長年、夫の母親の世話を一生懸命してきたのに、夫の母親が「お前とは気が合わないから出ていけ」と言ったうえ、夫も「母親をとる」と言ってきたら……! こんな場合、泣き寝入りをする必要はありません! 離婚問題専門の弁護士・原口未緒さんが、いろいろと対抗策を授けてくれました。

ごそもこさんからの質問

Q. 義父母が離婚を検討中。
夫は私とも離婚して、義母と二人で暮らすと言います。
 


共に介護2の夫の両親と同居していますが、義母が一方的に義父を嫌って、離婚を希望しています。そこで、財産分与で揉めています。義父が独身の頃に購入した家・土地の借金が200万残っていたそうで、結婚の際に義母がそのお金を自分の貯金で立て替えたそう。後にその家を売り、そのお金は現在の家の購入資金に充て、足りない分は借り入れし今も返済しています。義母は「離婚しなくてもしても200万を支払え!」と言っており、本当に返さなければいけないのかと疑問に思っています。初めは、利子300万の合計500万を要求していました。また、離婚となったら「土地、家を査定にかけて半分ずつにする」と言っています。義父は、このまま義母の言う通りお金を払い、かつ家、土地を半分ずつ割っていいのか悩んでおります。ちなみに名義は義父の名前です。
私たち夫婦も同居で、義父母の面倒は私とデイサービスで乗り切っています。義父母には、夫名義の貯金がいくらかあるだけ。義父の退職金は全て義母が使ってしまった、と言っています。義父は社会保険があり、離婚しても一人で介護サービスを使って暮らしていけそうですが、義母は国民年金のみで一人でやっていけそうにみえません。私とも気が合わないから出て行けと言われました。今まで義母の下の世話や食事、洗濯など頑張ってきたつもりでしたが、ガッカリしています。本当に出ていきたいですが、夫には「義母が心配だから2人で暮らす。最悪お前とも離婚になるかも」と言われました。義母は、夫には「そんなことは言っていない」と言っているそうで、夫から「母が嘘を付いているというのか!」と怒鳴られました。もう頭の中がぐちゃぐちゃになっております。(35歳)


弁護士 原口未緒さんの回答

A. ごそもこさんに非は全くありませんから、
夫が「母親をとる」と言ったところで離婚は認められません!


お悩みを拝読したところ、義父母の離婚問題と、ご自身の離婚問題が混在していらっしゃいますね。そこでまずは、義父母の問題について回答させていただきたいと思います。

 

義父が独身時代に義母から借りたという200万円ですが、これは結婚前のものですから、夫婦が共に形成した共有財産ではなく、義母の「特有財産」ということになります。特有財産は離婚時の財産分与の対象にはなりませんから、義母のものということになりますが、ただ義母はそのお金を義父に貸していたのですよね。貸したお金ですから、証書でもない限り、義父が「そんなお金、知らない」と言ってしまえばどうしようもありません。このような家族間でのお金の貸し借りにおけるトラブルは、非常によく起こっています。親しい間柄のため証書などはとっていませんし、とくにそれが親子間の貸し借りの場合は、贈与とみなされることが多く、返してもらうのは難しいのです。

仮に証書があったとしても、借金の返済は5年または10年が時効ですから、義父の返済義務はとっくの昔に消滅しています。法的には、「返してほしい」という義母の言い分は排斥されてしまうでしょう。仮に時効前で返済義務があったとしても、もちろん「利子300万円をプラスして500万円を返済してほしい」という義母の要求はあり得ません。ただ、結婚後に購入された現在の家の「土地、家を査定にかけて半分ずつにする」という主張は、当然のものです。土地、家は夫婦が共に形成した共有財産とみなされますので、その価値を査定してお金を折半するのが財産分与の基本です。

とはいえ、これはあくまで法的な回答です。義父が200万を返してもいいと思っているなら好きにさせてあげればいいと思いますし、財産分与についても、どうするかはお二人が話し合って決めることです。義父母を心配されるよりも、ごそもこさんは自分がどうしたいのかを考えられることのほうが大事だと思うのです。

そこでごそもこさんの離婚問題について、整理をさせていただければと思います。ごそもこさんは、夫にごそもこさんより母親をとる、と言われて大変ショックだったのだと思います。でも本当は、義母のことも心配だし、義母が受け入れてくれるなら3人でやっていきたいと思われているのではないでしょうか? 大変、お優しい方なのですよね。

この場合、夫がいくら「母親をとる」と言ったところで、ごそもこさんに非は全くありませんから、夫が望んでもごそもこさんが拒絶をすれば離婚は認められません。反対にごそもこさんが離婚をしたいと思うなら、「母をとるから」とひどいことを言われていますし、夫に慰謝料を請求することは可能でしょう。ちなみにこのような場合、「慰謝料が欲しい」と言うと角が立ってしまいますので、我々は「解決金」という玉虫色の言い方をしているのですが……。夫から離婚を切り出された場合に妻から提案する解決金の目安としては、3年分の生活費(婚姻費用)に少し色をつけることが多いです。それは、3年以上の別居期間があると離婚訴訟で離婚が認められてしまうからなのです。そのため解決金は、3年分の生活費+αで提案することが多いのです。そうすると、婚姻費用を月々10万として合計400万円ぐらい。それに弁護士料や諸々の事務費を加えて500万円ぐらいかなと思います。ただ、夫もそれほどお金があるわけではなさそうですから、もう少し減らしたり、または分割払いでもらうなど、現実的な額で交渉されたほうがあまり長引かず良いかもしれません。

ご相談内容を拝見していますと、義母は義父にも同じような態度をとっていますから、誰にでも刺々しい態度を取られる方なのではないでしょうか。とくにごそもこさんに何か原因があってそのようなひどい態度をとっている、というわけではなさそうですので、あまり落ち込まれる必要はないかと思いますよ。ごそもこさんはまだ35歳とお若いですから、そのような義母や夫と我慢して続けていくより、もらえるものをもらって新しい人生を始めたり、もっと優しい相手との再婚を考えたりされたほうが良いと私は思います。ただし次に結婚を考えるときは、事前に相手と義父母との関係をしっかり見極められるようにされてくださいね。
 

PROFILE
  • 原口未緒(はらぐちみお)1975年生まれ。弁護士。学習院大学法学部卒業。2004年に弁護士登録。民事、商事、家事、刑事、倒産処理、債務整理など様々な案件を担当した後、2010年に「未緒法律事務所」を開所。夫婦、離婚案件を主に扱っている。法的な解決策を提案するだけでなく、コーチング、カウンセリング、セラピー手法を取り入れ、「心のケアもする弁護士」として人気がある。著書に『「この結婚もうムリ」と思ったら読む本 こじらせない離婚』(ダイヤモンド社)がある。自身は3度の離婚を経て、現在4度目の結婚をし、第一子をもうける。 この人の回答一覧を見る
  • 山本奈緒子(やまもとなおこ)1972年生まれ。6年間の会社員生活を経て、フリーライターに。『with』や『VOCE』といった女性誌の他、週刊誌や新聞、WEBマガジンで、インタビュー、女性の生き方、また様々な流行事象分析など、主に“読み物”と言われる分野の記事を手掛ける。 この人の回答一覧を見る
 取材・文/山本奈緒子

 

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