「今度、転勤することになりました」ーー最近、たて続けにこんなご連絡をいただきました。4月以降の新年度へ向けて、そんな内示が出始める時期なのかもしれません。大和総研の調査によれば、転勤のために居住地を移動したのは2017年の1年間で59万5500人。本人だけではなく家族や、「転勤」理由だけではないケースも含めれば、毎年かなりまとまった数の日本人が人生のステージによって住まいを移していることになります。
こうした何らかの事情で移住した方々のうち、特に首都圏から地方に住まうようになった女性と話していてよく聞くのが、「地方には仕事がない」という話です。直近の有効求人倍率は1.62倍で、すべての都道府県で1.1倍以上の数値となっていますから厳密にいえば「仕事がない」わけではないのですが、それでも首都圏に比べれば企業数や求人数自体が少ないのは事実ですし、また「自分がしたい仕事がない」という声は少なくありません。これは主に営業や人事、マーケティング等の総合職の仕事をしている人から聞く声です。
そこで今回は、「仕事がない」状態からキャリアを切り拓くヒントを実際の地方移住女性たちの声をベースにお伝えしていきます。
ヒント1)仕事が「ない」から「つくる」へ。発想の転換
「中途採用に応募しましたが100社近く落ち続けて。こうなったら『やりたい仕事を自分でつくるしかない』と、発想を転換しました」と話すのは、保活と家族の事情で関東圏外の政令指定都市へと2年前に移住したNさん。首都圏在住のころは主に人材紹介会社の営業職や事業会社の人事職でキャリアを積んできました。
「移住後の就職活動で落ちた理由は『うちにはもったいなさすぎる』とか、『仕事にやりがいを求めている人は必要ない』とか……。私は普通に息子を養っていけるくらい働きたかっただけなんですけどね」。望むワークスタイルもネックになったと言います。「こちらのエリアだとこれまでの慣習なのか、休憩時間を1.5時間など長めに設定している会社が多いんです。そうするとフルタイムだと拘束時間が18時30分くらいまでになってしまう。子どもの保育園のお迎えを考えると、この時間帯だと厳しくて。とはいえ中途採用でいきなりの時短勤務も許されず・・・働きたい時間帯と、経験を活かしたい人事や営業の仕事と、自分に必要な報酬とがなかなか合わず……」と、移住先での転職活動に大苦戦。
Nさんにとってのきっかけは、「雇用」ではなく、「フリーランス」で「やりたいことを実現する」ように発想を切り替えたこと。条件が折り合わず内定を辞退した地元企業の社長に、「私を業務委託契約で使ってみませんか?」と思い切って提案したと言います。交渉は成立。結局、Nさんはこの会社から採用業務を業務委託契約で請け負うことで、「人事系フリーランス」としての一歩をスタートさせました。フリーランスであれば、業務を限定的にすることにより、専門性を活かしつつも時間・場所の自由度が高い働き方を実現できます。
ヒント2)リモートで距離を飛び越えて働く!
もうひとり、地方でフリーランスとして働くIさんも首都圏からの移住組。家業を継ぐパートナーにあわせて家族で中国地方の都市へと移住しました。IさんもNさんと同じく人材紹介会社の出身。Iさんの場合は将来の移住を見越して、首都圏在住時にキャリアカウンセラーの資格を取得。その資格を活かして、今は東京の人材教育系企業からカウンセラーとしての業務を請け負い、リモートで仕事をしています。首都圏在住時に培ったネットワークがきっかけで声をかけられ、現在につながったそうです。
実は前述のNさんも、これまでの経験を活かし地元の会社にとどまらず他の大都市の企業からリモートで人事系の仕事を受注しようとしていると話します。「自分がやりたいこと」はなにもすべてその場で実現する必要はありません。テクノロジーの力を介して、距離を飛び越えて働く。これも一つの発想の転換ですね。
ヒント3)環境をポジティブにとらえる
こうした環境の変化に適応しながら「自分のやりたい仕事」を実現する人に共通しているのは、環境をポジティブにとらえる「楽観性」です。Iさんは「働き続けたいと思うならどんな小さな仕事にも挑戦してみようと思ってます」と言います。実は最近、キャリアカウンセラーの仕事のかたわら、地元のスクールでウェブデザインの勉強も始めたそう。「カウンセリングとウェブデザインって一見すると関係ないスキルですけど、でも興味のあることを掛け算することで思いがけない市場価値が生まれるのではと期待しているんです!」。
物事にはプラス、マイナス両方の側面があるもの。置かれた状況を楽観的にとらえ、プラスの側面を見ようとする力。それがキャリアを切り拓く力になっていくのだと感じます。
人生100年時代、ずーっと同じ場所で暮らす人のほうが少ないのではないでしょうか? 置かれた場所でどう自分のキャリアをつくっていくか。地方移住女性の事例から私たちが学べることは多いと思います。
Comment