後半戦真っ只中の今期のドラマ。ラストに向けて、初戦に次ぐ大事な時期でもあります。決して大げさな話ではありません。平均10話という短いクール戦のなかで、今は視聴率二ケタ獲得が勝敗の分かれ目。SNSの盛り上がりにも左右され、番組ファン作りにも必死です。そんな全方位の熾烈な争いが繰り広げられているドラマ戦国時代はボーっと戦っていてはドラマ好き民から叱られます。

そんななかで、恋愛ドラマの大本命と言われ、ここまで固定客をしっかり掴んでいるのは『大恋愛~僕を忘れる君と』(TBS系金曜ドラマ枠)でしょう。これまでの第6話まで平均視聴率二ケタをキープ。ドラマの勝ち方を知っているTBSらしい戦い方をしています。

『大恋愛~僕を忘れる君と』 TBS系 金曜よる10時~ 主演:戸田恵梨香 ムロツヨシ 富澤たけし 杉野遥亮 木南晴夏 小池徹平 黒川智花 橋爪 淳 夏樹陽子 草刈民代 松岡昌宏ほか ©️TBS

恋愛ドラマにとって最も大事なポイントは、恋愛関係にある二人もしくは三角関係にある登場人物のキャスティング。しっくりくるか、来ないか。曖昧な表現ではありますが、それに尽きます。『大恋愛』は若年性アルツハイマーにおかされる女医、ヒロイン役の北澤尚を演じる戸田恵梨香と、尚の恋人・間宮真司役であるムロツヨシの組み合わせに外しがありません。

 

「ムロツヨシがイケメンにみえてくる」と失礼ながらも、そんな声も多く、色気のある演技に好感度は高まるばかり。それに重なり合って、「戸田恵梨香の笑顔がかわいすぎる」という評価も熱く聞こえてきます。その演技力ゆえに思わずこちらも感情移入してしまうほど。もしかしたら、パスワードや人の名前をうっかり忘れる覚えがあるドラマ好き民のなかには、MCI(軽度認知障害)テストを尚(戸田恵梨香)と同じ気持ちで一緒になって受けてしまったのではないでしょうか。

ここまでまずまず順調、戦略的に「章立て」構成を取り入れている『大恋愛』ですが、人物相関図はシンプルかつ先がみえやすい展開が弱み。後半戦の戦い方は脚本力に勝負ありとみています。ヒットメーカー大石静のオリジナル脚本に酔いしれたい準備は整っていますから、泣かせどころが要になるでしょう。非日常感を高める奇跡っぷりを新鮮にも料理してほしい。そんな期待が高まります。

一方、アンチとシンパ論争によってざわつかせている「けもなれ」こと『獣になれない私たち』(日テレ系)の後半戦にも注目です。

 
『獣になれない私たち』 日本テレビ系 水曜よる10時放送 主演:新垣結衣 松田龍平 田中圭 黒木華 犬飼貴丈 伊藤沙莉 近藤公園 一ノ瀬ワタル 菊地凜子 松尾貴史 山内圭哉 田中美佐子ほか ©️日本テレビ

王道ストーリーの『大恋愛』とは対照的に複雑な人間関係で構成される、現実感あふれるラブかもしれないストーリーが描かれています。主演の新垣結衣はこじらせ系女子の新海晶、共演する松田龍平はモテチャラ系の根元恒星役。そして田中圭は晶の恋人役でクズ男の声が高まる花井京谷を、黒木華は京谷の元カノ・廃人女子の長門朱里を好演。菊地凛子は恒星と男女関係にあった橘呉羽というキーマンを演じています。

前半戦はじれったくも、じわじわと描かれていました。自分事にも置き換えることができそうな事情と、自身の周りにいるかもしれない人物像がドラマの登場人物で再現されていくように。後半戦からはその世界観を活かしながら、晶(新垣結衣)と恒星(松田龍平)を中心に、登場人物のそれぞれの関係性が交差していく。そんな様子が深みを増しています。

脚本は『逃げ恥』を手掛けた野木亜紀子によるオリジナルです。晶(新垣結衣)をはじめ呉羽(菊地凛子)ら女子の闇と本音が詰まったセリフやドキっとさせる言葉選びは逸品。人間味が溢れています。わかりやすいキャラクターショーや善人と悪人の2極化構造のドラマも多いなか、独自性を持たせ、しっかり攻めています。

恋愛ドラマでなおかつ人気脚本家によるオリジナルストーリーが描かれているなど共通項がありながら、違うテイストの『大恋愛』と『けもなれ』。水曜日と金曜日の夜、直球の愛と変化球な恋の両方を味わっていくのも乙なもの。最終話に向かう戦法は硬派に脚本の妙がキラリと光る展開に期待したいものです。

メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。

構成/榎本明日香、片岡千晶(編集部)

 

著者一覧
 

映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。

文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。著書に『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』(洋泉社)、『聴くシネマ×観るロック』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、共著に『ヤング・アダルトU.S.A.』(DU BOOKS)、『文化系のためのヒップホップ入門12』(アルテスパブリッシング)など。

ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。人生で最も強く影響を受けた作品は、テレビドラマ『未成年』。

メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。

ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。