この2月、私の周囲では大変化がありました。会社の共同経営者の海外移住です。パートナーの転勤に帯同するため、今月からベトナム・ホーチミン市に幼い子ども2人を連れ移住しました。

この連載でも取り上げたことがありますが、日本で転勤のために居住地を移動する人は年間約60万人。これに加えて一緒に転居する家族の存在も考えると、毎年かなりの数の人が転勤のため移住していることになります。

転勤自体は決して珍しいことではないけれど、それがこんな形で自分の身近に起こるとは……いまだに実感がわいていないのが正直なところです。

転勤は本人が単身赴任するか、女性が仕事を辞めてついていくケースが一般的です。

今回、彼女のケースが「イレギュラー」なのは、「日本の仕事を持って海外へ家族そろって移住する」という決断をしたから。「仕事も家庭も」を海外転勤という状況下で実現させる挑戦です。

男性経営者で海外へ家族を連れて移住するケースは私も知っていますが、女性経営者が「駐妻」として海外へ赴任しつつ、リモートベースで経営に参画するケースは聞いたことがありません。(しかも私たちは小さい会社とはいっても30名弱のスタッフがいるベンチャー企業で、彼女の「ひとり企業」というわけでもないんです)

「夫が転勤するかも」ーーそう最初に共同経営者から相談されたのは去年の夏くらいのことだった気がします。私の口をついて出た言葉は「いいですね! 面白そう!」でした。なんの迷いもなく、反射的に飛び出した素直な気持ちでした。

「迷ったら、よりチャレンジングなほうを選べ」。この価値観が共有できているのが私たち経営チームの特徴なのかもしれません。私たちは女性3人で2013年に会社を共同創業。そのまま「共同代表」という形で一緒に会社を経営しているユニークな形です。

今回の件を通じて、改めて頭をよぎったことがあります。それは「計画された偶発性理論(プランド・ハップンスタンス・セオリー)」のこと。スタンフォード大学のクランボルツ教授らが提唱した理論で、「個人のキャリアの8割は予想しない偶発的な出来事によって決定される」とし、その偶然を計画的に設計し自分のキャリアをより良いものにしていこうとする考え方です。

 

偶然の出会いや出来事、異動や転勤、人生(キャリア)はまさにそんな「たまたま」の連続でつくりあげられていく――思い当たることがある方も多いのではないでしょうか?

こうした偶然の出来事を、より良いキャリアの機会へと変えていくにあたってクランボルツ教授は5つの行動指針が重要だと言っています。それが①好奇心、②持続性、③柔軟性、④楽観性、⑤冒険心の5つです。

私はなかでも、5番目の「冒険心」が特に好きです。これ、英語で「Risk Taking」と表現されています。まさしく「リスクを取る」。より良いキャリア形成のために「リスクを取ることが大事」だなんてなんとも励まされる話じゃないですか!

今回の私たちの決断だって「リスク」のかたまりです。テレワークを導入している企業が全体の10数%しかない日本にあって、私たちはリモートワークをベースにしていて、しかも経営陣が3拠点に分散(私は東京、もう1人の共同代表は福岡に移住しています)、今後はそのうちの1人が海外です。お互い小さな子どもがいるからそんなに頻繁に出張で行き来するわけにもいかない。適切なコミュニケーションは取れるのか?組織にとってベストな解だったと言えるのか?ああ、言い始めたらだんだん不安になってきました(笑)。

でも、そんなの正解なんて誰にもわからないですよね。そして未来のことなんてもっとわからない。今の世の中は不確実性が増していて、技術革新のスピードも速く、未来予測は困難だから。だったら、私たちは今を見て判断するしかないと思うんです。そのときに大事なのは、私は「リスクを取ること」だと思っています。安全快適な場所にとどまらない。チャレンジしたほうが、冒険したほうが、得られるものは大きいと信じています。そう教えてくれたのがクランボルツの「計画された偶発性理論」であり、だからこそ、今回の決断に至りました。このチャレンジがどんな偶然をたぐり寄せてくるのか?今からワクワクしています。

みなさんはリスク、取っていますか?