梅よろしさんからの質問
Q. 父の認知症が進行してから、
辛い気持ちを切り替えることができません。

初めまして。私の父は5年程前より認知症を患っていますが、2ヶ月程前から急激に進行しました。今まで母や妹、夫など家族で協力して対応してきており、私は長女ですので、全体的にフォローしてきました。介護者である母は明るく気丈に、でも上手にマイペースに介護しています。家族は皆、気持ちを切り替えながら上手く生活していますが、私は父に似て嫌になるくらい責任感が強くて、ずっと悲しく寂しく、先の不安が拭いきれません。楽しいことをしたり、仕事を再開したりすることも、父に対して申し訳なく感じつらいです。どのように気持ちを切り替えたらよいのか悩んでいます。(47歳)

特別ゲスト 小林照子先生の回答
A. お父様を治そうと思わないで全盛期の話を
何度も初めてのように聞いてあげてほしいんです。

梅よろしさんはお父様を尊敬して愛していらっしゃるのですね。だから全盛期のお父様の姿を諦めることができないのでしょう。妻というのは血がつながっていない分、意外とすんなり夫のありのままの姿を受け入れることできるのですが、親子はそう簡単にいかないのですよね。

今梅よろしさんは、人が歳をとるとはどういうことか、勉強するときにきているのですね。そこで私がオススメしたいのは、お父様の全盛時代の話を聞いてあげる娘になってごらん、ということ。認知症を発症した場合、記憶に残っているのは昔の出来事なんですよ。それを、今の出来事のように聞いてあげてほしいの。「あれはどうだったの?」とお父様が話を始めるようにもっていって、「そのときどうしたの?」「何が面白かったの?」と、どんどん引き出して。そうやって、お父様の自慢の話を何度も聞いてほしいの。認知症の方というのは、一回話したということを忘れますから、何回でも初めてのように鮮やかにそのエピソードを話すんですよ。それがお父様の活力になりますから。

私は夫に、そのように接したんです。夫は晩年、多発性脳梗塞を発症しましたから、認知症の方と同じように記憶が飛んでいくという症状が出ていたんですね。だから今飲んだ薬のことは忘れても、昔のことはそれはそれは鮮やかに覚えているの。その夫が大好きな話が3つぐらいあって、それを毎晩代わる代わる話すんですよ。私の娘や孫は、「よくそんな毎日聞けるね」と感心していましたけど、聞くという行為が大事なの。だから「へー!」とか相槌を打つものの、半分聞いてなかったんですけどね(笑)。でもそうやってどんどん思い出すことで脳が活性化する。それが夫の明るさにもつながっていってたんです。

気をつけてほしいのは、それがあくまで昔の記憶だ、と認識しておくこと。認知症の方って、昔と今が分からなくなっているんです。だから昔のことを今現在の出来事のように話す。たとえば「俺には30人部下がいるんだ」などと。当然今は部下なんていませんから、マジメな人は「この人は嘘を言う」と受け止めてしまうんですね。20年間お母様を介護なさった女性は、認知症の方はだんだん子供に返っていくんだ、とおっしゃっていました。だから子供のとき躾けられていたことを守るようになる。たとえば「男の人と馴れ馴れしくしてはいけない」とか「家に上がるときは草履を盗まれないよう持って入りなさい」とか「女の子は正座をしなさい」とか。よく徘徊していたご老人を警察官が連れ戻そうとすると暴れるのは、その警察官が男性だからだったりするんです。さらに靴を脱いで車のシートに正座したりするのも、昔の躾を今のように思って守っているだけなんですよ。

でもきっと昔の話を丁寧に聞いていれば、そういった行動も一つ一つ意味があるんだと見えてくると思います。ちなみに私の夫は不動産業をしていたこともあって、「同じビルを買いたいという人が同時に二人現れてな、どうしようと飛んでいったんだ!」というのがお気に入りの話でした。私が「へー!」と反応すると勢いづいてキラキラと話して、スッキリして「寝るよ」とベッドに入っていたんです。だからお父様のことも、治そうと思わないでただ話を聞いてあげて。歳をとるというのは、そういうことですから……。

PROFILE
  • 小林照子(こばやしてるこ)1935年生まれ。美容研究家。現在のコーセーを経て、1991年に「美・ファイン研究所」を設立。モデルや女優、政治家など何万人ものイメージ作りを手がけるほか、[フロムハンド]メイクアップアカデミー、青山ビューティ学院高等部東京校・京都校の学園長も務めている。最新著書『これはしない、あれはする』(サンマーク出版)が好評発売中。プライベートでは27歳で結婚。娘の小林ひろ美さんは同じく美容家として活躍中。 この人の回答一覧を見る
 取材・文/山本奈緒子 

 

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