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1月27日(日)の午後、国民的スーパーアイドルグループの嵐が、2020年をもって活動休止することが発表された。夜8時に行われた記者会見を、その後の報道番組などで観たが、良い意味で異例づくしだったように思う。

まず目を引いたのが、5人の装い。スーツではなく、ノータイにジャケット。彼らのパブリックイメージを裏切らない、カジュアルだが品のある、アースカラーのコーディネートは、30代の男性が、例えば妻の実家を訪問するときに着ていけば、間違いなく好印象を与えるだろう。そしてこちらが気付かされる。そうだ、謝罪会見ではないのだし、これでいいのだ、と。

 

まずは今回の活動休止という道を選択した経緯を、リーダーであり、言い出しっぺである大野智が説明した。バラエティ番組などではボーッとしたキャラクターをメンバーにいじられることも多い大野の語り口は、しっかりとわかりやすかった。

その後、記者からの質問に5人で答えていくのだが、そのチームワークの良さを見れば、彼らの関係になにひとつ綻びがないことは明らかだった。記者は記事の見出しになるような、インパクトのあるキャッチーな言葉を引き出すために、あの手この手で球を投げるのだが、5人は一体となって5本のバットを持ち(千手観音のイメージ)、どんなゾーンにどんな球種のボールが来ても鮮やかに打ち返す。

例えば、「(話し合いのなかで)ケンカになったり言い合いになったことは?」という質問には、二宮が「ないです。『ケンカした』って書きたそうですね(笑)」と切り返すと、相葉が「嘘でも(ケンカを)しておけばよかった(笑)」と乗っかって笑いを誘い、空気をほぐす。

圧巻だったのは、中盤を過ぎた頃に投げられた、記者の挑発的な発言への対応だ。「多大な功績を残されてきて、お疲れ様でしたという声も多々ある一方で、『無責任じゃないか?』という指摘もあると思うんです」という言葉に対し、櫻井は表情を硬くし、「2年近くかけて感謝の思いを伝えていく期間を設定した。これは我々の誠意です。それが届くように、これからもたくさんの言葉をお伝えし、たくさんのパフォーマンスを見てもらい、その姿勢と行動をもって、無責任かどうかを判断をしていただくことかと」と毅然と言い放った。ここで、怒りを言葉にせず、無理して笑顔を作らず、そこまで繰り返し話してきたことを簡潔に要約するクレバーさにしびれた。

また、「大野さんが矢面に立ち、悪者にされてしまう可能性もある。他のメンバーにも、活動に区切りをつけたかったという気持ちはなかったか?」という質問に対しても、二宮が「僕はなかったです。僕らは一人がやりたくないというときは、その理由をみんなで徹底的に話し合い、共有して、決断するので、もしもリーダーが悪者になっているように見えているのであれば、それは我々の力不足だと思います」と即座に返答。彼らのグループとしてのあり方を表明しながら、プロフェッショナルな姿勢で黙らせた。

嵐にはほっこりと柔らかいイメージがあるが、このときの櫻井と二宮の、挑発に乗るのではなく、それを利用して自分たちの強みをアピールする対応には、彼らがなぜ国民的なアイドルグループになれたのかを証明する柔軟性と強靭さがあった。

アイドルグループは、自分たちの意志で始めるバンドや劇団などと違い、事務所の意向でメンバーを決められて、グループになっていく。その活動を終えるときに関しても、アイドルの場合は、便利な言葉を借りると〈大人の事情〉により、なかなか自分たちの意志が通るものではない。そして、日本に限らず、アイドルグループが活動を終えるときは、メンバーの脱退、分裂、解散、人気低迷による自然消滅など、ネガティブな理由であることがほとんどだった。

しかし嵐が活動休止を決めた理由は、「5人でなければ嵐ではない」という、ポジティブなものだった。この理由と、彼らの晴れ晴れとした笑顔こそが最大の〈異例〉。この幕引きには、いつか活動を再開するという可能性も感じられる。アイドルのトップに立つ嵐が、ひとまずのピリオドの打ち方として提示したこの新しい形は、嵐のファンだけでなく、他のアイドルや、彼らを応援する人たちにとっても、希望の光になったのではないだろうか。

ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。

構成/榎本明日香、片岡千晶(編集部)

 

著者一覧
 

映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。

文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。著書に『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』(洋泉社)、『聴くシネマ×観るロック』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、共著に『ヤング・アダルトU.S.A.』(DU BOOKS)、『文化系のためのヒップホップ入門12』(アルテスパブリッシング)など。

ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。人生で最も強く影響を受けた作品は、テレビドラマ『未成年』。

メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。

ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。

ライター 西澤 千央
1976年生まれ。文春オンライン、Quick Japan、日刊サイゾーなどで執筆。ベイスターズとビールとねこがすき。

ライター・編集者 小泉なつみ
1983年生まれ、東京都出身。TV番組制作会社、映画系出版社を経てフリーランス。好きな言葉は「タイムセール」「生(ビール)」。

ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『僕らは奇跡でできている』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。