「スキルって『陳腐化』するんですよ」

数年前にとある会合でご一緒した、キャリア論が専門の大学教授の方の言葉です。この言葉を聞いたとき、わけもなくドキっとして・・・だからこそ今でも鮮明に覚えています。

「今は時代の流れが速いから、獲得した知識やスキルって10年も持たないかもしれない」と続けてお話しされていました。

今回の連載テーマは「100年時代のキャリアデザイン」。寿命が長くなるほど、私たちの「働く期間」は長くなります。

 

65歳で引退して、100歳まで生きるとしたら・・・引退後の人生が実に35年!?それだけの長い期間を、65歳までの貯蓄と年金だけで生き延びるのは現実的ではないし(貯めなきゃいけない金額が大変なことになっちゃいます!)、70歳あるいは75歳くらいまで可能な限りゆるやかに働いたほうが人生の選択肢が広がる・・・そんな時代に私たちは生きています。

だからこそ、その都度、必要な知識やスキルをインプットして、自分自身を「アップデートしていく」ことが求められるんですね。なぜなら、冒頭の言葉の通り、せっかく獲得したスキルも知識も時間が経てば「陳腐化」してしまうから。

大学院で学ぶもよし、何らかの新たなスキルを身に着ける講座や資格受講をするのもよし、この先10年、20年を見据えたうえでの「大人の学び直し」が私たちには必要なのだと思います。

でも「学び直す」にもけっこう勇気が必要で。お金はかかりますし、時間も確保しなくちゃいけないし、場合によっては家族や周囲の理解も必要だし・・・でも、そういう「リスク」をしっかりとって学んでいくこと。それが今、求められているんですね。

周囲に最近、「学び直し」をしている40代女性が増えているのですが、まさにみんなそういう危機意識にも似た想いでチャレンジしてるのだな、と。かくいう私も40歳を迎え、なんだか30代前半までのスキル・経験でここ数年生きてきた気がしていて・・・「学ぶ勇気」を持たないと!と思っているところです。

 

一方で、年齢を重ねながら生き生き働いている女性って、「アンラーニング」も上手なんです。「アンラーニング(unlearning)」は、日本語だと「学習棄却」とか「学びほぐし」などと訳されます。これまで学習してきた知識や価値観を意識的に「手放す」ことを指します。

例えば私たちの会社で30代40代の「駐妻」の方が次々に再就職を決めていらっしゃるんです。「駐妻」とはパートナーの海外赴任や海外留学に帯同する女性たちのこと。その多くは仕事を辞めて同行する場合が一般的です。離職期間は数年から10年以上におよぶ方も。

年齢を重ねていて、かつ離職期間もそれだけ長い方々が再就職を決めるのは一般的には難しい印象がありますよね?そんな彼女たちの再就職の決定要因の一つが「アンラーニングの力」だと私たちは考えています。

30代40代の中途採用市場では新しい環境へ飛び込んで能力発揮できる柔軟性や臨機応変さが求められます。駐妻の方々は突然のパートナーの転勤や留学により未知の環境に飛び込んで、ゼロから生活を創り上げてきた経験を持っています。

そこでは意識的あるいは無意識的に「アンラーニング=これまで知識や価値観を手放す」ことの連続だったはずです。

年齢を重ねるにつれて、「こうするべき」「これはこういうものなのだ」といった固定化した知識・価値観が増えていくのは仕方のないこと。でも、そういうものを必要に応じて手放していく柔軟さ、それも幸せに生き生き働く秘訣なのだと感じます。

学ぼうと言ったり、学ばないと言ったり、いったいどっちが大切なの・・・?と混乱してしまった方もいるかもしれませんが、それもバランスということで。「学ぶこと」そして「手放すこと」。年齢を重ねてきた今だからこそ、一緒に意識していきませんか?