現在、日本は空前の人手不足となっています。本来であれば、企業は人員の確保を最優先しますから給料も上がっていくはずです。ところが、人手不足が深刻になっているにもかかわらず、私たちの給料はあまり上がっていません。なぜこのようなことが起きるのでしょうか。

給料がなかなか上がらない理由を探るためには、そもそも人手不足が何によって引き起こされているのかについて知っておく必要があります。


一般的に人手不足は景気がよい時に発生します。

景気が過熱すると、企業には多くの注文が寄せられますから、同じ人数ではその注文をさばき切れなくなります。各企業は優秀な人材を確保しようと躍起になりますし、他社に社員を奪われないよう警戒しますから給料は上がっていきます。

しかし、今の日本で発生している人手不足は好景気ではなく、まったく別のメカニズムによってもたらされています。それは若年層人口の減少と企業の過剰雇用です。

今後、日本では総人口の減少が本格化しますが、過去10年の人口はほぼ横ばいに近い状態でした。しかし人口が変わらなくても高齢化は進んでいましたから、若年層の人口は減る一方でした。過去10年間で35歳以下の労働者の数は17%も減少しているのです。

外食産業や小売店など企業の現場では若い労働力が必要となりますが、彼等の絶対数が2割近く減ってしまったわけですから、企業が人の確保に苦労するのは当然の結果といってよいでしょう。しかし、社会全体で見ると、多くの日本企業はまだまだ過剰な人材を抱えています。

特定の層を名指しにするのはあまりよいことではありませんが、いわゆる「働かないオジサン」に代表される、社内では仕事を見つけ出せない人が多数、在籍しているのです。

高い年齢に達した社員の場合、簡単に配置転換することはできませんし、ほとんど企業が年功序列の賃金体系ですから、高額の給料を払い続けなければなりません。こうした負担が経営の重荷となっており、社員の昇給にお金が回らないというのが現実なのです。

先進諸外国の賃金は、同じ仕事でも日本より高いというケースがほとんどですが、最大の理由は企業が余剰人員を抱えていないからです。日本においても、転職をもっと活発にし、雇用を流動化すれば、あっと言う間に給料は跳ね上がるでしょう。しかしながら雇用を流動化してしまうと、失業する人が増えるという問題が発生します。

日本企業の多くは正社員の雇用を守ることを最優先しており、結果として企業は過剰雇用を解消できません。この過剰雇用こそが、賃金が上がらない最大の理由となっているのです。

筆者はこうした日本の雇用システムについて、そろそろ見直す必要があると考えています。

今後、日本では総人口の減少が顕著となりますから、人手不足はますます激しくなってきます。逆に考えれば、仕事を探しても見つからないという事態は想定しにくいと考えてよいでしょう。つまり日本では失業が長期化するリスクは小さいわけです。

 

一方、仕事を何度か変えることは、個人のキャリア形成にとって大きな効果をもたらします。筆者自身もサラリーマン時代に1度、その後、独立してからは仕事内容を2度、変えていますから、合計で4つの仕事を経験しました。

仕事を変えると、それだけで大きな刺激になりますし、何より以前の仕事の知識を活かして、新しい仕事を生み出すことができますから、転職は想像以上の効果を発揮します。転職者を受け入れた職場も、異なるカルチャーの人材が入ってくることで、雰囲気が活性化するでしょう。

皆がもう少し転職について前向きになり、積極的に仕事を変えていくようになれば、労働市場が活性化し、適材適所で人が働けるようになります。人材の偏りや過剰雇用がなくなり、社会全体の生産性が向上します。

経済学的に少し難しい話をすると、労働者の賃金は社会全体の生産性で決まりますから、転職が活発になって生産性が向上すれば、必然的に給料も上がってくるわけです。

人生において複数のキャリアを経験することは、長寿社会においても大きな意味を持っています。

日本の年金財政は赤字が続いており、政府は生涯労働の機会を保障する代わりに、年金の支給開始年齢を遅らせる措置を検討しています。つまり、これからは一生涯、働き続けることが標準となるわけですが、ずっと働くのであれば、「好きなことを仕事にする」というのもひとつの選択肢となるかもしれません。

自分にとって本当に好きなことが何なのか、簡単には分かりませんから、その点でも、複数の仕事を経験することは重要です。皆が転職するだけで、問題がすべて解決するわけではありませんが、各人のちょっとした価値観の転換によって、経済や社会の仕組みは大きく変わってくるのです。

(この記事は2018年10月27日時点の情報です)