「親であること」って、みなさんのキャリアにとってどんな影響があると思いますか?
(私も今年3月に出産したばかりの「親業初心者」です・・・!)
プラスでしょうか?あるいはマイナスに作用する場面もある・・・でしょうか?

私が共同代表を務めるWarisでは、主に女性を対象にさまざまな意識調査を毎年行っています。2年前に発表した調査(『提言 ~さらなる女性の継続就労・活躍が可能となる社会へ~』)では、「女性活躍」と言われながらも、「子を持ち親になる」というライフステージの変化の中で、能力を発揮しきれずもがく女性の姿が浮き彫りになりました。

 

このときの調査では、回答者の約8割がワーキングマザー。退職・転職・独立を検討することになったきっかけについて尋ねると、「これまでの職場ではキャリアアップできないと思ったため(39%)」と「仕事にやりがいはあったが、家族との時間のバランスが確保できなくなったため(38%)」がほぼ同じ割合でトップ。必ずしも育児や出産そのものが退職検討のきっかけになるわけではありませんが、一方で「子を持ち親になる」というライフイベントと、仕事面での充実をなかなか両立できず壁にぶち当たったり、将来のキャリア形成への不安を抱いたりしていることがわかりました。

このテーマで、最近とても勇気づけられるある女性との出会いがありました。
女性の名前は、リカルダ・ゼッザさん。
イタリアの社会起業家で、『親(男女ともに)としての役割が、それまで眠っていた新しい能力を引き出す』という科学的データ(=MAAM理論)を発表、この理論に基づいた企業内トレーニングプログラムを開発し、実践している女性です。
このトレーニングプログラムのユーザーは現在23か国4000人にものぼるそう。
とても壮大な取り組みですね。

ゼッザさんは、心理学者、経済社会学者、脳科学者、産婦人科医などから成るチームを組み、「妊娠、出産」そして「子育て」(母親、父親両方)にまつわる営みが及ぼす、脳のポジティブな変化についての本格的研究を実施。そこで見えてきたのは、血縁の有無に関わらず、「子育てが職業人としての成長を促進する」という驚くべき調査結果でした。

ゼッザさんたちのチームは、
(A)母親が赤ん坊の主な子育て役であるケース
(B)母親よりも主に父親が子育てを担っているケース
(C)同性愛者の親のケース
という、現代での、多様な親の形における子育てに焦点を当てて研究を進めました。
その結果、母親だけでなく父親も、血縁はない親も、「子育て」を通して感情表現と社会的理解力(文脈や状況を読む能力)を司る脳の部分が活性化する、などのリサーチ結果が出たと言います。

また、イタリアの大手日刊紙コリエーレ・デラ・セラ(Corriere della Sera)とは、共同で1100人の出産前後の様々な人種や社会的背景の女性を対象に調査を実施。その結果、87.5%が自らの組織を運営する能力が(産後)向上したと感じ、86%が産休のあと相手の話を聴く力が向上したと感じていると報告しています。こうしたスキルは、まさに企業が必要としているリーダーの資質そのものです。

訪日した際にワークショップを行ったゼッザさん。「日本の女性たちが抱える課題は、世界各国の女性と共通のものだと感じた」そう。

こうした背景についてゼッザさんはこう話します。「親になるということは、みなさんの人生がより複雑性を増すということ。子どもを育てていると、違う種類の問題が毎日のように起きますよね?それらすべてに親として対処していかなければならない。それによって精神面での柔軟性を求められるし、決断力・判断力も磨かれていく。これらは職業人として非常に重要な能力ですし、親業を通してこれらの能力が向上することが科学的に実証されたのは、ある種、当然のことでもあるのです」。

彼女の話を聞いていて、思い当たることがありました。それは、私たちWarisが取り組んでいる「キャリアママインターン」の話です。再就職を希望する女性たちを企業と「インターン」としてマッチングし、インターン終了後によければ採用してもらう仕組みで、これまで約9割のインターン参加者が正社員としての再就職に成功しています。

インターン参加者はお子さんのいる女性が中心。離職期間は数年から長い方だと15年以上という方もいます。これだけ長い離職期間のある女性たちが高い確率で就職に至っているのは、「親として培ってきた力」が企業側に評価されている側面が少なくありません。

過去にインターンを受け入れてくださった企業トップの方も、「(親業を通して)想定外のことに対して耐性がつく。どんなに理不尽なことが起きても対処する。これは変化の激しい今の時代にはすごく大事なビジネススキル」と事後に語ってくださいました。

現状では、「親であること」と「自分らしいキャリアを創ること」の両立のジレンマに悩む女性が数多くいるのは事実ですが、親であることが職業人としての能力を成長させるというエビデンスには個人的にも親の一人として大いに勇気づけられました!

100年時代の自分のキャリアの中で「親であること」をどうとらえていくか?簡単に答えは出ないかもしれないけれど、大事に考えていきたいテーマです。