先日行われた最新映画『ザ・ファブル』の完成披露試写会。父親代わりのボスに「1年間、人を殺さずに“普通”に生きろ」と命じられた、伝説的な殺し屋“ザ・ファブル”を描いた作品です。主人公“ファブル”こと佐藤アキラを演じる岡田准一さんのアクションがとにかくすごい!という作品なのですが、上映終了後、お運びいただいた読者の方のアンケートで、最も人気を集めたのは、アキラの身柄を預かった裏社会の会社社長・海老原を演じた安田顕さん。今回はその安田顕さんのインタビューをお届けします。多くの婦人を魅了する、その魅力とはどんなものでしょうか?

 

安田顕 1973年生まれ。北海道室蘭市出身。演劇ユニット「TEAM NACS」メンバー。バラエティ番組『水曜どうでしょう』に出演し注目を浴び、映画・ドラマ・舞台など数々の話題作に出演、硬派な役から個性的な役まで幅広く演じている。本年は、『なつぞら』(NHK連続テレビ小説)、『白衣の戦士!』(日本テレビ系)に出演中。

現在も連続ドラマ2本に出演中で、様々なメディアで顔を見ない日はないほど人気の安田さん。『愛しのアイリーン』『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』に加えて本作と、このところマンガ原作映画が続いています。実はどの作品でも、演じた役は安田さんとはあまり似ていないのですが、それでも観客を魅了するキャラクターとして成立させてしまうのが安田さんのすごいところです。

「マンガ原作とはいえ、それほど気負わず。原作の海老原はもっと恰幅が良く、衣装もそれに近いものが用意されていたんですが、明らかに私と全然違うし似合わなそうなので、“違うアプローチもありますかね?”と聞いたら、そっちも用意して下さっていたんです。俳優は、基本は監督の意図に従うものですし、僕の一存でやっているわけではないんです」
 

キレキレのアクションと、キャラクターの人間味


完成品を見た安田さん、ご自身が観客としてみた時の魅力は?と尋ねれば、「アクションです」と即答します。後半で20分以上続くアクションは、映画の最大の見どころ。体を鍛え上げて臨んだという岡田さんのアクションは、あまりにキレキレすぎてカメラがそのスピードに追い付かず、NGになってしまうこともあったのだとか。

「“誰も殺さず救えるか”という話ですけれど、“誰もケガさせずに撮影できるか”というのは、そこもひとつテーマだったんじゃないですかね。岡田さんはじめ男性陣はもちろんですが、山本美月さん、木村文乃さんの女優陣のアクションも、そんな不安定な靴で!とハラハラします。ああいうスリリングさは、CGじゃなかなか味わえないでしょうね。ご覧くださる方、めちゃくちゃハードルを上げて見てほしい。それでもなお“すごい!”と驚いてもらえるものを、監督とキャストさんで作り上げていると思います」

そう、“誰も殺さず救えるか”が、この物語のキモです。岡田さん演じるアキラは、自分を親代わりとして育ててくれたボスの絶対的な命令で、1年間人を殺すことができません。でももちろん、海老原の組織の内部抗争に巻き込まれ、山本美月さん演じるヒロイン、ミサキを救うために敵地に乗り込んでゆきます。その原因を作ったのが、安田顕さん演じる海老原の弟分・小島(柳楽優弥)です。

「海老原は反社会的勢力に所属する人間で、正義も何もありませんが、この映画の登場人物の中ではごくごくまっとうな考えの人だと思います。ひとつの組織を背負う人間として、特に弟分の小島に関しては、葛藤を抱えているんですよね。悪さばっかりしてしょうがないと思いながら、その反面ですごく可愛がっていて、ちょっとやそっとじゃ切り捨てられない。人間味があるんですよね」
 

弟分への愛情を表現した、安田顕の名演技


映画の中はコワモテだらけ、ワルだらけ。その中でアキラと海老原だけが、ワルでありながらワルと言い切れないのは、彼らが絶対に自分の「筋」を通すから、「美学」のようなものが感じられるからかもしれません。例えばヒロイン、ミサキに対して。病気の母の治療費を稼ぐために働き詰めのミサキは、以前には組織の食い物にされかけたことがあります。海老原はそんな彼女をそっと見守り、「俺らみたいんが、一番絡んだらいかん子や。お前も近づくな」と、アキラにもくぎを刺します。

