今の時代において病院というのはモンスター患者の被害を受けている代表的な業種のひとつとみなされていますが、一昔前の事情はまったく違っていました。1980年代や90年代の記事などを見ると、医療関係者の患者に対する暴言がたびたび問題となっており、「医療とはサービス業であることを理解せよ」といった主張が目立ちます。

今でこそ役所における窓口の対応は常識的なものとなりましたが、書類の書き方が分からない市民に対して公務員が命令口調で振る舞うケースはザラにありましたし、タクシー運転手が近距離の乗客に暴言を吐くなどというのはごく日常的な光景でした。

あえて日本社会には○×な特徴があると分析するならば、日本はもともと「お客様は神様」という文化なのではなく、顧客なのか、サービス提供者なのかに関わらず、自分が有利な立場だった場合には、相手に対して暴力的、威圧的に振る舞おうとする人がかなりの割合で存在する、ということになるでしょう。

日本企業においてブラックな職場がなくならないことや、パワハラの問題がなかなか解決しないこと、あるいはそれとは逆に、パワハラで訴えることを脅迫材料に、仕事をサボタージュする部下の存在が問題視されていることなどを考え合わせると、この仮説は辻褄が合います。

もしそうなのだとすると「お客様は神様である」という商習慣を変えようと呼びかけたところで問題が解決するわけではありませんし、場合によっては、かつてのようなモンスター店員を生み出す可能性も出てくるでしょう。

結局のところ、個人の人間性の問題であるならば、事態を解決するためには、不当な要求や非礼な対応、威圧的、暴力的な振る舞いなど対しては、どんな立場であれ、毅然とした対応を取るということ以外に方法はありません。

自分が不快な思いをしたからといって店員に対して暴言吐くのはもってのほかですが、店員の非礼な態度に対しては泣き寝入りせず、正しいやり方でクレームを付ける強さが必要です。逆に店員が顧客からそのような対応を受けた場合には、ひるまずに対処すべきですし、組織の中でそうしたトラブルを見かけた場合には、知らんぷりをせず、しっかりサポートするという勇気も大事でしょう。

結局のところ、社会を変えるためには、その構成要員であるわたしたち自身が積極的に行動するしかないのです。

 
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