MB:だって相手のために服を着るんだから。ヨーロッパの人、とくに男性の例ですが、普段はボサボサ頭にデニムを合わせるような適当な格好で歩いているんですよ。でも彼らは夜になると、きちんとヘアスタイルを整え、ジャケットをはおったドレスアップスタイルで出かけるんですね。そんな風に、男性がいつも同じTシャツを着ているのではなく、公園に行くときはパーカを、デートに行くときはジャケットを着る、というように、メリハリのあるスタイルをしている方がおしゃれだと思いませんか。それは女性も同じこと。それに、フレンチ、イタリアン、アメカジ、モードetc……、ファッションにはいろんなテイストがあるのだから一つの方向性に決めてしまうのはもったいない。TPOに応じてそうした様々なスタイルを取り入れながら多彩な装いをする方が、きっと相手が喜んでくれるし、自分も楽しい。

 


―なるほど。自分のためだと思うからエゴが入って、『何を着たらいいのか分からない』とおしゃれをすることが難しくなるのかもしれません。でも、相手やシーンに応じるということを優先すると、確かに着こなしを楽に考えられるような気がします。

MB:そうなんです。自分のスタイルはこれ!と、自分のエゴにとらわれていたら、相手を喜ばせるというところからは大きく離れてしまいます。自分のためだけのおしゃれに頭を悩ませていた人は、一度、洋服って、誰に見てもらうもので、誰のために着るものなんだっけ?と考えてみてください。もちろん自分のスタイルはあってもいいけれど、相手のためにいろんな格好をするというのも決して悪くはないですよ。僕はこれをよく“上位目標”と“下位目標”に置き換えて読者さんたちに説明しているんですが、今までの話でいうと、おしゃれをするというのは下位目標なんです。そして、何のためにおしゃれをするのかという目的を探っていったとき、『相手を喜ばせたいから』、『相手と円滑なコミュニケーションを築きたいから』という真の目的が表れる。これが上位目標になるわけです。そこを入れ替えてしまっている人が結構多い。『おしゃれをする』ことを上位目標にしてしまっているから、最先端の服を買わなくちゃとか、自分のスタイルが分からなくて焦るとかいう方向に考えが行ってしまうんです。

「おしゃれな人は、自分のために服を着ていない」【カリスマメンズバイヤーの結論】_img0
日本で男性がもっとファッションを楽しめるように、そして個々の人生を謳歌していけるように。そのための土台作りをしたいと思って活動を続けています。そしてゆくゆくは世界的に見てもとくに優れている“素材へのこだわり”を日本ならではの洋服文化として根付かせ、おそらく再び来るルネッサンスの時代に花開くように。そして世界中で『日本のファッションはすごい』と認められるようにしておきたい。そんな壮大な夢を描いています(笑)。


褒め言葉の積み重ねが確かな自信につながる


―なるほど。おしゃれのその先にあるものが大切だということですね。ミモレの読者さんたちとのやり取りから感じることですが、読者の皆さんにとって『おしゃれになること』が下位目標だったとしたら、上位目標は『自分に自信をつけること』なのかもしれません。自信をつけるための処方箋はありますか?

MB:それはファッションにおいては簡単で、端的にいうと『褒められること』が自信をつけるための一番の秘訣なんじゃないかなと。仮に正解だとされる完璧なスタイルをしたとして、それで自信が生まれるかどうかというと単なる独りよがりになるかもしれない。でも、会った人に一言「おしゃれですね」と褒められたら、急激に自信がついたりするものですよね。


―そうですね。どんなにいい服を着ておしゃれをしていたとしても、山奥に一人でこもっていたら自信はつかないかもしれません(笑)

MB:そうですよね(笑)。つまり自信というのは人間関係の中でしか生まれないので、まずは明日会う人に褒めてもらうということを前提に、コーディネートを組み立ててみる。そして、一言でいいから素敵だねとか可愛いねと褒めてもらえたら成功です。とはいえ、同性から誉め言葉をもらうのは簡単だとしても、男性から引き出すのは結構難しいもの。なぜかというと、男性はどのワンピースが可愛いとかいう違いが全く分からないくらい、女性の服については無知で、褒め言葉の引き出しを持っていないからです。そんな男性に褒めてもらうには(笑)、スニーカーやストール、時計など、ユニセックスな小物をコーディネートに取り入れるのがこつ。たとえば、男性もよく知っているナイキのスニーカーを女性が履いていたら、『それ格好いいね』と褒めやすい。そうしたらしめたもので、だんだん服にも視線が来るようになりますから。


―やはりポイントは、一緒にいる相手が喜んでくれるような格好をするということですね。

MB:そうですね。僕は誉め言葉にはものすごく大きな力があると思っていて。そうした一言一言を心の中に積み重ねていくことが、10年洋服の修行をするよりもずっと自信を与えてくれるものだと思っています。
 

「おしゃれな人は、自分のために服を着ていない」【カリスマメンズバイヤーの結論】_img1
 

<書籍紹介>
『幸服論――人生は服で簡単に変えられる』

MB 著 ¥1000(税抜) 扶桑社

中高時代にアニメとゲーム好きだったオタク少年が、兄の洋服を借りたことから人生が変わり始める。そんな著者が、実体験を交えながら架空のさえないサラリーマンAさんにおしゃれを指南していくという対話形式のファッションルール本。理論的で明快なメソッドだけでなく、読んでいるうちに何か行動を始めたくなるほど前向きな気分になるような内容で、男性だけでなく女性も必読の一冊。


MBさんインタビュー 前編はこちら>>


撮影/片岡 祥
取材・文/河野真理子
構成/川良咲子
 
  • 1
  • 2