第16回 「ベルリンの壁」 演出:大根 仁
第17回 「いつも2人で」 演出:一木正恵
あらすじ
第15回から第二章。15、16、17回のあらすじを駆け足で紹介するとこんな感じ。ベルリン・オリンピックに向けて練習を開始した金栗四三(中村勘九郎)が幼馴染のスヤ(綾瀬はるか)と結婚。人妻だったはずのスヤだが夫が亡くなったため、四三はその池部家の養子となり資金を援助してもらい、仲間に豚鍋を毎日のようにふるまいながら東京で奮闘するも、欧州での戦争によりオリンピックが中止に。失意のなかで体育の教師になり駅伝を考案、京都から東京・日本橋の大会を開催する。
「助け合う」がキーワード
「禍福は糾える縄の如し」金栗四三の人生を見ているとこのことわざを思います。金栗四三、勉強もできるし字もうまいし性格も悪くはないし(ときどきブラック発言もあるが)、体も丈夫で(こどものときは弱かったけど)実際走るのも早くてものすごく努力家にもかかわらず、いつも、いいところまでいきながら残念なことになってしまう。それでも神様は超えられない試練は与えないとばかりに不屈です。
ツイてないところにツイていたのがスヤと結婚できたこと。最初の夫が亡くなったとき悲しみに耐えせっせと鍋を磨いていた生きる力のあるスヤに「はじまってないもんが終わるわけなか」と励まされ、四三は新たな目標に邁進していきます。
マラソンは孤独過ぎるので、大人数で助け合う「駅伝」を思いついた場面はわくわくしました。50人の金栗四三が走ったり体操したりする想像図が面白かった。四三のような走者をたくさん育てて日本を底上げするという思いが、いまのオリンピック選手たちを生み出したというわけですね。学がなく車夫をして生きるしかない清さん(峯田和伸)が、四三は(自分たち)「日本の代表」なんだと励ましたこともきっかけになっているでしょう。
「助け合う」がキーワード。伴侶スヤとの助け合いが四三に希望の灯りを灯したのです。持つべきものは助け合える誰かなのですね。スヤが四三おすすめの冷水浴をやるところも麗しい夫婦愛でした。
泳ぐ少年たちのみずみずしさ
そんな頃、のちに東京オリンピックを呼ぶ男・田畑政治(阿部サダヲ)が水泳選手として活躍する、その黎明期が描かれはじめます。まーちゃん時代(山時聡真)です。しかも、まーちゃんは四三が開催した駅伝の途中・浜名湖を通ったところを目撃しているのです。まったく縁は異なものであります。
それなりに遠く離れた浜松と東京をつなげるのは、我らが語り部・美濃部孝蔵(森山未來)。地方興行の場のひとつ・浜松にいたところ、まーちゃんと出会うドラマチックな展開です。
浜松の海は開放的で、水泳少年たちがわんさか。朝ドラ「まんぷく」の塩軍団を思い出したりもしつつ、やっぱり思い出すのは、十代の森山未來が出演していたシンクロにかける少年たちの青春ドラマ「WATER BOYS」(03年)。山田孝之、瑛太など少年たちのハダカが眼福と人気だったドラマです。泳ぐ少年たちのみずみずしさはいいですねえ。
森山未來の大河!
水泳もいいけど、落語もね。というところで美濃部孝蔵の落語も、いろいろあって入った牢屋でバナナ欲しさに上達をはじめます。孝蔵の落語上達のきっかけを与えることになる牢名主役がマキタスポーツで、森山と共演した映画「苦役列車」(12年)を思い出しました。牢屋といえば映画「20世紀少年」で牢屋にうずくまって豊川悦司と会話する森山未来のことも思い出します。演出家・井上剛との「その街のこども」や大根仁との「モテキ」……なども含め、ドラマを見ているとなんだか勝手に森山未來のフィルモグラフィがめくるめいてしまうのです。さしずめ森山未來の大河! その強引な想像を擁護するように言わせてもらうと、人はみな、出会ったり別れたり、得たり失ったりしながら、河の流れのように生きているのですということですね。
それはさておき。みずみずしいといえば女性たちも。健気なスヤのみならず、三島家に女中として仕えていたシマ(杉咲花)が四三の下宿(播磨屋の二階)の向かいに引っ越してきて、女子のスポーツ選手を目指すという明るい展開もあります。予告のナレーションも川栄李奈さんになって清々しい(いえいえ、可児役の古舘寛治さんも渋くてユーモラスで素敵でした)。川栄さんのナレーションは24回まで。以後、定期的に変更予定。物語も四三から田畑と駅伝方式なうえ、ナレーションも駅伝方式です。やっぱり、助け合い、繋ぎ合うことの大切さを感じますね。
下宿の二階から見える富士山(箱根の山?)も清々しい! この二階のセット、播磨屋の一階はちゃんと足袋屋の店舗や作業場になっているそうです。シマの下宿の一階は謎。
【データ】
大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)〜』
NHK 総合 日曜よる8時〜
(再放送 NHK 総合 土曜ひる1時5分〜)
脚本:宮藤官九郎
音楽:大友良英
題字:横尾忠則
噺(はなし):ビートたけし
演出:井上 剛、西村武五郎、一木正恵、大根仁
制作統括:訓覇 圭、清水拓哉
出演:中村勘九郎、阿部サダヲ、綾瀬はるか、生田斗真、森山未來、役所広司 ほか
第18回「愛の夢」 演出:松木健祐、西村武五郎
ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『連続テレビ小説 なつぞら上』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。
文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。最新刊は渋谷、浅草、豊洲など東京のいろんな街を舞台にした連作小説『インナー・シティ・ブルース』(スペースシャワー・ブックス)。ほかに『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』、『文化系のためのヒップホップ入門1&2』(大和田俊之氏との共著)など。
ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。男性俳優インタビュー集『役者たちの現在地』が発売中。twitter:@fudge_2002
メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。
ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。
ライター 西澤 千央
1976年生まれ。文春オンライン、Quick Japan、日刊サイゾーなどで執筆。ベイスターズとビールとねこがすき。
ライター・編集者 小泉なつみ
1983年生まれ、東京都出身。TV番組制作会社、映画系出版社を経てフリーランス。好きな言葉は「タイムセール」「生(ビール)」。
ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『連続テレビ小説 なつぞら上』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。
映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。