三省堂書店・神保町本店2階の文庫本コーナーで働く新井見枝香さん。作家とのトークイベント「新井ナイト」や、芥川賞・直木賞と同時に発表する独自の文学賞「新井賞」などで注目を集める書店員です。10月には出版業界の専門紙「新文化」の連載コラムを一冊にまとめた『本屋の新井』も発売。そんな新井さんに本の価値や、本との距離感についてお話をお伺いしてみました。

新井見枝香 1980年、東京都生まれ。アルバイトで三省堂書店に勤務し、契約社員の数年を経て、現在は神保町本店の文庫を担当。文芸書担当が長く、作家を招いて自らが聞き手を務める「新井ナイト」など、開催したイベントは300回を超える。独自に設立した文学賞「新井賞」は、同時に発表される芥川賞・直木賞より売れることもある。出版業界の専門紙「新文化」にコラム連載を持ち、文庫解説や帯コメントなどの依頼も多い。テレビやラジオの出演も多数。https://twitter.com/honya_arai


本は日用品。
書店になければAmazonで買えばいい。


新刊『本屋の新井』の帯には、こんな言葉が書かれています。

本は日用品です。
だから毎日売ってます。
わさわさっと選んでレジにどん。それでいい。

「はじめて働いた三省堂書店有楽町店は、ものすごくたくさん本が売れる店でした。レジもテニスみたいにひたすら打ち返す打ち返す(笑)。本っていうと文芸書とか、熱い思いがこもった一冊などを思い浮かべるかもしれませんが、資格試験の本や時刻表、辞書みたいに必要にかられて買うような、本と意識されていないような本がいっぱいあって、むしろそっちの方が本屋の売り上げを支えています」

もちろん、新井さんは本が大好きで、手元に置いておきたいような大切な本もあることには変わりません。ただ、ことさらに本を特別視しがちなところには、かすかな違和感を感じています。

「一冊の本に対する思い入れが強いなら、選書にこだわる書店に行って、店主と話をしながら本を探すのもいい。でも、本にはぱぱっと日用品のように買うような側面もあると思うんです」

近年では街の書店よりもAmazonに代表されるようなネット書店で本を買う人も増えています。駅前の小さな書店のみならず、大型書店も突然閉店してしまうような今、大型書店で働く新井さんはどう思っているのでしょうか?

「私自身、Amazonをすごく使ってます。うちの書店でも目当ての本が売り切れていた時に、最後の台詞で『じゃあAmazonで買うわ』と言われることもあります。書店側の中には、こういうことを言われたくないと思っている人もいるようですが、それは大きな間違いだと言いたいですね。書店とネット書店がvs.の関係性だと、どちらかが負けることになるからです」

ある本を探していた人が、街の書店で品切れだったためにAmazonで買ったとします。それでも、その人は目当ての本を買えたのだから満足なはず。このような恩恵は誰もが受けたことがあるはずだし、Amazonがきっかけで別の本に興味を持つこともあるかもしれないから、と新井さんは考えています。

「書店だってAmazonで急に売り上げが伸びた本があれば、それを見て『注文しなきゃ』と思ったりするわけです。vs.じゃなくて、持ちつ持たれつでいいんじゃないでしょうか」


本を読んでいないことは恥ずかしいことじゃない。
読みたくなったら読めばいい。


『本屋の新井』を読んでいると、今度はこんな一文を見つけました。

インタビューに限らず、商談で、飲み会で、腐る程されてきた質問がある。それなのに、今になってもまだ、うまく答えることができない。

ひと月に何冊くらい読むんですか?

1冊なのか100冊なのか、わからない。ひと月につぶグミを何粒口に入れるのかわからないくらいわからない。

新井さんに改めて同じ質問してみました。

「実は最近、そんなに読んでいません。それに急いで読むのをやめたんです。他にもいろいろ趣味がありますから」

かつては文芸書担当の書店員として、いろんな作家の作品を自転車操業のように読み続けていた時期もあったと振り返ります。それはそれで楽しかったものの、それなりに経験を積んだ今、「もうそこまでしなくてもいいかな」と感じているそう。むしろ、自分が本当に好きな本や読みたい本にこそ時間を割き、ライブに行くなど読書以外の時間も大切にしているといいます。

「『最近、全然本を読めていなくて……』と恥ずかしがる人がいるんですけど、別に読まなくてもよくない? って思うんですよ。読まないことは恥ずかしいことでもだめなことでもない。読みたくない時は無理しなくていいし、読みたくなったら読めばいい。栄養分と一緒で、自分が欲した時の気持ちに従えばいいんじゃないでしょうか」

また、新井さんは本に限らず、「楽しいことをするためにお金を使うことをわかっていないか、忘れてしまっている人が多い」と感じているそう。対象が作家でもミュージシャンでも、彼らが創り出した本やCD、ライブに対してお金を使わない人が増えれば、活動を継続することがままならなくなるのは、少し想像力を働かせればわかること。

「本当に好きになったら応援したくなるものです。お金を出して楽しんだものと、出さずに楽しんだものは明らかに違いますから。もしも、その違いを知らないのだとすれば、もったいないなとは思います」

本は日用品のようなものであり、本を読んでいなくても別にいい。自分が読みたいと思うようになった時に読めばいいし、好きな作家ができれば、お金を出して応援する――。新井さんの淡々とした口調で語られる、これらの考え方には、はっと気付かされることばかり。『本屋の新井』に収録されている数々のエッセイにも、そんな気付きがたくさん詰まっています。本が大好きな人も、最近本から遠ざかっている人にもおすすめの一冊です。

 

『本屋の新井』

新井 見枝香 著 ¥1300(税別) 講談社

本は日用品。だから毎日売ってます――。
ときに芥川賞・直木賞よりも売れる「新井賞」の設立者。『探してるものはそう遠くはないのかもしれない』(秀和システム)も大好評の型破り書店員・新井見枝香による”本屋にまつわる”エッセイ集!
「新文化」連載エッセイ「こじらせ系独身女子の新井ですが」に加え、noteの人気記事、さらには書き下ろしも。装幀、カバーイラスト、挿絵は寄藤文平!

取材・文/吉川明子 
撮影・構成/川端里恵(編集部)

 

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