「これから」の社会がどうなっていくのか、100年時代を生き抜く私たちは、どう向き合っていくのか。思考の羅針盤ともなる「教養」を、講談社のウェブメディア 現代ビジネスの記事から毎回ピックアップする連載。
今回は『「育休世代」のジレンマ 女性活用はなぜ失敗するのか?』でお馴染みの中野円佳さんが、「働く女性は職場で何を着るべきか」問題について執筆した記事をお届けします。

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ここ数年でクールビズが浸透し、ネクタイをしている人を見かけることはだいぶ減ってきたのではないか。が、それでもワイシャツのボタンをしめ、時にスーツを羽織っている日本のビジネスマンたちにとってこの「制服」は時に苦痛だろう。

女性は男性に比べれば、職場でも服装の自由が許されている面がある。しかし、それゆえに働く女性が何を着るべきか問題は時に本人にとっても周囲にとってもストレスになる。

 

 

試着室で、泣き出す女性たち


地方の信用金庫に総合職として勤めるヒカリさん(20代後半、仮名)は、学生時代にアパレル店舗でアルバイトをしていたという。

「お客さんに1人ひとりついて回るんですけど、OLの方が泣くんですよ。フィッティングルームで2人になるじゃないですか。そこでいろいろ着ていただいて、誉めるんです。そうすると、『会社で服装について上司にけちょんけちょんに言われて辛いから来ました』と言って突然泣き始める」

「上司に女性向けファッション誌の『VERY』を見せられて、『こういう恰好したらいいんだよ』と言われた、とその雑誌を持ってくる。当時大学生のわたしは『えっ? それは頭に来るだろうな』と思いつつ、じゃあ同じコーディネートにしますかと聞くと、『上司にいわれて買ったみたいなのは嫌なので、他のにします』と」

職場での服装は難しい。こうした事例に遭遇したのは、1人や2人ではないという。ヒカリさん自身が働き出してからも、女性が外見について指摘される場面に違和感を覚えた。

「営業だと男性的側面が求められます。でも上司から『女性らしくしていないからダメなんだ』とか言われるんです。うつ病になっちゃった後輩女性がいるんですけど、彼女は外見を気にしすぎて、休憩時間にリキッドファンデーションを上から塗りなおしたり、休み時間に髪の毛を巻き直したりとかしてて。朝もごはんを食べる時間を削ってメイクしてると言っていました」

そもそも女性にとって、外回りの営業や長時間労働は体力的にきついと感じる場合が多い。それに加えて、メイクや髪型に時間を割いていれば、睡眠時間は男性よりも少なくなる。

 

全身ユニクロで固める女性たち


働く女性たちは、女性らしい服装、女性らしい外見を求められ、それに邁進していく。何を女性らしいと捉えるかは人によると思うが、外見に気を遣おうとし始めると、今度は立ちはだかるのが「同性の目」だ。

信用金庫に勤めるヒカリさんの職場では、基本は出社してから制服に着替えるというが、家から着てくる私服について「ブランドもの着ていると一般職のお姉さんからチクチク言われるから、家がお金持ちなのに、必ず全身ユニクロという子もいました」という。この働く女性の「全身ユニクロ現象」は、私も事例を知っている。

東大卒でメディア系企業に勤めるアイリさん(20代前半、仮名)も、基本的にユニクロの無地で固めている。

若手で仕事量が尋常ではなく、男性たちからのいじりも多い。そんな中で、「女の先輩に目をつけられたら終わりなんで。一度模様が入ったパンツを履いていたら『何おしゃれしてんの』みたいなこと言われて、それもユニクロだったんですけど……それ以降無地しか着ません。大人しい恰好で目を付けられないように」

アイリさんの場合は職場で『女性らしくしろ』とは言われないという。しかし、かえって女性らしさを出せないと感じる。

もともとカワイイ服も好きだし、おしゃれに興味はあるほうだ。女子校出身でサバサバ言いたいことを言うタイプだったが「それと女らしさは両立すると思うんですが、捨てたつもりもないのに、いつのまにか女捨ててるキャラになってました」と語る。

「自分で選んだ道ではあるものの、一般職の子はキラキラしてて17時とかに帰って、可愛くしてるんですよね。自分は徹夜明けで化粧とかもしてないわけで」と語る。「『目、開いてないけど大丈夫?』とか言われて『一応これでも目開けてるんです、大きさの問題です』とか言って……女性としての尊厳を失っています……」

「尊厳」という言葉が重い。

 

 

プライベートをいじられる


さらに追い打ちをかけるのが、プライベートに結び付けたいじりだ。

「女捨ててるキャラみたいにいじれらて、『東大卒だと彼氏の選択肢がないね』とか『男の方が引く』とか、私はそんなこと思ってなくても言われて。いい大学入っただけなのに、何がいけなかったんだろうと思いますよね。でもあまりにも忙しくて私生活も何もないと、自分でもたまにこれでいいのかなって思います」とアイリさん。

冒頭のヒカリさんも、別の総合職女性について次のように語る。

「もう1人の後輩もすごく美人なんですけど、自分に自信がなくて。仕事で評価して欲しいけど、まわりからは『女性らしく』みたいなことをすごく言われるので、『結局彼氏がいない自分なんて女性としてだめなんだ』っていう感じで。『女として自分は欠陥品じゃないかと感じるんですけど』と言ってましたね。仕事のストレスに加えて女性らしさまで求められると、メンタルに支障をきたすんだと思います」


一方で女性らしさを求められ、一方では女性らしさを禁止され、女性らしさを出さずにいれば、それをネタにいじられる。これにプライベートやライフイベントに関するいじりを絡められてしまうから、人生そのものへの自信を失わせ、女性への傷を深くする。

ミナミさん(20代前半、仮名)は1つの職場で、矛盾したことを指摘され、混乱していた。新卒1年目で服装自由の会社で働いていたものの、女性ファッション誌『CanCam』に載るような、若い人向けの服を着ていると「色気づいてる」などと言われ、カジュアルな恰好をしていると「今日は地味だね」、仕事が忙しく服装に気を遣う余裕がなくなると、「気分が服装に出るね」と言われる。

どう返していいかわからずにニコニコしていたが、朝服を選ぶときに思い出し、知らず知らずのうちにストレスを抱えていた。上司から適切な指導を得られないと感じることが多かったこともあり、産業医から「過度な不安、過度な緊張状態で自分に自信をなくしている」と指摘されるまでに至り、休職することになった。

「そういういじりを気にしない人もいるじゃないですか。わたしもそうだったらよかったのかなって。むしろ男性の輪にハブられず入れてうれしいみたいな人。軽いコミュニケーションとしてかわせればよかったのかなって」。ミナミさんはひたすら自分を責める。

男性よりも自由な服装がしやすい反面、スーツの男性が多い職場では悪目立ちもしてしまう女性の服装や外見。男性も自由な服装をしていたり、女性の数も多かったり、あるいはそもそも肌の色や髪の色、バックグラウンドのカルチャーが多様であったりすれば、服装1つでこんなに悩むことはないのかもしれない。しかし日本のモノカルチャー企業で、「職場で何を着るか問題」は結構悩ましい。

 
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