「読むと誰かに話したくなる本」2018年No.1小説!と編集バタやんが独断で認定したのが姫野カオルコさんの『彼女は頭が悪いから』。決して読後感の良い本ではなく、いいようのないモヤモヤが残る小説なのです。だからこそ、このモヤモヤした気持ちはなぜなのか、みなさんと分かち合いたいとオンライン読書会を開催いたします。下記より動画配信! みなさまのご感想もお待ちしております。

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第2回「バタやんのインスタ読書会」のゲストにお招きしたのは、『彼女は頭が悪いから』の姫野カオルコさん執筆時の担当編集である文藝春秋のノンフィクション出版部担当局次長・島田真(しまだまこと)さんと、ミモレ連載「世の常識に、ひざカックン」でお馴染みのライター渥美志保さん。

『彼女は頭が悪いから』のモチーフとなった「東大生集団わいせつ事件」から、福田元財務事務次官のセクハラ、伊藤詩織さん、ハーヴェイ・ワインスタイン事件まで、近年のセクハラ、#MeToo問題についても語ります! 下記のトーク収録動画でぜひご覧ください。
 

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非道な事件の根底にあるエリート男子たちの「情緒感の欠如」


この作品は2016年に起こった実際の事件「東大生集団わいせつ事件」を元にしたフィクションです。東大生5人が酒に酔った同年代の女の子を裸にし、カップラーメンをこぼすなどといった恥辱的でわいせつな行為をしたとして逮捕され、その非道な行為に世間の注目が集まりました。小説では、実際の事件をモチーフにしながら、あくまでフィクションとして、被害者になった神立美咲ちゃんと加害者の一人つばさ君を中心に、その成長過程から事件、事件後を描いています。

バタやん:私はこの本、渥美さんに絶対読んだほうがいいとすすめられて読んだんです。旅行に持って行ったのですが、雨だったのもあって、夫を放置して一気に読んでしまった。読むのを途中でやめられない小説でした。こちらの作品が生まれた経緯をぜひ島田さんに伺いたいと思います。

島田もともとは小説にするつもりではなくて、この事件報道があって姫野さんが「真ちゃん、これどう思うの?」って電話をしてきたんです。姫野さんは裁判の傍聴にも通ったりして「この事件は何か特別なものだと思う」と異常な関心を寄せていました。実は当時は『オール讀物』に共学に通う男女関係の小説を書いていたのですが、それを書籍化へまとめているうちに、何か違う(今はこちらではないかも)と思ったらしく、『彼女は〜』の元になるものを書いて持ってらした。

渥美私は、新潮社で小島慶子さんの取材をした際に「これは絶対読んだ方がいい」と勧められたんです。ちょうど「財務事務次官のセクハラ事件」があったタイミングで、相手(女性)を人間とも思っていないところに気持ち悪さを感じました。「それは変でしょ」と思うこちら側と「何が変なの?」と思う側の埋めがたい断絶。それがなんなのか、この本を読んで少しわかった気がしました。財務事務次官になるようなエリートがどうしてそうなってしまうのかを、姫野さんなりの解釈として「情緒感の欠如」と描かれていました。

バタやん:本の中には「得にならない感情を持たない」「感情を見ない技術を体得していた」と表現されていますね。

渥美訓練によって感情をツルツルにしていった感じ。受験のテクニックに飛びつくまでのモヤモヤや、失敗した時のモヤモヤが「情緒を育む」のだと思うけれど、なんのためにと疑問をもたないで邁進できる能力が、情緒をはしょってしまうんでしょうね。

自分で動画のテロップ入れをして、次回はもうちょっと上手く話を回せるように精進しようと思いました(バタ)


女性は女性を責め、男性は男性にNOと言えない


バタやん:この作品の見どころ(というか辛いところ)の一つは、事件後、被害にあった美咲ちゃんのほうが世間からバッシングを受けるんですよね。

島田そう、それは実際の事件後もそうだった。

渥美「君だって悪かった」「尻軽オンナ」「将来ある東大生をダメにした」……というようなね。

バタやん:福田財務事務次官のセクハラ問題のときにも、メディアに働く女性たちから#MeTooはあまり出てこなかったんですよね。「私たちだってそのくらいのこと我慢してきた」「上手くやってきた」と。

渥美そう、私もある人から「私も若い頃は部長とチーク踊ったわ」と言われたんだけど、それ、絶対言っちゃだめなやつだから!(認めるようなこと)二度と言わないでと言ったんですよ。島田さんは男性からみてこの『彼女は頭が悪いから』はどう思われましたか?

