筒井ともみさんのトークイベントに参加できます。めったに登壇しない筒井ともみさんの肉声を聞けるほか、筒井さんが自ら作る料理3品の味見ができます!!ぜひふるってご参加ください!
日程:2018年9月20日(木) 19:30~20:30(開場19:15)
場所:二子玉川 蔦屋家電 2階 ダイニング
定員:30名
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<新刊紹介>
『いとしい人と、おいしい食卓 「食べる女」のレシピ46』
筒井 ともみ 著 ¥1500(税別) 講談社
9月21日に公開される映画『食べる女』の企画、原作、脚本、プロデュースを手がけた作家の筒井ともみさんが、映画の公開を記念して映画に登場する料理を含むとっておきのレシピを紹介。すべての年代の女たちへの愛情溢れる珠玉のエッセイもあり。食べることと愛すること。これを読めば、筒井さんが映画を通じてどうしても伝えたかったメッセージがきっと分かるはず。各界の食通をその手料理で長年唸らせてきた筒井さんがはじめてそのレシピを公開したことでも注目される一冊。これさえあれば一生食べて(生きて)いける!
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