「カミングアウトは必要じゃない。だけど、隠す必要だってないでしょ?」と語るのは、「オープンリーゲイ」の歌人として活躍する鈴掛真(ずずかけ・しん)さん。新刊『ゲイだけど質問ある?』の中では、「友達からカミングアウトされたら」や「家族がゲイだと知った時」について、ゲイの立場から真摯に回答しています。LGBTが身近な世の中へ、知っておくべきことを短期連載形式でお届けします。

鈴掛真(すずかけ・しん) 歌人。1986年愛知県生まれ。名古屋学芸大学メディア造形学部卒業。短歌結社「短歌人」所属。第17回 髙瀨賞受賞。広告会社でコピーライターとして3年の勤務の後、作家として本格的に活動をはじめる。「短歌のスタンダード化」「ポップスとしての短歌」をセオリーに、ブログ・Twitterなどで作品を随時発表中。著書に『好きと言えたらよかったのに。』(大和出版)がある。


ある日、僕の元にこんなメールが。


昨年初夏に息子から「同性しか好きになれないからつらい。自分は結婚しないし変われないからごめんなさい」と打ち明けられました。
その頃、息子は不登校でした。私は息子が不登校の間「これ以上休むと卒業できない」そんな言葉ばかり掛けていました。息子は「理由を話すから」と言って泣きだし、数時間後、メールでそのことを告白されました。
普段から息子に愛情を伝えていれば、息子がこんなに苦しまなかったのではと後悔しています。子どもには、親に申し訳ないと二度と想って欲しくないです。
私自身気づかないところで、息子を傷つけていないか心配です。
子どもと同じような方はどのような事で一番悩むのか、親に出来る事はなにか知りたいです。

匿名希望・主婦の方より


なんたるリアリティ。お母さんの苦悩がひしひしと伝わってくるメールでした。
では、ゲイの息子を持つ親御さんたちのお悩みにお答えしましょう。
 

家族がゲイだった……その時するべきことは


何よりも先に、まずお母さんにお伝えしたいことがあります。
息子さんのこと、無理に理解しようとしないで大丈夫ですよ。

唐突ですが、僕は球技が苦手です。バスケットボールなんか、ボールを手に持って走っちゃいけないし、あんな高いところにある小さい輪っかにボールを入れなきゃいけないし、何が面白いんだろう(バスケファンのみなさん、ごめんなさい)。
たぶん、バスケが好きな人たちの気持ちを、僕は一生理解できないと思うんです。でも、だからって、別にバスケの邪魔をするつもりはありません。

それと同じです。同性に恋愛感情を抱かない人は、そもそも同性愛者の気持ちはわかりっこないんです。
突き放しているように思えるかもしれませんが、この前提を知っておくことは、とても重要です。そもそも理解できないものを理解しようとしても、パニックになったり、「やっぱり理解できなかった!」と、嫌いになってしまったりするだけだから。
たとえ家族でも、親友でも、趣味や指向が違うのは当たり前。セクシュアリティも同様です。無理に理解しようとしないで「セクシュアリティの違いなんてたいした問題じゃない」と、楽観的になることが大切です。
 

子どもの気持ちとタイミングを尊重して


実は僕も、家族の中で最初にカミングアウトした相手は、母親でした。
あれは高校1年生の、思春期真っ只中の頃。人生の中で最も多感で、複雑で、繊細な時期。将来のこと、学業のこと、恋愛のこと……自分一人では制御できない様々な悩みが頭の中を巡る年齢です。

特にゲイにとって、セクシュアリティは思春期の考えごとの中で、最も重い難題。自分の中だけでは整理がつかず、誰かに相談したい、家族に認めてもらいたいという考えに至り、家で母と二人きりの日を見計らって、告白しました。
「お母さん、僕はゲイなんだけど」
母は、文字通り豆鉄砲を食った鳩のように、目を丸くしていました。「いきなり何言うの、この子は」と思っただろうし「それで、私はどうすれば良いのよ」と戸惑ったでしょう。どうすれば良いのか、それは僕自身にもわからないことでした。

