多くの人が悩まされている慢性的な肩凝りや腰痛。「マッサージに通っているけれど、なかなかよくならなくて……」という声も多いようです。
「長年マッサージに通っても軽減しなかった痛みや不快感も、ストレッチを習慣にすることで解消する場合があります」
と言うのが、書籍『みんなのストレッチ』を監修する中野ジェームズ修一さん。伊達公子選手、福原 愛選手など数々のトップアスリートへの指導経験を持つほか、青山学院大学駅伝チームのフィジカルトレーナーも務める中野さんに、なぜ肩凝りや腰痛の人にストレッチが必要なのかを聞いてみました。
 

肩凝りや腰痛の原因は
筋肉の“エネルギー危機”だった


「肩凝りや腰痛の問題のほとんどは、筋肉の筋力や柔軟性の低下が要因です。マッサージは症状を一時的に解消する対処療法ですが、ストレッチは筋肉の硬さに由来する痛みや不快感の根本的な原因を取り除ける可能性があるのです」

と中野さん。そもそもなぜ肩凝りや腰痛は起きるのでしょうか。

「運動不足でじっと動かず、筋肉を使わないでいると、筋力が弱まるだけでなく、縮んで、短く硬くなってしまいます。これは、筋肉の伸縮をコントロールしている運動神経の末端から、筋肉を縮める命令がずっと出され続けている状態です。

凝りや痛みでカチコチの身体にならないためには、筋肉を元通りに緩めたいのですが、そのためには血液が運ぶ酸素と栄養素が不可欠。ところが、筋肉が縮んだままだと筋肉の内圧が上がり続け、血管が圧迫されて血流が悪化し、酸素と栄養素が足りなくなる“エネルギー危機”が生じます。

エネルギー危機を察した周辺の組織は、SOSとしてヒスタミンやブラジキニンといった痛みのもととなる物質を分泌。さらに痛みが強まります。

痛みがあると人は、その部位を動かしたくなくなるもの。それでは血流は悪くなる一方です。そして痛みがあると身体の機能を自動的に調節している自律神経のうちでも、身体を緊張させる交感神経が優位となります。交感神経には血管を収縮させる働きがあるため、さらに血流を悪くします」

これが、肩凝りや腰痛でつらくなってしまう仕組み。たとえばデスクでじっとPCに向かって一日を過ごしている、という人は、まさにこの「負の連鎖状態」にいるというわけです。そして、筋肉の柔軟性の低下→血液循環の停滞→痛み→交感神経の興奮→血液循環の停滞……というこの負の連鎖を断ち切ってくれるのが、ストレッチなのです

ストレッチで筋肉をほぐすことにより、血管を圧迫していた筋肉が緩み、血液循環が改善してくると、筋肉を緩めるために欠かせない酸素と栄養素が届くようになります。それにより、ヒスタミンやブラジキニンといった痛みを発する物質の分泌が抑えられますから、不快な凝りや痛みも解消していきます」

そこで、肩凝りや腰痛の人におすすめの会社のデスクで座ったままでもできるストレッチを3つ教えてもらいました。ポイントは、①反動を使わず静かに筋肉を伸ばしたら、②痛気持ちいいポイントで静止し、③呼吸しながら20~30秒キープすることだそう。

肩凝りにおすすめのストレッチ1

1 椅子に腰掛け、左手を右の側頭部に添える。右腕を後ろに回し、左の背もたれの端を持つ。
2 左手で左斜め前に頭を倒し、右側の首すじを伸ばす。呼吸をしながら20~30秒キープ。左右を変えて同様に行う。

肩凝りにおすすめのストレッチ2

1 椅子に深く腰掛け、右腕を後ろに回して右手で右側の座面を持つ。左手は左の太ももに置く。
2 胸から上体を前に倒し、右の肩を伸ばす。呼吸をしながら20~30秒キープ。左右を変えて同様に行う。

腰痛におすすめのストレッチ

1 椅子に腰掛け、右の足首を左膝に置く。右脚の膝に右手、足首に左手を置く。
2 上体を前傾させて右のお尻を伸ばす。呼吸をしながら20~30秒キープ。左右を変えて同様に行う。

 

これらのストレッチの他にも、硬さや不快感が気になる部位・伸ばしたい部位別に、柔軟性のレベルに応じて選べるストレッチが全75ポーズ紹介されているのが、『みんなのストレッチ』。肩凝り、腰痛といった症状別のインデックスもあり、自分に必要なストレッチを見つけやすい。すべてのストレッチに、二次元バーコードからアクセスできる無料動画付き。身体の硬さや、運動不足に思い当たる人はチェックしてみて。

中野ジェームズ修一

フィジカルトレーナー/一般社団法人フィジカルトレーナー協会代表理事/米国スポーツ医学会認定エクササイズフィジオリスト(運動生理学士)/アディダス契約アドバイザリー。各種トップアスリートのパーソナルトレーナーを務めるほか、青山学院大学駅伝チームのトレーナーとして指導を行っている。NHK「趣味どきっ!」でストレッチ講座番組を2年連続担当したストレッチの第一人者でもある。

撮影/林 桂多(講談社写真部)

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