「月9」枠のドラマがイケメンをバックアップ


とはいえ、まだまだたくさんの実力派が現れてきます。
トヨエツと同じく名前を略され愛された「キムタク」こと木村拓哉は88年に結成されたSMAPの一員で、93年『あすなろ白書』(フジテレビ)でヒロインを見つめ支える【眼鏡男子】を演じて女子の心をとろけさせます。
このとき登場した【バックハグ】(後ろから抱きしめる。「あすなろ抱き」ともいう)はいまだにテレビドラマや映画でテッパン・シチュエーションとなっています。
以後、木村拓哉は96年『ロングバケーション』、00年『ビューティフルライフ〜ふたりでいた日々〜』とラブストーリーの伝説を更新していきます。
『あすなろ白書』と同じ年に、月9『ひとつ屋根の下』(フジテレビ)に福山雅治が出演。親がいない6人きょうだいが肩寄せあって生きていくお話で、福山は、熱い長男(江口洋介)に対してクールな次男「チイ兄ちゃん」を演じ、これまた大人気に。木村拓哉と福山雅治は「anan」の「好きな男、嫌いな男」特集の好きな男1位、2位の常連となっていきます。彼らは99年から2008年まで不動のワンツーとして圧倒的な魅力を見せつけていました。

ちなみに、『ひとつ屋根の下』で四男を演じた山本耕史、『あすなろ白書』で木村演じる取手くんの友人を演じた筒井道隆(ドラマでは彼が主役)、西島秀俊にも熱い視線が注がれました。『ビーチボーイズ』も合わせてフジテレビのドラマがイケメンをバックアップしていたといえるでしょう。


小劇場出身の実力派イケメン


ほかに、80年代〜90年代のバブル期にかけて【小劇場ブーム】があり、演劇集団キャラメルボックスの上川隆也、東京オレンジの堺雅人などが知る人ぞ知る人気者でした。堺は【小劇場のプリンス】と呼ばれていたくらいですが、彼が本格的にブレイクするのはまだ先のことになります。文学座の内野聖陽は96年、朝ドラ『ふたりっ子』、狂言師・野村萬斎は97年、朝ドラ『あぐり』で主婦のハートを撃ち抜きます。80年代中ごろ、「頭ばっかりでも体ばっかりでもダメよね」というCM(プチダノン)がありましたが、大人の女は顔だけでも体だけでもダメ、舞台で演技力を磨いてきた確かな実力を兼ね備えたイケメンによる、ヒロインエスコート術にしかなびかないのでありました。

 


そんな時に、ミッチーこと及川光博も現れます。自ら【王子】と名乗って、シアトリカルな雰囲気を演出しまくったミュージシャンの彼は、学生時代、演劇をやっていました。やがてミッチー活動が美輪明宏様にも認められるようになり、舞台共演も果たし、外見の美しさと内面の美しさ(教養)をもった「本物感」で勝負しました。

そして、99年、世紀末。【ビューネくん】の登場です。仕事に疲れて帰って来た女性を自宅で迎え、「慰めて抱きしめる」。化粧品の擬人化で妖精のような「ビューネくん」。初代は藤木直人。このCMは、女性の願望をみごとにすくい上げていて、いまでも続いています。押尾学、松田翔太と来て四代目は竹内涼真です。

“慰めて抱きしめられたい”願望は、カリスマホストブームも生み、クラブ愛の零士なんて方もいました。
85年に男女雇用機会均等法が制定されて以降、女性が男性と並んで働くようになって数年、がんばってる女性を褒めたり、励ましたり、理解してくれたり、抱きしめたり、癒やしてくれる男性が求められる時代でした。
それは、平成が終わるいまもなお変わっていません。むしろその欲求がますます強くなっているのではないかと思いますが、続きは〈最盛期〉で!

 

 

ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『僕らは奇跡でできている』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。

構成/榎本明日香、片岡千晶(編集部)

 

著者一覧
 

映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。

文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。著書に『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』(洋泉社)、『聴くシネマ×観るロック』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、共著に『ヤング・アダルトU.S.A.』(DU BOOKS)、『文化系のためのヒップホップ入門12』(アルテスパブリッシング)など。

ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。人生で最も強く影響を受けた作品は、テレビドラマ『未成年』。

メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。

ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。

ライター 西澤 千央
1976年生まれ。文春オンライン、Quick Japan、日刊サイゾーなどで執筆。ベイスターズとビールとねこがすき。

ライター・編集者 小泉なつみ
1983年生まれ、東京都出身。TV番組制作会社、映画系出版社を経てフリーランス。好きな言葉は「タイムセール」「生(ビール)」。

ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『僕らは奇跡でできている』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。

 
  • 1
  • 2