今思えば、母にはとても大きな重荷を背負わせてしまったな、と思います。それは当時の僕が、まさに『理解』を母親に求めてしまっていたからです。
同性愛者には、結婚も出産もありません。孫を見せてあげられないことを、とても申し訳なく思いました。でも、「お母さんならわかってくれる……僕のすべてを理解してくれる……」僕のそんな期待が強すぎて、母親は随分悩んだと思います。まさに今、相談者さんとお子さんも、この段階なのではないでしょうか。

その後、僕は母と心を通わせられないまま、母も僕のセクシュアリティについて話を振ってくることがないまま、気づけば10年もの月日が経っていました。
けれどその10年間で、一人暮らしを始めたこともあり、僕は家族との上手い距離の取り方を知りました。今では、家族全員にセクシュアリティをオープンにできるようになり、実家に帰った時には、とても仲良く過ごすことができています。

もしも親にできることがあるとすれば、それはやはり、優しく見守ることだと思います。
今、お子さんが抱えている苦しみは、決してお母さんのせいではありません。LGBTが、自身のセクシュアリティについて悩み、苦しむことは、いつか必ず迎える自分自身との戦いだからです。家族はその戦いを、適度な距離感で見守ってあげてください。

「同性愛者でもいいんだよ。あなたはそのままでいいんだよ」

その気持ちがお子さんに伝われば、たとえ何年も時間がかかっても、いつかきっと、彼も心を開いてくれると思いますよ。

 

『ゲイだけど質問ある?』

鈴掛 真 著 1500円(税別) 講談社

すぐそばにある「LGBT」が身近になる世の中へ、の入門書!

「カミングアウトは必要じゃない。だけど、隠す必要だってないでしょ?」最近よくきく「LGBT」だけど、まだまだ知らない人が多い。
Q.何人に1人がゲイなの?--A.100人のうち3人と言われてます!
Q.いつゲイだって自覚したの?--A.幼稚園にあがる頃!
Q.同性愛って趣味なんでしょ?--A.それは大きな間違い!
Q.アウティングってなに?--A.セクシャリティに関して本人の意思に反して他人が勝手に暴露すること。
Q.腐女子ってどう思う?--A.いいと思うけど……
「知らない」より「知ってる」ほうが、きっといい――そんなソボクな疑問に「オープンリーゲイ」の歌人として活躍する鈴掛真が答えます!

鈴掛真さんをお招きして
バタやんのインスタ読書会、ライブ配信決定!


聞いてみたいけど誰にも聞けなかったあんなことやこんなこと。興味本位なことから、身近な誰かを不用意に傷つけないために知っておきたいことなど……。こんなにまっすぐに、丁寧に、例えを交えながら言葉を尽くして語ってくれる人はなかなかいないと、鈴掛さんの本を読んでいたく感動した川端。鈴掛さんご本人がインスタ読書会にゲスト出演してくださることになりました!いろいろと直接お話を伺ってみたいと思います。
皆さんからも質問や相談を募集いたします。こちらのコメント欄に書いていただいても結構ですし、ニックネーム等、非公開で投稿されたい場合は、下記の応募ボタンよりご質問をお寄せください。また、インスタライブ配信中のコメントでもご質問、鈴掛さんへのメッセージなどをお寄せいただけたら嬉しいです。

(会員登録の必要はありません。)
応募締め切り:12月19日(水)〜11:59まで

<インスタライブ開催日時>
12月20日(木) 19時〜19時40分ごろ


ミモレのInstagramアカウント@mimolletをフォローしてお待ちくださいね。


第1回「『おっさんずラブ』は夫にも? 誰でも“目覚める”可能性はある?」 はこちら>>
第3回「ゲイがノンケになって女性と結婚はあり得るの――偽装結婚を生む日本社会」はこちら>>
第4回「「ゲイって気持ち悪い」日本にもある“無自覚な”同性愛差別」はこちら>>