米倉涼子さんが、過去に観た映画を紹介するアーカイブ コレクション。
そのときに観た映画から、米倉さんの生き方、価値観が垣間見えます。

Columbia Pictures / Photofest / ゼータイメージ

どんな役を演じてもいつも違う顔を見せてくれて、毎回「すごい!」と、うならせてくれる。私にとってメリル・ストリープは、そんな女優さんです。しかも彼女が演技派のトミー・リー・ジョーンズと共演している作品と聞けば、期待はさらに高まるというもの。

子どもたちに囲まれてにぎやかにドラマの撮影をしていた当時、大人の物語が観たいなぁという私の気分にもぴったり合っていたのが『31年目の夫婦げんか』です。メリル・ストリープは今回も期待を裏切ることなく、サッチャーを演じた人がこんなに普通の奥さんになれるなんて! という驚きをくれました。

彼女が演じているのは、結婚31年目の夫との関係に不満を抱えている妻。夫は新聞を読みながらごはんを食べて、キスだって鍵をしめるように素っ気なくて、時間の使い方も毎日同じ。今日が昨日のように過ぎていく日々は、ある意味とても穏やかで安定しているともいえると思うんです。
でも彼女はそんな結婚生活にあえて波風を立てようと、勇気を出してカウンセラーの元へ。案の定、夫は怒り出したものの、アドバイスに従って手をつないだりハグしたり、そこからまたはじめることで、ふたりの関係にも変化が訪れます。

メリル・ストリープの奥さん像がリアルだからこそ、この映画を観たあとで結婚について考えてしまった私。夫が浮気をせずにまっすぐ帰ってくるからといって幸せとは限らない? 浮気をしていても幸せな夫婦もいるよね? やっぱりセックスはしなくなるものなの!? と、既婚者の方にいろいろと質問したくなりました(笑)。
同じ夫婦ものでも死が関わる『愛、アムール』は重かったけれど、この作品ならカップルや夫婦で一緒に観て、お互いの価値観について話し合うのもいいかもしれないですね。

『31年目の夫婦げんか』
日課をこなすような日々を送る、結婚31年目の夫婦。寝室は別で会話も毎日同じ、そんな関係を変えようと一念発起した妻が、嫌がる夫を連れカウンセラーの元を訪れて……。

取材・文/細谷美香
このページは、女性誌「FRaU」(2013年)に掲載された
「エンタメPR会社 オフィス・ヨネクラ」を加筆、修正したものです。