「海老原には、組織の中でやってきたことに対する後ろめたさと、同時に誇りのようなものがありますよね。それが素人さんに対するあり方や、美学のように映っているのかもしれません。これまで無数の人間を殺してきたアキラに対して言う、いいセリフがありましたね。“お前の知ってる命ってなんや、俺の知ってる命ってのはよ、この理不尽な世界で唯一、平等で大切なもんや”っていう。キワキワっていうかね。あれ以上だと冗長になるし、ちょうどいいラインで言っているから、ミサキに対する言葉も生きてくる。原作者と脚本家さんの力です」

「普通」を知らない無表情なアキラが“カルチャーギャップボケ”を繰り出す、そのテンポの良さで物語はコミカルに進みます。それでいて「軽薄」にならないのは、それとは対照的な胸にジーンと来る人間関係があるから。その多くを担う海老原と小島の兄弟愛が、安田さんのきめ細かな演技で表現され、胸にぐっと迫ります。

「後半にある海老原と小島の最大の見せ場のシーンは、実は僕の撮影初日に撮ったんですよ。ホントにいっぱいいっぱいだったんだけど、それがよかったなと。あの場面を先にやったから、柳楽君が出所してくる最初の場面を、そこと呼応させることができました。海老原にとって小島が本当に愛しい存在だったとわかる場面になったと思うし、それはラッキーでしたね」
 

相手を落とすくらいなら、自分を落とすほうがいい。


俳優として、ご自身が守っている「筋」はありますか?と尋ねると、「俳優としての筋はわからない、ぶれっぶれ」と笑顔で答える安田さん。そしてこう続けます。

「でも人とのコミュニケーションでは、相手を落として会話を成立させるのは好きじゃない。それだったら自分を落として会話を成立させるほうがいいなっていう風には思っちゃう。だけどね、自分で落とすのはいいけど、他人に落とされるのは嫌なの。面倒くさいタイプですよ(笑)」

インタビューの最中もまさにそんな感じで、安田さんは、ちょいちょい自分で笑いを作っては、場を和ませます。そういう人間味が、「原作マンガと似ている、似ていない」という部分を超えて、キャラクターの魅力として演技の端々ににじみ出るのかもしれません。

「そう言っていただけると嬉しいですね。いつもこういう取材で申し訳ないんですが、演技プランとかって聞かれても、お話しづらくて(笑)。ほんとはね、角度によって白目にならないようにとか、少し表情を作ってからセリフ言うとか、いろんなことを効果的にする方法があるんでしょうけれど、僕はどうしてもそういうの、カメラ回りだすと忘れちゃう。セリフをちゃんと覚えて、噛み砕いて、相手の話聞いて、しゃべる、っていうだけ。それこそ“普通”っていうかね。なんかこっ恥ずかしいですね、こういうのね(笑)」

<映画紹介>
『ザ・ファブル』

 
 

週刊「ヤングマガジン」連載中で、単行本累計部数400万部突破し、「今、一番面白い作品」と呼び声が高いコミック『ザ・ファブル』を実写映画化。主人公のファブル/アキラ役には、自らも数種の武術や格闘技のインストラクター資格を持ち、『SP』『図書館戦争』などで高い身体能力を見せた岡田准一さん。世界基準のアクションとコミカルなシーンのギャップは見逃せません。共演に安田顕さんのほか、木村文乃さん、山本美月さん、福士蒼汰さん、柳楽優弥さん、向井理さん、佐藤二朗さん、佐藤浩市さんなど豪華キャストが集結。監督は、CMにその名を轟かす江口カン監督が手がけています。

出演:岡田准一 木村文乃 山本美月 福士蒼汰 柳楽優弥 向井理 木村了 井之脇海 藤森慎吾(オリエンタルラジオ) 宮川大輔 佐藤二朗 光石研 / 安田顕 / 佐藤浩市
原作:南勝久『ザ・ファブル』(講談社「ヤングマガジン」連載)
監督:江口カン 脚本:渡辺雄介  音楽:グライドファンク  主題歌:レディー・ガガ「ボーン・ディス・ウェイ」(ユニバーサル・ミュージック)   松竹・日本テレビ共同幹事作品  制作プロダクション:ギークサイト  配給:松竹 
コピーライト:©2019「ザ・ファブル」製作委員会
公式サイト:http://the-fable-movie.jp/


撮影/森山将人
 取材・文/渥美志保
 構成/川端里恵(編集部)