ニューヨークでの芸能活動、スタート!
渡辺直美が4月からニューヨークでの芸能活動を本格的にスタートさせた。毎週の収録が必要なレギュラー番組は降板したというから、かなりの収入ダウンになる。それでも彼女が冒険に打って出たのは何故だろうか? 本人は『”生き様が、芸人”でありたい』とインスタグラムで語っているけれど。
とはいえ、アメリカのコメディ・シーンが彼女のようなコメディアンに有利な状況になっていることは確か。ここ数年で体型が”ビッグ”な若手女性コメディアンのビッグウェーブが押し寄せているのだ。
『ピッチ・パーフェクト』三部作での見事な歌唱力でも知られるオーストラリア出身のレベル・ウィルソン(80年生まれ)は、ルックスから下ネタオッケーの芸風まで渡辺直美に近い(というか、『ナイト ミュージアム/エジプト王の秘密』では日本語吹き替えも務めていた)。
今年公開された(日本ではNetflixで視聴可能)主演作『ロマンティックじゃない?』でレベルが演じているのは、事故に遭ってロマンティック・コメディの世界に迷い込んでしまった女子。彼女は収入に不釣り合いな豪華な部屋に住み、ゲイの親友がいて、イケメンたちと次々偶然に出会ってしまうのだ。
「ロマンティックじゃない?」(Netflixで視聴可能)
要は痩せた美女が主人公と決まっているロマコメ映画の“お約束”がいかに非現実的かを暴いてみせたコメディなのだが、真に注目すべきポイントは、そんなシチュエーションに置かれたレベルがだんだん美女に見えてくること。
自信を持てば綺麗になれる!
「自信を持てば綺麗になれる。」そんなメッセージは、エイミー・シューマー(81年生まれ)が主演した『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』でも強く打ち出されている。この作品で彼女が演じるのは、頭を強く打ったショックで、自分を絶世の美女と勘違いした女子。こちらも見た目と態度のギャップが強烈な笑いを生んではいるのだけど、やはり自信満々のエイミーが美女に見えてくる。
『ロマンティックじゃない?』でエイミーの親友役を演じていたエイディ・ブライアント(87年生まれ)は、レベルやエイミーと比べるともっとリアル路線だ。今年主演したコメディドラマ『Shrill』(米Huluで配信)では、体型に悩みながらキャリアとプライベートの充実を追い求める女子を赤裸々に演じて絶賛を獲得。早々とシーズン2の製作が決定している。
アジア系女性コメディアンの活躍に注目
こうしたビッグな女性コメディアンたちの活躍と同時に、若手のアジア系女性コメディアンの活躍も、渡辺直美にとっては追い風だろう。そのツートップといえるのが、『オーシャンズ8』で共演していたインド系のミンディ・カリング(79年生まれ)と中国系と韓国系のミックスのオークワフィナ(88年生まれ)。前者はエマ・トンプソンとの共演作『Lat Night』、『クレイジー・リッチ!』での快演も記憶に新しい。後者は主演作『The Farewell』が待機中だ。
もっともミンディもオークワフィナもアメリカ人なわけで、言語面のハンディがある渡辺直美がキャリアを構築するのは大変なはず。それでも彼女がアメリカでの活動を選んだのは、日本より芸人としての自由を感じるからにちがいない。
現在の日本のお笑い番組は漫才がベースになっているため、ひとりではギャグが完結せず、別のパフォーマーが「おもしろい」と認めた時点で観客も笑う構造になっている。その「おもしろさ」を認定する権利を持っているのが番組の司会だ。このため芸人は、司会が求める笑いを忖度してネタを披露することになる。司会が年取った男の場合、女性コメディアンは否応なしに彼らが関心を持つルックスやモテ・非モテといったトピックに取り組まざるをえなくなるというわけだ。
念のため言っておくと、アメリカのお笑い界も男女同権とは言い難い。お笑い番組の頂点とされる地上局のナイトショー(深夜の帯番組。作りは「笑っていいとも」に近い)の司会も現在は全員中年男が務めている。それでもコメディアンがゲスト出演した場合、ネタ振りからオチに至る笑いの主導権はゲスト側にある。司会は相槌を打って笑っているだけのことが多い。
どうしてこうなったかというと、アメリカのお笑いの主流が早い段階でボケとツッコミをベースとしたボードヴィルから、スタンダップ(ひとりで行う漫談)に移ったから。その創世記といえる1950年代にスタンダップ業界に足を踏み入れる女子を描いたドラマが、エミー賞も獲得した『マーベラス・ミセス・メイゼル』(Amazonビデオで配信中)だ。
『マーベラス・ミセス・メイゼル』(Amazonビデオで配信中)
ブラックドレスにパールのネックレスというコスチュームで、毒舌トークをぶちかます主人公のモデルになったのは、現代アメリカ女芸人のパイオニア、ジョーン・リバース。ハッピーでキュートなコメディではあるけれど、この作品で時折語られる芸人論は又吉直樹の『火花』もびっくりの、熱く深淵なものだ。渡辺直美もこの作品を見たなら、勇気づけられるはず。彼女のアメリカでの活躍を期待したい。
文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。最新刊は渋谷、浅草、豊洲など東京のいろんな街を舞台にした連作小説『インナー・シティ・ブルース』(スペースシャワー・ブックス)。ほかに『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』、『文化系のためのヒップホップ入門1&2』(大和田俊之氏との共著)など。
文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。最新刊は渋谷、浅草、豊洲など東京のいろんな街を舞台にした連作小説『インナー・シティ・ブルース』(スペースシャワー・ブックス)。ほかに『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』、『文化系のためのヒップホップ入門1&2』(大和田俊之氏との共著)など。
ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。人生で最も強く影響を受けた作品は、テレビドラマ『未成年』。
メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。
ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。
ライター 西澤 千央
1976年生まれ。文春オンライン、Quick Japan、日刊サイゾーなどで執筆。ベイスターズとビールとねこがすき。
ライター・編集者 小泉なつみ
1983年生まれ、東京都出身。TV番組制作会社、映画系出版社を経てフリーランス。好きな言葉は「タイムセール」「生(ビール)」。
ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『連続テレビ小説 なつぞら上』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。
映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。