着たい服を着て
笑顔になれるなら
それでいい


風:やっぱりいま大草さんが仰っていたように、媒体やブランドの伝えたいことを汲み取るというのがまず前提にありますから。とはいえ、もちろん私がスタイリングするわけですから、私なりの提案というのはありますよね。たとえば、冬に暖色系でまとめると少しほっこりしすぎてしまうから、寒色系を混ぜてスタイリッシュに仕上げましょうとか、逆にあまりクールすぎると近寄りがたくなってしまうから、チェック柄で少しほっこりした要素を加えましょうとか。でも、ほっこりしていることがいけないことなのかというと、決してそんなことはないですよね(笑)。

大:ないない(笑)。

風: スタイリストという職業柄、おしゃれに見せるには何をどう選べばいいかとか、この服をどう着たらいいかとかいう提案をしているだけであって。でも、いくらこれが格好いいから、モードだからといったって、着てくれる人がいなければただの独りよがりで終わってしまいますよね。究極のことを言ってしまうと、私は何を着ようとその人がハッピーならそれでいいんじゃないかなと思っているんです。好きな服を着て笑っていられればいい。何も雑誌に載っているお手本のようなスタイルをするのが幸せなことだというわけではないんだし、自分が気持ちよくいられることが一番なんだからって。

大:そうそう。私も本当にそう思います。好きなものを着ればいいんですよね(笑)。

風:そう考えると、唯一スタイリングを通して伝えたいことがあるとすればそういうことなのかもしれない。つまり、女性に毎日を楽しく過ごしてほしいということ。なぜかというと、女性が明るく笑っていたら男性も幸せな気分になるし、そうすると社会全体が明るくハッピーな空気になっていくと思うからです。もし私が女性に対して何か働きかけているんだとしたら、少しは世の中の役に立てているのかなと思ったりして(笑)。

大:もちろんですよ! ミモレのトークショーに来てくださる読者の方を見ていても、本当に真面目で頑張り屋さんが多い。だから私も女性には、もっと肩の力を抜いて楽しんでほしいなといつも思っているんです。そして、ゆみえさんの“楽しい”に加え、私は“楽=ラク”という言葉を加えたい。それは、単に楽ちんな服を着ようというようなことではなくて、もっと自分自身を認めて、のびのびと自信を持って外に出かけようよ、という意味での“楽”。私も日本の女性がもっと楽しく、楽に生きていけるようにというメッセージをいろんな方法で伝えていきたいし、それがまた自分の新たな仕事になっていくような気がしています。

以前、ヒョウ柄のコートに短パンを着た40代の知らない女性に道で突然呼び止められ、今日の格好はおかしいですか?と質問されたという風間さん。「私はピーコか!と思ったけれど(笑)、『あなたはどう感じていますか? もし、幸せな気分なら良いと思いますよ』と言いました。ファッションは自己表現の一部でありながらも、着るものは人に与える印象が大きいからもちろん、出かけている場所、会う相手に寄り添うことも有効だったりするけど……自分が笑顔でいられることがファーストプライオリティだと思うんです」。「その通り。着るものはその人が幸せな気分でいられるものを選べばそれでいいのよね」と大草ディレクターも深く同意。

 

いくつになっても
忘れてはいけない
“品”の薫らせ方


風:ところで私、大草さんにお聞きしたいことがあって。年齢を経るごとに好みや似合うスタイルは変わっていくものだけれど、どんなときにも保っておかなければいけないのは“品”ではないかと思うんですね。でも、どう演出するのかといわれると説明するのが難しい。大草さんはどう思われますか?

大:品のよさを薫らせるのには、所作とか肌の作り方etc.……。いろんな方法があるけれど、そういったテクニック的なことよりも一番大切なのは、“他者に対する優しさ”なんじゃないかなと。たとえば赤ちゃんを抱っこしているママが硬いレザージャケットを着ていたら、私は品がないなと思うのね。自分を綺麗に見せようとすることも大事だけれど、いろんなTPOやシーンに応じて、一緒にいる相手への思いやりを示すこと。そうすることで、品というのは自然に滲み出るものなんじゃないかなと思います。とはいえ、やっぱりテクニック的なことも大事よね。私は品を保つ要素の一つに“清潔感”があると思うんだけれど、それは意識しないと年々貯蓄がなくなっていきますから (笑)。艶のある肌や手入れの行き届いた指先。大人の女性はとくにそういった部分に気を使うべきですよね。若い子は素材が清潔だから、そこまで気にしなくてもいいけれど。

風:素材が古くないからね(笑)。

大:そうそう(笑)。でもだからこそ大人って面白い。おしゃれも美容も工夫のしようがありますからね。そのうえ経験値も積み重ねてきているわけだから。手放せないですよね、大人人生。私は今が一番楽しいもの。

風:私もそう思います。よく「昔に戻りたい」と聞くことが多いけれど、とんでもない。せっかくこんなにいろんな知恵もつけたのに、手放すなんてもったいないですよね。昨日は少し体調が悪くてぐったりしていたんだけれど、それでも今が一番いい(笑)。仕事が大変だったり体調が悪かったりと日々いろいろあるけれど、そう思えるということは、今自分は幸せなのかなと思います。