同じ場面を別視点で描く
一話から四話まで、視聴率的にいえばさほど高くはなかったものの、物語は密度濃く、エンターテインメントに徹していて楽しめますし、俳優もみな生き生きしていますから、最終的には四三のように最初は最下位でもグイグイ抜いていき三位になったように、視聴率もじょじょに上がっていくのではないでしょうか。なんだかもう無性に満身創痍の四三を応援したくてたまりません。「超えてけ~ 超えてけ~」(by実次 三話より) 私は「いだてん」を信じています!
なんたって世間は逆転劇が大好物です。『いだてん』四話は、一話へと鮮やかに逆回転(巻き戻って)していきます。やたら夏目漱石の『三四郎』が出てくるのも三四(郎)と四三、字が逆転しているようで面白いです。
宮藤官九郎さん脚本、井上剛さんチーフ演出、訓覇圭さん制作統括、大友良英さん音楽でつくった朝ドラ『あまちゃん』第21週には「おらたちの大逆転」というサブタイトルがありますし、19週で(過去にやったことは)「取り返しがつかない」「逆回転できないもんね人生は。壊れたら壊れっぱなし。もう元には戻らない。残念でした」と春子(小泉今日子)が言う場面がありまして。「あまちゃん」は過去に囚われた人・春子の解放を描くことで、いま現在、過去に戻ってやり直したいと苦しんでいるユイ(橋本愛)の救済を描く物語でもありました。
現代劇だった『あまちゃん』と反対に、『いだてん』は時間を巻き戻すように過去に戻り、歴史をもう一度、物語として再構築していくドラマ。四三が参加して三位になったマラソン大会は、一話で、三島(生田斗真)の車に誰かが立ち小便をしている場面とつながっていました(予想はしてましたが、四三でした)。ふつう、話の途中で総集編が入るところ、最初に総集編をもってきて、あとからそれを細かく見せながら、あのときははしょっていたけれど、じつはこういうことがあったのか……とわかる楽しみ。
かなり一話とつながる場面が多かったですが、そこは井上剛さんの演出なのでしょうか。それとも、重なる部分はダブル演出なのか気になって、これまた聞いてみたところ、
「第5回までつながる大きな流れ(シチュエーションやステージングなど)の中にあるシーンはチーフ演出が中心になって決め、各回の演出が、それぞれの回の視点をふまえて、さらに面白くなるようにアレンジしていきます。例えば、第4回の四三が小便でスタートが出遅れるシーンでは、車がどこから入ってきて、どこに置かれるか、どの窓から顔を出してどのように声をかけるか、全体のスタートまでは井上ディレクターが流れをつくり、小便をする四三やスタートしてからの流れは一木ディレクターが演出しています。こうした演出の進め方は、複数の視点・時間軸で描かれる『いだてん』ならではだと思います」という回答をもらいました。う~ん、凝ってる! 演出家の連携プレーが面白い。
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