お国柄、地域柄もたっぷりと
堪能できるのもフィギュアスケートの良さ

ショートでは4回転ジャンプをクリーンに決めて、最終グループ入りしたイタリアのマッテオ・リッツォ選手。©️アフロ

ハビエル・フェルナンデス選手が競技者から引退してしまったものの、ユーロ勢も存在感を示してくれたマッテオ選手。

 

前回の記事で、”イタリア男子はこれから強くなりそう“と書いてしまったが、どうして、すでに十分強かった。
マッテオ・リッツォ選手はFSで最終グループに入り、総合では7位入賞。残念ながら、フリーでは4回転ジャンプを決められなかったが、得点を稼ぐための技やつなぎがせかせかと入るプロとは一線を画す、たっぷり見せる演技

それは、オリジナリティのある振付が目を引く11位に入ったフランスのケヴィン・エイモズ選手も同じ。フィギュアスケートの演技には、その国、地域ならではの特徴があるし、何より競技が盛り上がっていくためにも、いろいろな地域のスケーターに出てきてもらいたい。

ユーロ勢といえば、この選手も忘れちゃいけない、チェコのミハル・ブレジナ選手。フリーでは、あと少しでパーフェクトという演技をみせ、8位入賞。初出場にして表彰台まであと一歩だった2010年から、10大会連続出場。SPで上位につけて、今度こそ、と期待すれど、FSで”あああ……“なんて時期も長かったが、気がつけば、安定感を増し、滑りも洗練。
こんなに観客を惹きつける演技ができるようになるとは、正直、思わなかった。もうすぐ29歳の彼の演技を観ていると、芸術性が磨かれるのはこれから、という20代早々で引退してしまう選手が多いのが、ほんとに残念でならない

ベテランの輝きを放った、なんと10大会連続出場のチェコのミハル・ブレジナ選手。©️アフロ


心に刻まれた、男女二つのカルメン!
そして「新人賞」はリトヴィンツェフ選手


それにしても、プログラムにクラシック曲を使う選手が少なくなったなぁと、今回の世界選手権を観ていて、改めて感じた。

ウズベキスタンのミーシャ・ジーさん(今大会、振付師としてよくキス&クライにいましたね)が、減点覚悟でヴォーカル入りの曲を使って話題になったのは、2014年のソチ五輪

直後のシーズンからヴォーカル曲の使用が解禁になったのも大きいのだろう、ヴォーカル曲のプログラムもほんとに多かった。
クラシックより、馴染みのあるポップスやロックのほうが、自分がのりやすいという面もあるのかな。
ただ、声の低さや質に関係があるんだろうか。
男子は曲の世界観をうまく表現している選手が多かったが、逆に女子は、ヴォーカルに負けてしまっていると感じる選手も少なくなかった

ヴォーカル曲は、音楽にさらに声がのり、歌の意味まで伝わってしまう。その曲で何を表現したいのかが感じられない、つまり、使う意味が感じられないと曲負けしてしまう
つけ加えれば、技を詰め込むためにおかしなことになっている編曲も、気になってしかたない、フィギュアスケートは音楽性も大切な要素のひとつなのに。
演技時間が短くなって、得点を稼ぐためには技を詰め込まざるを得ないのはわかるけれど、全体的に演技もせかせかと感じられてしまい、音楽にあわせてたっぷりとみせるスパイラルやイーグル、そして超絶ステップ、もっと見たいなぁと、しみじみ。

ちなみに、今回心に残ったのは、男女ふたつのカルメン。女子はカナダのガブリエル・デールマン選手のSP。パワフルなジャンプを跳ぶ選手というイメージが強かったのだが、雰囲気も少し変わって……、いや、こんなに踊れるとは、とちょっと驚きました。

そして、もうひとつは、ロシアのミハイル・コリヤダ選手のFS
子供のころからずーっと滑りたかった曲だそうなのに、今季はなかなかパーフェクトが叶わず、演技後、うつむいてしまうシーンが多かったが、この大舞台でほぼノーミス。
振りもピタリと合わせて、踊り切った。上半身がブレずに美しいコリヤダ選手には、お似合いのプロ。演じ終えた後の、物静かなガッツポーズにもグッときました。
 

生まれも、練習拠点もモスクワというアゼルバイジャンのウラディミール・リトヴィンツェフ選手。今大会でファンを獲得したかも。©️アフロ


そして、個人的新人賞を、アゼルバイジャンのウラディミール・リトヴィンツェフ選手に
前回の記事で紹介したのは、ライブ配信で観てほしいとの思いから。
それが、FSにすすんで。まさかの地上波でのくるみ割り人形。ほんとうに手のポジションや動かし方が美しく、ノーブル。黒を白タイツに替えれば、完全にプリンシパルというのは、ご納得いただけたか、と
初出場となった今回は17位。成長するにつれ、どんなプログラムを見せてくれるのか、楽しみな選手。
こういう才能を見つけられるから、世界フィギュアはやめられない。


齋藤優子(さいとうゆうこ)
ライター。女性誌を中心にフィギュアスケート記事も少々執筆。アルベールビル五輪でウクライナのヴィクトール・ぺトレンコ選手の演技を観て、ハマる。独自の世界観を持つ選手に惹かれがち。

構成/藤本容子(編集部)
 
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