ほぼ同期の人気お笑い芸人が「嫌な奴」を笑い飛ばす
この春スタートした関西ローカルの新番組「もう少し、嫌な奴」(ABCテレビ)のレギュラー出演者の名前を見て、思わず「マジで?」と二度見した。なぜなら、関西ローカルのレギュラーをすべて卒業し、18年4月に東京進出を果たしたかまいたちの名前があったから。全国区で激売れフラッグが立ったこのタイミングで関西ローカルに出戻りレギュラーを持つという、開き直りとも言える貪欲さが潔くてかっこいい。さらには、「めちゃめちゃイケてる」や「M-1グランプリ」ですでに全国区といえる芸人ジャルジャルと、千鳥、かまいたち、ダイアンが東京に進出後の関西で存在感を強めたアキナの名前もあった。この3組を、この時期にレギュラー番組にブッキングするのは全国ネットのプライムタイムのような豪華さだ。
3/31(日)に放送された初回は1時間の拡大版。「嫌な先輩」「嫌なコンパの女」「嫌な美容室の客」をテーマに、一般人の“嫌な奴体験談”のVTRをネタに、6人がトークを展開。長い年月をともにしてきたほぼ同期6人は、共有するエピソードが多く、遠慮のないトークからは彼らの青春時代の香りも漂う。その後、彼らが「もう少し、嫌な先輩」(アキナ)、「もう少し、嫌なコンパの女」(ジャルジャル)、「もう少し、嫌な美容室の客」(かまいたち)をテーマにした新作コントを披露するという流れ。2017年に優勝を果たしているかまいたちを筆頭に「キングオブコント」常連の、実力派コント師3組による新作コントが見どころだ。4/7(日)23時10分からスタートした30分枠の通常放送では、テーマを「嫌なコンビニの客」ひとつに絞り、コントも週替りで一組に。ちなみに現在配信中の4/14(日)のテーマは「嫌な元カレ」。ジャルジャルらしいクセが強くスピード感満載のコントに、アキナとかまいたちも「頭おかしすぎたね(笑)」と爆笑していた。
ローカル番組が全国どこでも見られる幸せ
このように関西ローカルの番組を、東京にいながらほぼリアルタイムで視聴できるのはTVer(TV番組の広告付き無料配信サービス)のおかげである。こんな世界を、15年前の自分に教えたら間違いなく嫉妬するだろう。なぜなら、北関東に生まれ育ち、大学進学を機に上京した筆者にとって、関西ローカル番組は憧れの桃源郷だったから。若かりし頃のダウンタウンが出演していた「4時ですよーだ」(87〜89年)を視ていたことを自慢してくる関西人のマウンティングに、何度悔しい思いをしたことか…! なるみと陣内智則がMCを務める「なるトモ!」(読売テレビ)が、一時期日本テレビでも放送されたとき(05年10月〜06年3月)は、「関西ローカルの朝の生放送」を初めて体験し、「なにこのダラダラ喋ってるだけなのにずっと面白い感じ…!」と衝撃を受け、毎朝録画して晩酌しながらチェックした。
関西芸人は、関西で売れてから東京に進出するというケースが多いが、シャンプーハットのように関西にとどまる道を選ぶ芸人もいる。シャンプーハットの出演する番組は、お笑い好きの東日本在住者にとって垂涎の的。彼らが出演する「今ちゃんの『実は…』」(ABCテレビ)や「マルコポロリ」(関西テレビ放送)を、今はTVerで視ることができるのだ。東京進出前の千鳥やダイアン、かまいたちのように、東京では0なのに関西では二桁ものレギュラーを抱える超売れっ子のアキナを追いかけることだってできる。なんて幸せな世界なんだろう。ちなみにTVerには「関西エリアのご当地番組」という特集ページも。ここをチェックして、ネクスト千鳥を青田買いするのも一興だ。
TVerは、もともとは在京民放キー局5社(日本テレビ、テレビ朝日、TBSテレビ、テレビ東京、フジテレビジョン)が2015年10月に立ち上げ、追って、各地方のテレビ局が参加していき、現在は常時約200番組を配信中。地上波でのオンエア終了直後にTVerで配信され、7日間は何回でも視聴可能(radikoのタイムフリーに見習ってほしい!)。現在は、千鳥がMCの「相席食堂」(ABCテレビ)や、ハイヒールモモコがMCの「ビーバップ!ハイヒール」(同)ほか、「痛快!明石家電視台」(MBS)だって視聴できる。北海道ローカルでいえば、タカアンドトシの冠番組「ジンギス談!」(HBC北海道放送)や、サンドウィッチマンの「熱烈!ホットサンド!」(STV札幌テレビ放送)もラインナップに含まれる。逆に言えば、東京ローカルの番組を全国各地で視ることだってできるのだ。インターネットによるテレビ地域格差の撤廃、まことにビバである。全国ネットの番組では、関西芸人は緊張し、萎縮し、本来の力を発揮するまでに時間がかかる。あの千鳥だって例に漏れず、東京進出後もしばらく苦戦が続き、東野幸治から「帰ろか・・・千鳥」という企画を「アメトーーク!」に持ち込みされたほど。だから、この豪華な3組がホームの関西でのびのびと力を発揮する「もう少し、嫌な奴」を、関西ローカル番組で見られることが何よりもありがたいのだ。それにしても、もしもTVerがなかったら、「もう少し、嫌な奴」を東京では視られなかったと思うとゾッとする…!
<番組情報>
『もう少し、嫌な奴』
ジャルジャル、アキナ、かまいたちの実力派コント師3組が出演するトーク&バラエティ番組。どこの世界にもいる“嫌な奴”。そんな人たちに悩まされ、強いストレスを抱えたお客様をスタジオ「イヤ・シアター」にお迎えし、3組がお客様が思うより「もう少し、嫌な奴」のコントを演じて“嫌な奴”を笑い飛ばす!
ABCローカルにて毎週日曜夜11時10分より放送。
出演:ジャルジャル (後藤淳平・福徳秀介)、アキナ (秋山賢太・山名文和)、かまいたち (濱家隆一・山内健司)
ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。
文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。著書に『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』(洋泉社)、『聴くシネマ×観るロック』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、共著に『ヤング・アダルトU.S.A.』(DU BOOKS)、『文化系のためのヒップホップ入門1&2』(アルテスパブリッシング)など。
ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。人生で最も強く影響を受けた作品は、テレビドラマ『未成年』。
メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。
ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。
ライター 西澤 千央
1976年生まれ。文春オンライン、Quick Japan、日刊サイゾーなどで執筆。ベイスターズとビールとねこがすき。
ライター・編集者 小泉なつみ
1983年生まれ、東京都出身。TV番組制作会社、映画系出版社を経てフリーランス。好きな言葉は「タイムセール」「生(ビール)」。
ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『僕らは奇跡でできている』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。
映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。