作家・宮藤官九郎の歴史も楽しめる


そういえば、宮藤官九郎はかつて、『吾輩は猫である』をもじって、漱石が乗り移った主婦が主人公の『吾輩は主婦である』(06年 TBS)という昼ドラマの脚本を書きました。朝ドラ以前に昼ドラで月〜金、30分間の連続ものの経験を積んだことが、朝ドラ『あまちゃん』(13年)で生かされたともいえます。なんていう点からしても、『いだてん』はオリンピックや落語の歴史のみならず、宮藤官九郎の作家としての歴史も感じさせるドラマになるのではないでしょうか。

『あまちゃん』といえば、第二話は第一話の小泉今日子と車以上に『あまちゃん』を思い出す場面が。それは、トンネル。三陸鉄道北リアス線の線路の途中のトンネルは、ドラマのクライマックスに重要な役割を果たしていました。あの光はいまだに目に焼き付いています。『いだてん』でも、四三が「スッスッハッハッ」と暗闇のなか、トンネルの向こうの光に向かって走っていきます。一話のサブタイトルの「夜明け前」も思わせます。
ちなみにオープニング曲のリズムも「スッスッハッハッ」になっています。
ものごとは一夜にしてならず。すべて積み重ねなのだなあと思わせます。『いだてん』が大河ドラマらしくないとも言われていますが、小さな支流がやがて大きな河になり、海に注ぐ、こういうことこそ、とっても“大河”魂ですよね。

 

ただひとつ、人力車夫の清さん(峯田和伸)の名前は、「坊っちゃん」の清からとったものなのか、それともまったくの偶然か…謎であります。

第二話は、なんといっても、四三の子役・久野倫太郎くん。子役特有の大人びた自意識がなく、じつに無邪気な存在感で、かわいかった。ほんとうは嘉納に抱っこしてもらってないことを言えずにいる感じもいじらしくて。呼吸法をみつけたときの口元のどアップも愛らしい。
それと、松尾スズキの落語『付き馬』。速いのに、言葉が粒立っていて、聞きやすい。
物腰やわらかにして名人の貫禄のある人という雰囲気がすてきでした。
 

【データ】
大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)〜』


NHK 総合 日曜よる8時〜
(再放送 NHK 総合 土曜ひる1時5分〜) 
脚本:宮藤官九郎
音楽:大友良英
題字:横尾忠則
噺(はなし):ビートたけし
演出:井上 剛、西村武五郎、一木正恵、大根仁
制作統括:訓覇 圭、清水拓哉
出演:中村勘九郎、阿部サダヲ、綾瀬はるか、生田斗真、森山未來、役所広司 ほか

第三回 「冒険世界」 演出:西村 武五郎
四三、東京へ――。

 

ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『僕らは奇跡でできている』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。

構成/榎本明日香、片岡千晶(編集部)

 

著者一覧
 

映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。

文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。著書に『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』(洋泉社)、『聴くシネマ×観るロック』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、共著に『ヤング・アダルトU.S.A.』(DU BOOKS)、『文化系のためのヒップホップ入門12』(アルテスパブリッシング)など。

ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。人生で最も強く影響を受けた作品は、テレビドラマ『未成年』。

メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。

ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。

ライター 西澤 千央
1976年生まれ。文春オンライン、Quick Japan、日刊サイゾーなどで執筆。ベイスターズとビールとねこがすき。

ライター・編集者 小泉なつみ
1983年生まれ、東京都出身。TV番組制作会社、映画系出版社を経てフリーランス。好きな言葉は「タイムセール」「生(ビール)」。

ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『僕らは奇跡でできている』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。

 
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