今年最も話題をさらったドラマといえば『おっさんずラブ』でしょう。ネットから火がつき、放送後もその勢いは止まらず、ファンの心を掴み続けています。そして、いよいよ今週最終回を迎える『今日から俺は!!』も話題が急上昇。王道ストーリーのドラマが並ぶなか、これまで平均視聴率9.6%をマークし、好成績です。ダークホースなドラマが今、なぜ熱いのでしょうか。
たたき上げドラマが作った新しいヒットのかたち
今もなお土曜日の夜に番組ファンがSNS上で集い、熱くツイートされている『おっさんずラブ』。放送したテレビ朝日にとって配信やDVD&Blu-rayも記録的な数字を記録し、リアルイベントも好調の様子が報告されています。先日はついに映画化も決定。田中圭、吉田鋼太郎、林遣都の3人のキャストが続投し、ドラマ版のその後のストーリーが描かれます。「人を好きになるピュアさ」をスクリーン上でも味あわせてくれそうです。
そんな順調極まりない展開を広げる『おっさんずラブ』ですが、もとは2016年の年末深夜に放送された単発ドラマ企画から始まった叩き上げ。当時からネット上で話題を呼び、2018年春のレギュラー放送開始前から番組公式ツイッターのフォロワー数が1万人を超える人気ぶりをみせ、その後の盛り上がりは記憶にある通り。それでも、なかなかヒットドラマとして認められてはいませんでした。なぜなら、テレビ番組の場合はヒットの指標である視聴率が全て。平均視聴率4.0%は決してヒットと言える基準ではなかったのです。「話題にはなっているけれど、リアルタイムの視聴率はいまいち」というのが関係者の本音でした。
だからこそ、公式ブックやグッズ、展覧会といった放送後の展開で結果をみせたことの意味は大きかったのです。それを支えているのは、はるたん(田中圭)と牧(林遣都)のキスシーンを何度見ても幸せな気分になり、乙女な部長(吉田鋼太郎)を応援し続ける番組ファンです。さまざまな仕掛けで番組ファンの熱量は今も増幅中。これまでのドラマのヒットの作り方とは違った新しいかたちをみせてくれています。
福田監督作品ファンにしっかり応えるドラマ作り
現在放送中の『今日から俺は!!』もドラマ激戦区のなか、視聴率2ケタ超えをこれまで2回も達成する快挙を成し遂げ、今期最も勢いのあるドラマです。決して今のドラマのヒット路線とは言えない80年代のツッパリ漫画原作の実写版ですが、監督の福田雄一ワールド全開、主役の賀来賢人やコンビ役の伊藤健太郎をはじめ、脇を固めるムロツヨシに佐藤二朗らの好演によって、番組ファンが広がっています。「SNS、タイムシフト、配信等で話題を集めていたが、リアルタイムの視聴率にもつながり、手ごたえを感じている」と、日本テレビの定例記者会見で報告もされ、社内評価も上々です。
そんな『今日俺』もまた、一朝一夕で作られたヒットではありません。福田監督作品の見どころを心得ている多くのファンの支持によるものでしょう。賀来賢人の潔いキャラクターづくりは2017年1月期のドラマ『スーパーサラリーマン左江内氏』での池杉役から繋がったものであるからこそ、ファンも熱く支持しているのです。また通称福田組の小栗旬や山田孝之らの『今日俺』スペシャルゲストに対しても福田作品ファンがしっかり応えます。例えば、3話での柳楽優弥は『アオイホノオ』役の姿で出演したことで、「知っている漫画家だ」などのツイートで盛り上がっていました。福田監督作品は単品のドラマでは味わうことができない複合的な楽しみ方ができるからこそ、ファンも離れていきません。
にわかファンもネット上で流れる先輩ファンたちによる熱い情報と手軽に利用できる配信サービスを駆使しながら、追いついていけますから、トレンドに乗り遅れることなく安心です。一度好きになったら、とことんついて行くので、どうか飽きさせないで。そんなファン心理をくみ取りながら、積み重ねていくヒットドラマの作り方が両作品にはあるようです。
メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。
文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。著書に『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』(洋泉社)、『聴くシネマ×観るロック』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、共著に『ヤング・アダルトU.S.A.』(DU BOOKS)、『文化系のためのヒップホップ入門1&2』(アルテスパブリッシング)など。
ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。人生で最も強く影響を受けた作品は、テレビドラマ『未成年』。
メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。
ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。
ライター 西澤 千央
1976年生まれ。文春オンライン、Quick Japan、日刊サイゾーなどで執筆。ベイスターズとビールとねこがすき。
ライター・編集者 小泉なつみ
1983年生まれ、東京都出身。TV番組制作会社、映画系出版社を経てフリーランス。好きな言葉は「タイムセール」「生(ビール)」。
ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『僕らは奇跡でできている』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。
映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。