「オープンリーゲイ」の歌人として活躍する鈴掛真さん。「同性愛って趣味なんでしょ?」「同性愛者って生産性がないの?」……など、ストレートで不躾な質問にも真摯に答える新刊『ゲイだけど質問ある?』が話題です。こちらの刊行を記念して、LGBTを知る短期連載を掲載いたします。

「ゲイって気持ち悪い」日本にもある“無自覚な”同性愛差別_img0
鈴掛真(すずかけ・しん) 歌人。1986年愛知県生まれ。名古屋学芸大学メディア造形学部卒業。短歌結社「短歌人」所属。第17回 髙瀨賞受賞。広告会社でコピーライターとして3年の勤務の後、作家として本格的に活動をはじめる。「短歌のスタンダード化」「ポップスとしての短歌」をセオリーに、ブログ・Twitterなどで作品を随時発表中。著書に『好きと言えたらよかったのに。』(大和出版)がある。

 

 

日本にも同性愛差別ってあるの?


2017年、ドナルド・トランプが第45代アメリカ大統領に就任して以来、時に女性蔑視、人種差別ともとれる彼の発言の影響で、白人(男性)至上主義の差別的思想が米国各地で膨れ上がっているんだとか。ここ日本でも、僕は同性愛者として、これまで大小様々な差別を目の当たりにしてきました。
さて、『差別』とはそもそも何なのか、ゆっくり解明していきます。
 

 

日常に潜む、無自覚の差別


まずは、差別の意味を振り返ってみましょう。辞書によると、差別とは『偏見や先入観などをもとに、特定の人々に対して不利益・不平等な扱いをすること』。
家族にも友人にも、ご近所付き合いでさえ、ゲイだと隠していない僕ですが、毎日の生活の中で差別を受けていると感じることは、おかげさまでほとんどありません。けれど、日本人は元来、本音と建前を重んじる性格。本人の目の前で自信満々に差別的な発言ができる人は滅多にいないですよね。
普段、我々の生活には『無自覚の差別』が存在しています。みなさんも、知らず知らずのうちに差別を受けたり、誰かを差別しているかもしれないんです。

僕は、生まれ故郷の愛知県春日井市で、中学校の講師として短歌を教える仕事も請け負っていて、教壇に立つ時も、ゲイであることを隠さずに授業を行っています。
学校でLGBTの話をさせてもらえるなんて、日本も随分意識が変わったなと思うけれど、まだまだセクシュアル・マイノリティへの理解が深い学校ばかりではないのが正直なところ。とある学校で短歌の授業を行う時、こんなお話が。

「先生がゲイだと知ってしまうと、せっかく短歌の授業を開いてくださるのに、生徒たちが短歌を学ぶということに集中できなくなってしまうのではないか。今回は、ゲイであることに触れずにお話しいただけないでしょうか?」
ふむふむ、なるほど。セクシュアリティを隠してほしい、ということですね。教育の方針は、学校それぞれ。普段親しんでいないLGBTの先生がやって来て、生徒が戸惑ってしまうんじゃないか、と先生が心配する気持ちは、よくわかります。

それまでの学校では、自己紹介でゲイだと打ち明けてきましたが、この提案を考慮して、この学校ではゲイだと言わないようにすることで合意しました。
但し、僕はあえて、こう付け足しました。
「僕は、先生の言葉でとても傷つきました」
例えば、学校に招く講師が、外見は日本人に見えるような、韓国の出身だとします。
「先生が韓国人だと知ってしまうと、生徒たちが授業に集中できなくなってしまうのではないか。今回は、韓国人であることに触れずにお話しいただけないでしょうか?」そんな提案があったとしたら、時代遅れもはなはだしいですよね。人種差別であることは、誰の目から見ても明らか。出身を隠して日本人のふりをするなんて、講師は韓国人であるという自身のパーソナリティを否定されて、深く傷つくでしょう。僕が傷ついたと感じたのも、それと同じ気持ちでした。

もちろん先生は、僕を傷つける気もなければ、ゲイを差別するつもりもなかったと思います。それに、外国人が教壇に立つのと、ゲイが立つのでは、子どもたちの捉え方も大きく違いますよね。子どもたちのことを心配した先生の気持ちは、よく理解できます。
けれど、「差別するつもりはなかった」「悪気はなかった」「良かれと思って」どんな理由であっても、相手を傷つけること、不利益・不平等な扱いをすること、それ自体が差別なんです。本人にその意図がなかったとしても、その言動自体を差別と呼ぶんです。
状況はどうあれ、僕自身がゲイというパーソナリティを否定されて傷ついたことに変わりはありません。外国人に置き換えたら人種差別になるように、先生の言葉がセクシュアリティを差別するものであったことも明らかなんです。僕はそれを、正直に伝えることにしました。

かつては、外国人が心無い差別や迫害を受けた時代がありました。今では日本もすっかり国際化が進んで、学校や職場に外国人がいることが当たり前になりましたね。まさに今の日本は、かつての外国人に対してと同じように、セクシュアル・マイノリティへの理解の発展途上にあります。

クラスメイトにゲイがいるかもしれない。学校の先生がゲイかもしれない。みんなの周りにもセクシュアル・マイノリティは確実に存在していて、世間に受け入れられずに人知れず苦悩していることを、学校がしっかりと子どもたちに教えるべきです。

少し前なら「ゲイの先生なんか教壇に上げられない!」と言われたかもしれません。それを考えれば、オープンリー・ゲイでも講師をさせてもらえるなんて、とてもありがたいこと。けれど、口うるさく思われても、棘のある言い方に思われても、こうして受けた扱いに対する気持ちを正直に発言することが、理解を深める上で大切だと思ったのです。