島田どえらい素晴らしいものだ!というのがまずひとつ。そして、本当に嫌な気持ちにさせられます。嫌な気持ちにさせられるんだけど、絶対に自分にもどこかあるよな、と思わされるんです。クラスや合コンで女子の品評をしたり、順位をつけたり……。姫野さんらしいなと思ったのは、この作品が「ノンジャンル」であること。サスペンスであり、ミステリーであり、恋愛小説であり……なにジャンルとくくれない。

渥美そうですね。「ミラー小説」と言われる通り、この小説に自分を見ない人はいない。

島田美咲ちゃんのことも、最初に読んだときは、純朴で、決して裕福ではないけれど、よい家族に育てられたいい子という印象だったんだけど、何度か読むと、何か物足りなさを感じる。姫野さんを取材に来た女性の編集者やライターさんは、「彼女とは絶対友だちにならない」っていう人も。

バタやん:それわかる! 私もちょっとイラっとする。

渥美そこがこの小説の罠!

バタやん:イラっとしてしまった自分に自己嫌悪。ごめんなさい。

渥美イラっとしてしまった瞬間に「ホモソーシャル」に組してるんです。

バタやん:ホモソーシャルもこの小説の大事なキーワードですね。一人ずつなら悪人ではないのに、集団になることで役割を演じ合う。ある種、性欲よりも男子社会の中でウケたい気持ちが優ってる。

島田男性から見ても、お前ら何やってるんだよとモヤモヤはする。なんだけど、このくらいの年齢でこの場にいたら「やめろよ」とはなかなか言えないでしょうね。黙って出て行くとかはあるでしょうが。

この後、ハリウッド界のハーヴェイ・ワインスタインの事件の男性のかばい合いの話へと展開し……作品出版後のメディアの反応や、装丁の秘密などを島田さんに伺いました。

印象的なこの表紙は、ジョン・エヴァレット・ミレイの宗教画のひとつ「木こりの娘」。なぜこの絵が選ばれたのか、この絵が暗示する物語とは……。こちらはぜひ動画で。

さて、お読みいただいた皆さんはどう思われましたか?

●美咲ちゃん、つばさ君の印象は?

●一番怖いのは誰?

●美咲ちゃんはどこで間違えた? あるいは彼女は何も間違ってはいないのでは?

●ホモソーシャルとセクハラへの同性の目線がセクハラを助長する?

……などなどもっと話したかったテーマはたくさんあるのです。皆様のご意見・ご感想をぜひお寄せくださいね! IGTVでもコメント可能です。

さて、本谷有希子さんの『静かに、ねぇ、静かに』をテーマにした第1回のインスタ読書会はライブ配信で開催しました。「平日夜にリアルタイムに見るのが難しい」、「音を出して見られる環境にいない」というお声も多数いただき、今回はIGTVとYouTubeで配信してみます。
「やっぱりライブのほうがコメントもできて楽しい」、いやいや「本当はリアルに集まりたい」などご意見があれば、また形を変えて開催してみたいと思います!

トーク中でご紹介があった姫野カオルコさんのトークイベントの詳細は下記になります。

【トークショーのお知らせ】
姫野カオルコ『彼女は頭が悪いから』ブックトーク

【日時】
2018年12月12日水曜日 19時~21時

【場所】
東京大学駒場キャンパス 21KOMCEE EAST 地下 K011教室
http://www.c.u-tokyo.ac.jp/…/file/2014/21komcee_east_map.pdf 

【講演者】
姫野カオルコ(作家)

【パネリスト】
●大澤祥子(ちゃぶ台返し女子アクション・代表理事)
●島田真(文藝春秋 ノンフィクション編集局、「月刊文藝春秋」・ノンフィクション出版部担当局次長)
●瀬地山角(東京大学大学院総合文化研究科・教授)
●林香里(東京大学大学院情報学環・教授、MeDiメンバー)

【司会】
小島慶子(エッセイスト、東京大学大学院情報学環 客員研究員)

【概要】
2016年に起きた東大生による強制わいせつ事件に着想を得た話題の小説『彼女は頭が悪いから』(文藝春秋社刊)。執筆の動機や制作秘話を姫野さんに伺いつつ、登壇者と会場との対話を通じて、主に以下について考察するブックトークを開催します。

▼ 性の尊厳、セクシュアル・コンセントとは?(性暴力事件の再発防止のために何が必要か)
▼「学歴社会」と性差別について
▼ 「東大」というブランドとの付き合い方、向き合い方
会場の皆さんにもご意見を伺いながら、活発な議論ができればと思います。

【主催】
メディア表現とダイバーシティを抜本的に検討する会(MeDi)
東京大学大学院博士課程教育リーディング・プログラム「多文化共生・統合人間学プログラム」教育プロジェクトS

【協力】
株式会社文藝春秋

【注意事項】
▼入場無料・事前参加登録不要
▼当日の取材申し込みについては、medi.diversity@gmail.com(事務局)までご連絡ください。取材の申請は12月3日(月)まで受け付けます。当日、取材の方以外は、イベント進行中の録画、録音と生中継をご遠慮ください(写真は差し支えありません)。
▼写真・映像・音声などを記録することと、その記録されたものをIHSプログラム活動で使用する可能性があることをあらかじめご了承ください。
動画撮影/柳田啓輔(編集部)
企画・構成・文/川端里恵(編集部)