名門イェールに進学した
ネイサン・チェンは「数学満点」


それでもちょっと前までは大学側も、将来にわたって多額の寄付金を期待できる富豪の子どもにはある程度の便宜を図ることが出来た。アメリカの大学の多くは入学の条件として、SATの点数と同じくらい生徒が高校時代の実績やエッセイ(作文)を重視する。この部分の評価に下駄を履かせて富豪の子どもを優遇するわけだ。それよりさらに前はアメリカの大学も日本と同じく試験だけの一発勝負だったそうだが、勉強熱心なユダヤ系の子どもばかり合格する事態が発生して、現在の制度になったらしい。

しかしこのような富豪シフトを行なっても近年はアジア系の子どもばかりが上位を独占する現象が多発して問題になっているらしい。妥協という言葉を知らないアジア系の親たちが、子どもに勉強だけでなく課外活動も徹底してやらせるからだ。その象徴が世界選手権2連覇を達成した中国系フィギュアスケート選手ネイサン・チェン。彼は今秋から名門イェール大学に進学するのだが、合格の決め手はスケートの成績だけではない。彼のSATの数学の点数は満点だったのだ。

あのチェンですらこうなのだ。大学側にしてみれば、小金を持っている程度のセレブが将来の寄付金をチラつかせるくらいでは、勉強も課外活動もイマイチな子どもを正規ルートで受け入れるなんて不可能な話なのだ。それでも子どもを表口から進学させたい場合、幾らくらい寄付金が必要なのだろうか? 一例として、あるケースを紹介しておきたい。

スヌープ・ドッグやエミネム、ケンドリック・ラマーらを見出したヒップホップ・プロデューサーで、ヘッドフォン・ブランドbeatsの設立者でもあるドクター・ドレーの娘トゥルーリーは、ハフマンとロックリンが逮捕された同じ月にUSCから合格通知を獲得した。大喜びしたドレーは、入学証明書を持った娘とのツーショット写真に「娘は自力で合格した。逮捕なんかされないぜ!」とキャプションを添えて自身のインスタグラムにアップしたものの、「自力と言えるのか?」「アンタくらい寄付金を払っていたら、どんなバカ娘でも入学を許されるだろ!」などと総ツッコミを受けてしまい、慌てて削除している。

ドレーは2013年に、ビジネス・パートナーのジミー・アイオヴィンと共同でUSCに数億ドル規模の資金を提供し、「USCジミー・アイオヴィン&アンドレ・ヤング アカデミー」と名付けた芸術学部を丸ごと設立していたのだ。
 

文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。最新刊は渋谷、浅草、豊洲など東京のいろんな街を舞台にした連作小説『インナー・シティ・ブルース』(スペースシャワー・ブックス)。ほかに『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』、『文化系のためのヒップホップ入門12』(大和田俊之氏との共著)など。

構成/榎本明日香、片岡千晶(編集部)

 

著者一覧
 

映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。

文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。最新刊は渋谷、浅草、豊洲など東京のいろんな街を舞台にした連作小説『インナー・シティ・ブルース』(スペースシャワー・ブックス)。ほかに『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』、『文化系のためのヒップホップ入門12』(大和田俊之氏との共著)など。

ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。人生で最も強く影響を受けた作品は、テレビドラマ『未成年』。

メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。

ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。

ライター 西澤 千央
1976年生まれ。文春オンライン、Quick Japan、日刊サイゾーなどで執筆。ベイスターズとビールとねこがすき。

ライター・編集者 小泉なつみ
1983年生まれ、東京都出身。TV番組制作会社、映画系出版社を経てフリーランス。好きな言葉は「タイムセール」「生(ビール)」。

ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『僕らは奇跡でできている』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。

 
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