この件では、先生から「学校の方針とはいえ、申し訳ない。今後、別の機会でセクシュアル・マイノリティへの理解について、少しずつ取り組んでいきたい」とお返事をいただき、和解するにいたりました。
 

差別を絶対になくさなきゃいけない理由


差別の対象となるのは、多くの場合、外国人、有色人種、障害者、そして僕のような同性愛者など、いわゆる社会的少数者と呼ばれる人たちです。同性愛に否定的な人たちによるネットの書き込みで、こんな意見を目にしたことがあります。
「自分はゲイを気持ち悪いと思う。それを差別だといわれても、思ってしまっていることはしかたない!」
確かにそうかもね……。差別するつもりはなくても、不快感は、それこそ無意識に湧き上がって来るものです。けれど、不快感にだって、きっと理由があるはず。
例えば、男同士が手を繫いだりキスしたりするのを「気持ち悪い」と思う場合。それは、『手を繫いだりキスしたりしていいのは男女間だけ』という固定観念から拒否反応が出ているせいではないでしょうか。だとすると、ゲイにもっと歩み寄って、その固定観念を壊すことができれば、不快感自体を払拭することもできるかもしれないよね。
けれど、たとえ歩み寄っても、やっぱり拭いきれないかもしれない。その時は、しかたない。そもそも、不快感自体が問題なんじゃないんです。その不快感を克服しようとせず、ゲイに歩み寄ろうとせず、自分の中にある差別意識を放置していることが問題なんです。
では、なぜ差別はしちゃいけないのか。僕が考えるその理由は、人間一人ひとりのパーソナリティを否定する概念だからです。
「ゲイって気持ち悪い!」そんな言葉が聞こえて来た時、僕はとても残念な気持ちになります。だって、同性愛者だということは、僕というパーソナリティを構成する要素のほんの一部でしかないから。

僕は愛知県に生まれ、美大で芸術を学び、広告会社勤務を経験しつつ、短歌を10年以上作り続けてきました。特技はピアノ、趣味は料理とランニングです。それなのに、ゲイだというだけで、これまでの人生で積み上げてきたものすべてを否定されてしまうんです。美味しい料理のレシピや、ランニングにおすすめのスポットをみんなと分かち合いたいのに、「ゲイって気持ち悪い」と思っている人とは、それが叶わないんです。それはとても悲しいことです。

ただの喧嘩なら個人同士の問題で済みますが、差別意識は、それだけで大勢の集団に敵対することになります。一人ひとりと向き合えばわかり合えるかもしれないのに、差別は、その可能性を一切排除してしまうんです。

個人が抱く差別意識が結束して、国家単位で膨れ上がってしまったら、どうでしょう。まして、一国のリーダーとなる人物が差別主義者だったら……そうしてたくさんの命が奪われた悲劇が、人類の歴史にはたくさん刻まれているんです。
今改めて、みなさんに覚えておいていただきたいんです。差別意識は、持たない方が良いものじゃなく、絶対に持つべきじゃないものだということを。

今や日本で働く外国人が珍しくないように、数年後、数十年後、同性愛者が学校や職場に自然と溶け込める時代が必ずやって来ます。その頃には、「ゲイだということを隠してほしい」とお願いすることが差別であると、誰もが理解できる世の中になっていると良いんだけどな。

「ゲイって気持ち悪い」日本にもある“無自覚な”同性愛差別_img1
 

『ゲイだけど質問ある?』

鈴掛 真 著 1500円(税別) 講談社

すぐそばにある「LGBT」が身近になる世の中へ、の入門書!

「カミングアウトは必要じゃない。だけど、隠す必要だってないでしょ?」最近よくきく「LGBT」だけど、まだまだ知らない人が多い。
Q.何人に1人がゲイなの?--A.100人のうち3人と言われてます!
Q.いつゲイだって自覚したの?--A.幼稚園にあがる頃!
Q.同性愛って趣味なんでしょ?--A.それは大きな間違い!
Q.アウティングってなに?--A.セクシャリティに関して本人の意思に反して他人が勝手に暴露すること。
Q.腐女子ってどう思う?--A.いいと思うけど……
「知らない」より「知ってる」ほうが、きっといい――そんなソボクな疑問に「オープンリーゲイ」の歌人として活躍する鈴掛真が答えます!

鈴掛真さんをお招きして
バタやんのインスタ読書会、ライブ配信決定!


聞いてみたいけど誰にも聞けなかったあんなことやこんなこと。興味本位なことから、身近な誰かを不用意に傷つけないために知っておきたいことなど……。こんなにまっすぐに、丁寧に、例えを交えながら言葉を尽くして語ってくれる人はなかなかいないと、鈴掛さんの本を読んでいたく感動した川端。鈴掛さんご本人がインスタ読書会にゲスト出演してくださることになりました!いろいろと直接お話を伺ってみたいと思います。
皆さんからも質問や相談を募集いたします。こちらのコメント欄に書いていただいても結構ですし、ニックネーム等、非公開で投稿されたい場合は、下記の応募ボタンよりご質問をお寄せください。また、インスタライブ配信中のコメントでもご質問、鈴掛さんへのメッセージなどをお寄せいただけたら嬉しいです。

(会員登録の必要はありません。)
応募締め切り:12月19日(水)〜11:59まで

<インスタライブ開催日時>
12月20日(木) 19時〜19時40分ごろ


ミモレのInstagramアカウント@mimolletをフォローしてお待ちくださいね。


第1回「『おっさんずラブ』は夫にも? 誰でも“目覚める”可能性はある?」 はこちら>>
第2回「息子がゲイだった……親として大切なことは?」 はこちら>>
第3回「ゲイがノンケになって女性と結婚はあり得るの――偽装結婚を生む日本社会」 はこちら>>