毎回、各業界の識者やコラムニスト、世界のニュース記事による、ミモレ世代が知っておきたい記事をお届けする新カテゴリー「社会の今、未来の私」。今回は、『「これから」をときほぐす教養 from 現代ビジネス』の記事でお馴染みの経済評論家の加谷珪一さんの予想する「家庭料理の未来」についての記事をお届けします。
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このところウーバーイーツ楽びんなど外食デリバリーのサービスを利用する人が増えています。背景にあるのは社会のIT化に伴うビジネス・スタイルの変化です。また、ウーバーイーツは、デリバリー専門の飲食店を簡単に開業できるサービスの提供についても検討を開始しています。今後はデリバリーを使って家で食事を楽しむのはもちろんのこと、得意の料理をネットで売る人が増えてくるかもしれません。

ウーバーイーツが東京で外食のデリバリー・サービスをスタートさせたのは2016年のことですが、2018年に入って大阪や京都などサービス提供地域が拡大しています。誰もが利用しているというほどの状況ではありませんが、サービス提供地域における知名度は着実に上がっています。

先行している米国市場では、デリバリー・サービスの普及によって、人々の生活が大きく変わりました。数年前までは、日本と同様、お昼時に連れ立ってランチにいく人が多かったのですが、デリバリーを頼む人が増えたことで、レストランの中には廃業に追い込まるところも出てきています。

 

友人との会食も、レストランやバーではなく、誰かの家に集まり、デリバリーを使って料理を楽しむというパターンが増えているそうです。こうした状況を受けて、米国の外食産業各社はデリバリーへの対応を急ピッチで進めています。

背景にあるのはIT化の進展によるビジネス・スタイルの変化です。日本と比較した場合、欧米企業はもともと個人完結型の業務が多いという特徴がありましたが、スマホをベースにした近年のITシステムの普及はこの傾向にさらに拍車をかけたといわれています。

日本でも働き方改革が叫ばれていますが、顔を突き合わせて長時間残業するという従来のビジネス・スタイルは徐々に過去のものとなりつつあります。事情は少々異なりますが、中国ではネットのデリバリーがすでにかなりの普及を見せていますから、社会のネット化が進展するとデリバリーが増えるというのは万国共通の現象と考えてよさそうです。この流れは確実に日本にも波及してくるでしょう。

ウーバーは単にデリバリーのサービスを拡大するだけでなく、さらに興味深い事業についても検討を開始しています。それはデリバリー専門の飲食店支援です。
 
詳細はまだ明らかではありませんが、ウーバーがセントラル・キッチンなどを用意し、飲食店を開業したい人に格安で貸し出すような事業形態と考えられます。諸外国では、ウーバー以外にもこうした支援ビジネスがいくつか立ち上がっており、もしかすると今後、大きな流れとなる可能性があります。

これまで飲食店の経営のカギを握るのは立地でした。

よい場所に店舗がないと来客数が確保できないため、事業者は多額のコストをかけて人通りの多い場所に出店していました。コストが高いと、利益を出すためにさらに多くの来客数が必要となりますから、ニッチな料理は敬遠され、マス向けのお店ばかりになってしまいます。
 
しかしデリバリーだけで営業するという形であれば、こうした制約から解放されますから、個性的なお店が多数、登場すると言われています。

 

もしこの動きが拡大すれば、たくさんの料理を堪能できるようになるのはもちろんのこと、一部の人にとっては有益なビジネスチャンスとなるでしょう。

読者の皆さんの中にも料理が得意という人は多いと思いますが、いくら料理が得意でも、よほどの資金がない限り、自分でお店を持つのは困難でした。しかしデリバリー専門であれば、自分の体ひとつで、お店を開業できてしまいます。場合によっては営業時間を限定し、副業として飲食店を営むことも不可能ではないでしょう。

ウーバーなどの事業者が、こうした支援ビジネスを展開するためには、食品衛生法などにもとづく各種規制をクリアする必要がありますから、実現はそう簡単ではないかもしれません。しかし、自分が得意とする料理をネットのデリバリーを通じて多くの人に食べてもらうという時代は、もうすぐそこまで来ています。

(この記事は2018年10月6日時点の情報です)