あらすじ
ストックホルムオンリピックから帰って来た金栗四三(中村勘九郎)は、四年後のベルリンオリンピックに再度挑戦すべくトレーニングを開始した。
新たな世界に挑む四三たち
新元号「令和」が発表になって盛り上がっているとき、ドラマでは明治天皇が崩御し元号が大正に変わったということでタイミングよし。乃木大将が自決した話題も出てきて、三島家で四三が「乃木さん?」とトイレですれ違ったことを懐かしみました。
サブタイトルは「新世界」で、四三たちは新たな世界に挑んでいきます。
四三は日本に持ち帰った槍や鉄球を仲間に紹介し、可児(古舘寛治)が日本に紹介したデッドボール(ドッジボール)でみんな盛り上がります。ただ、天狗倶楽部は解散してしまったのが残念!
今回、演出がチーフの井上剛さんと外部スタッフの大根仁さん。一話でどういうふうに仕事を分けているかというと…。
帰ってきた人や去っていく人のパートを井上さんが演出し、ストックホルム五輪の期間に日本に残っていた人々を大根さんが演出しているそうです。
日本に残っていた人といえば美濃部孝蔵(森山未來)。彼は師匠・橘家円喬(松尾スズキ)に「おまえにはフラ(魅力)がある」と言われ旅公演に行くことになりました。松尾スズキさんが、たけしさんのモノマネしたり、フラフラしてたりするところが笑いどころでした。
新章に入ったからか、肩の力が抜けてきたというのでしょうか、すこし雰囲気が変わってきた感じもします。なんといってもラスト、大竹しのぶさんが「続きは来週」と本編からそのまま予告につながるみたいなことを言ったところでSNSは沸きました。
啖呵を切る寺島しのぶ
続きが楽しみなのは、大竹さん演じる幾江と、嫁・スヤ(綾瀬はるか)が熊本に帰ってきた四三のもとに、嫁にと訪ねて来たことです。スヤには人の好さそうな旦那さんがいたはずですが……。
幾江とスヤ、そして、14回でインパクトがあったのは、寺島しのぶさん演じる二階堂トクヨです。
四三をあたたかく迎える人々の一方で敗因を厳しく追求する声があり、永井(杉本哲太)の弟子・二階堂トクヨ(寺島しのぶ)は、まかないのおばさん扱いされますが、とんでもない、現お茶の水女子大である東京女子師範学校の助教授で、四三と三島がふさわしい代表だったのかと厳しく問い詰めます。
歯向かう男たちに「この棚から落ちたぼた餅め。たまたま男に生まれたぼんくらという意味だ」と切る啖呵。寺島しのぶさんが毅然としていてとにかくかっこ良かった。
14回は、寺島しのぶ、大竹しのぶのダブルしのぶで締めたといって過言ではないでしょう。
ちなみにこのふたり、かつて大竹さんがサリバン先生、寺島さんがヘレン・ケラーで「奇跡の人」をやったことがあるのです、なんか強烈そうですよね(97年)。
おふたりともなんか堂々として華がある。そしてなにより実力も伴っている。
また、綾瀬はるかさんも大河ドラマ「八重の桜」で凛とした主人公を演じていました。「いだてん」でも彼女が出てくると、そのピュアな可憐さで華やぎます。彼女の場合はちょっとトボけたところも魅力のひとつ。
新章開始を紹介する予告では今後おなごの体育教育が描かれるということで、杉咲花さん、黒島結菜さん、ダンサーで振付師の菅原小春さんが活躍しそうです。橋本愛さん演じる孝蔵の仲間・小梅もキップの良い女という感じで素敵です。
大河ドラマは男性が活躍するというイメージも強いですが、「八重の桜」「花燃ゆ」「おんな城主 直虎」など女性が主人公のものもあります。
新章では女性が活躍するそうです。とりわけ、新章序盤は、四三とスヤの夫婦愛に注目しましょう。
映画の中で走る四三と弥彦
と、女性に期待をかけつつ、14回で最も涙した場面は四三と弥彦の場面でありました。
「(オリンピックの前と後では)東京がまるっきり違ってしまった気がしませんか」
ストックホルムで全力を尽くしたことを「だ〜れも証明してくれんけん」と肩を落とす四三を誘って弥彦(生田斗真)はストックホルムオリンピックの記録映画を見にいきます。
映画のなかで四三も弥彦も走っています。亡くなったラザロも。
現実の世界では記録があまり残っていませんが、「いだてん」の世界では四三と弥彦が生き生きとオリンピックに参加している姿が映画として残りました(映ってないけど彼らの目には見えているという描写かも)。現実では、入場行進でふたりが一緒に映った写真は現存していませんが、ドラマではちゃんとふたりは並んで歩いています。
歴史には残ってないけれどドラマでは残って、天国の、ホンモノの四三さんや弥彦さんや残された家族の皆さんはとても嬉しいんじゃないだろうかと思います。
人生には、語られないまま消えてしまうことがたくさんあります。よく、歴史は勝った側のもので勝った側の都合のいいように残されていると言いますし、負けた側のことが残ってないのです。
力の強い人、言葉のうまい人、数の多いものなどが残るのです。
物語とは、本来、こういう描かれなかった人たちのことをすくいあげるためにあるもの。
「いだてん」は負けた者たち、歴史に残っていない人たちに愛情を注ぎ、魂を救済していると思うのです。テレビを見ている名もなき視聴者(有名人じゃないという意味)の本当の味方です。
【データ】
大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)〜』
NHK 総合 日曜よる8時〜
(再放送 NHK 総合 土曜ひる1時5分〜)
脚本:宮藤官九郎
音楽:大友良英
題字:横尾忠則
噺(はなし):ビートたけし
演出:井上 剛、西村武五郎、一木正恵、大根仁
制作統括:訓覇 圭、清水拓哉
出演:中村勘九郎、阿部サダヲ、綾瀬はるか、生田斗真、森山未來、役所広司 ほか
第15回 「あゝ 結婚」 演出: 一木正恵
ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『僕らは奇跡でできている』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。
文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。最新刊は渋谷、浅草、豊洲など東京のいろんな街を舞台にした連作小説『インナー・シティ・ブルース』(スペースシャワー・ブックス)。ほかに『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』、『文化系のためのヒップホップ入門1&2』(大和田俊之氏との共著)など。
ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。男性俳優インタビュー集『役者たちの現在地』が発売中。twitter:@fudge_2002
メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。
ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。
ライター 西澤 千央
1976年生まれ。文春オンライン、Quick Japan、日刊サイゾーなどで執筆。ベイスターズとビールとねこがすき。
ライター・編集者 小泉なつみ
1983年生まれ、東京都出身。TV番組制作会社、映画系出版社を経てフリーランス。好きな言葉は「タイムセール」「生(ビール)」。
ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『僕らは奇跡でできている』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。
映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。