ミモレの美容のお悩み相談コーナーでもおなじみのビューティエディター松本千登世さんの最新刊『もう一度大人磨き 綺麗を開く毎日のレッスン76』が発売になりました。53歳とは思えない透明感と可憐さで、会う人を必ずトリコにしてしまう彼女が考える、大人の女性にしか出せない美しさとは。歳を重ねることで生まれるエレガンスとその引き出し方について、3回連載でお届けします。


「どう見えるか」から 「どうあるか」へ

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あるパリマダムにインタビューしたときのことです。「ラグジュアリーの定義とは?」との問いかけに、「私には決められないわ。答えは、それぞれの人の心にあるんだもの」。今という時代、ブランドのバッグや高級なジュエリーなど目に見える「モノ」でも、着飾って高級レストランに行く「コト」でもないでしょう? と彼女は言いました。むしろ、モノやコトの贅沢さを味わい尽くしたからこそ見えてきた「何か」がある、と。「その人がラグジュアリーと感じる時間や空間、その『体験』が真のラグジュアリーなんじゃないかしら?」。  

かつてモノやコトがその定義でした。でも、時代が進化し、「便利」や「情報」というメリットを手に入れると同時に、それ以上の「多忙」や「ストレス」というデメリットを背負い込んだ今、私たちはモノやコトでは満たされないと気づいたのだと思います。その気づきが「どう見えるか」から「どうあるか」に意識や価値観をシフトさせたのです。こうして行き着いたのがまったく新しいラグジュアリー。いいえ、冒頭の女性が言うところの、真のラグジュアリー。  

たとえば、それは、綿密に計画して出かける特別なヴァカンスというより、ふと思い立って車を飛ばし、海辺で過ごす週末。いや、日曜日に電車やバスを乗り継いで、緑の中の美術館やギャラリーへと出かけたり、水曜日に少しだけ早起きをして、散歩がてら公園近くのパン屋を訪れたり……。そんな何気ない日常でいいのだと思います。五感すべてが、穏やかな風、光、空に包まれ、自分自身が自然に溶け込む一瞬一瞬が、このうえなく愛おしくなるような。そう、時間ごと、空間ごと、記憶に刻まれていく体験……。


華の正体は
「見た目」ではなく「空気」


若いころ、大きく黒目がちな目こそが華、そう信じていました。抜けるような白い肌や、艶やかで豊かなロングヘア、遠目に目立つ八頭身が華、と感じていたこともあります。つまり、華は「生まれつきの才能」。だから、後天的に簡単には変えられないもの……。心のどこかでそう思って、諦めていました。でも、年齢を重ねるにつれ、次第に、そんな表面的なことでは説明がつかないと気づかされたんです。華とは、「見た目」というより「空気」。もっと奥の奥から溢れ出す何か。大人になるほどに育まれる何か……。

「何か」の正体を知りたくて、男女も年齢も問わず、まわりの人たちに「華って?」と問いかけてみました。私自身、過去の過去まで遡って、華のある人を具体的に思い浮かべながら。そして、さまざまな答えから見えてきた共通点。まずひとつは、誰かを前にしたとき、相手にまっすぐにピュアな目を向け、今、あなたと関わりたいという「意志」を感じさせること。次に、関わった人に深く温かいエネルギーを与えるだけの「生命力」があること。加えて、エネルギーを与えた人の心に、じんわりと刻まれるような「気配」を残すこと。意志×生命力×気配。それが、華の正体だと。  

もしそうだとしたなら、華は「美容」でも作れるはず。たとえば、意志を作るのは、地道に重ねるアイケアや計算し尽くされたアイメイク。相手の目をまっすぐに見つめられるだけの自信を仕込むことが、結果、奥から光を放つ瞳につながります。生命力は、何といっても、肌の艶、ハリ、血色に宿る。毎日、よく食べ、よく寝て、よく笑い、よく動く……。そんな健やかで幸せな生き方が透けて見えるような肌色や質感を、毎日のスキンケアでせっせと作ること。そして、ずーっと相手の心に残る気配とは、まさに「いい匂い」なのだと思います。愛する香りと長くつき合って、いつでもどこでも存在ごと静かに香らせ続けることが気配りを作るのです。  

そう、華のある大人は、空気が目に見える「努力」をしている人。丁寧に生きる毎日を重ねている人……。

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<新刊紹介>
『もう一度大人磨き 綺麗を開く毎日のレッスン76』

著者  松本 千登世 講談社 1200円(税別)

読むほどに「女」修行!
若さの代わりになにを豊かにするのか?

ビューティジャーナリストとして、様々な女性誌でエッセイの連載を担当するのはもちろん、自身の魅力に迫る特集が組まれるほど。「女性の若さ」が優位されがちな日本で、早くから、歳を重ねて生まれるエレガンスを、それを生み出すテクニック&心持ちをエッセイとして発表してきました。日々の何気ない気づき、習慣、美容タイムから、眠れる”大人美”を育てるためのヒントが満載。


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撮影/目黒智子
協力/藤本容子
構成/川端里恵(編集部)