金栗四三(中村勘九郎)が赴任する名門女学校・東京府立第二高等女学校の女学生たち。 (左から)松浦りょう、黒島結菜、百瀬さつき、北 香那。
第21回 「櫻の園」 演出:西村武五郎
あらすじ
ベルリンで女性が生き生きとたくましくスポーツをやっている姿を見て、女子スポーツ選手の育成を行うことにした金栗四三(中村勘九郎)。大正10年(1921年)、名門女学校・東京府立第二高等女学校(通称・竹早)の教師となる。シマ(杉咲花)もそこの教師になっていた。


女子の口から「くそったれ」がやたら連発


「痛快男子」とは三島弥彦(生田斗真)のことだが、彼の出番がなくなってきたら、「痛快女子」と言ってもよさそうな人物が現れた。この回、女子の口から「くそったれ」がやたら連発される。最初に「くそったれ」を発したのは四三がベルリンで出会った未亡人。夫はオリンピックの槍投げの選手だったが戦争で出場できなかったうえ戦死。その形見の槍を投げるとき女は「くそったれ」(ドイツ語で「Verdammt!」)と叫ぶ。それがよく飛ぶこと飛ぶこと。この未亡人をはじめとして、ベルリンの女性はたくましく、子供を抱きかかえたままでボールを蹴ったりしていて、彼女たちの姿に感銘を受けた四三は帰国後、女性の体育教育を行うことになる。二人目の「くそったれ」は四三の生徒のひとり・村田富江(黒島結菜)。金栗に何か叫んで投げてみるといいと言われて、叫んだ言葉が「くそたっれ」+「おーーーーー」だった。

富江は華奢な体ながらものすごい勢いで遠くまで槍を飛ばず。それまで体育をやると当時の日本における美人の定義から外れてしまうと敬遠していた女子学生たちが、槍の飛翔に気分を高揚させる。まるで何かから解放されたような少女たちの笑顔が素敵。それを、四三が永井(杉本哲太)に勧められてつけた香水がキツすぎて臭いと逃げ回る女子と追いかける四三の姿として描くところが、へんに感動譚になり過ぎてなくて程よい。その後、富江は「くそったれ」「くそったれ」と言いながらテニスで永井を負かすほどにもなる。
金栗は、運動したほうが丈夫な子供が生まれ育ち、「日に焼けてお日様の下で汗ばかいたらもっともっとシャン(美人)になるばい」と持論を述べる。そのいい例がスヤ(綾瀬はるか)。自転車で足腰を鍛えたからこそ子供がすくすく育っているのだとか。確かに、現代では妊娠したとき適度に運動したほうがいいと言われているし、とりわけ水泳はおすすめされている。マタニティ・ヨガなんていうのも人気だ。

新キャラは「アシガール」の黒島結菜


さて。「くそったれ」精神を発揮した黒島結菜は、槍投げやテニスなど、撮影の1ヶ月前から、週に1回程練習したそうだ。黒島は2017年、土曜日の夕方にやっていた「アシガール」のヒロイン役で注目された俳優。戦国時代にタイムスリップした現代の女子高生が足の速さを生かして足軽として活躍。殿様に恋して、彼を守るために奮闘するというラブストーリーで、若者があまり見ないと言われる時代劇の年齢層を下げた秀作である。私は以前、大河ドラマを若者が親しむようになるには思い切って「アシガール」のような作品をやったらいいんじゃないかといういささか極論を述べたことがあるのだが、その主人公をやった黒島結菜がこうして大河ドラマで女子の体育を牽引していく役をやっている姿を見て感無量になった。黒島結菜は「アシガール」の前に宮藤官九郎の日曜劇場「ごめんね青春!」(14年)で高校行事・駅伝の第一走者を担う役を演じていた。「ごめんね青春!」「アシガール」「いだてん」と黒島結菜のキャリアが着々とつながっているように思ってこれまた感無量。魅力的なおなごに必要なのは欧米の女性のようなボリュームと四三は言うが、黒島結菜は非ボリューム系。赤毛のアンを演じたら似合いそうなホッソイ足で走る姿こそ萌える。

黒島結菜演じる富江といい、学校の先生になったシマといい、宮藤官九郎は少年と少女の境界にいるような雰囲気の人物を描くのが巧みに思う。「あまちゃん」の天野アキもそんな感じだった。誤解をおそれずに書くと、男は馬鹿、女は少年。つまり、まだ答えの出てない、行く先の見えない、可能性に満ちている、そういう人物を物語の中心にもってくると宮藤官九郎ドラマ、最高に輝きを放つ。

「結婚のために何も犠牲にしてほしくないんです。」


だが、少年ぽさを感じさせたシマは「結婚なんかしなきゃいい!」と喚きながらも、結婚しても仕事も走ることも続けていい、「結婚のために何も犠牲にしてほしくないんです。もうそんな時代じゃない」という良き伴侶(柄本佑)を得て、「足出してもお嫁にいけました」と最高にかわいい花嫁衣装を着て最高にかわいくはにかむ。そんな彼女と夫に「未来を意識して」というカメラマンは最初に四三の写真を撮った人(映画監督・山下敦弘)。四三には「世界を意識して」と言っていたが、今回は結果「明後日にしましょう」とずいぶんとスケールがささやかになった。

嘉納治五郎(役所広司)が神宮競技場の工事再開にこぎつけ、競技場の模型に胸とおしりがふっくらした女性選手の人形も混じっていて、それに思いをこめて触れるシマの表情も良かった。いきなり「世界」と構えなくても、「明後日」くらいを見ながら、ちょっとずつ前に進んでいくと、日本の金メダルも女性のスポーツも、徐々に願いがかなっていくのかもしれない。ときに「くそったれ」と叫びつつ、ちょっとずつ走っていきたい、そんなことを感じた21回だった。もうほんとうに「いだてん」いい話だ、くそったれ!

余談だが、四三が女子たちに「便秘か」と訊いたり女子の裸体図を見せたりすることが顰蹙を買ったことを聞いたスヤが「そんな助平な人じゃなかったとばってんが、欧米など回って変わってしまったとでしょうか」と言うのだが、四三がスヤをあすなろ抱き(バックハグ)する意外な場面もあって、これもまた欧米の影響ということなのか…なんてことも思った愉快な回だった。

【データ】
大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)〜』


NHK 総合 日曜よる8時〜
脚本:宮藤官九郎
音楽:大友良英
題字:横尾忠則
噺(はなし):ビートたけし
演出:井上 剛、西村武五郎、一木正恵、大根仁
制作統括:訓覇 圭、清水拓哉
出演:中村勘九郎、阿部サダヲ、綾瀬はるか、生田斗真、森山未來、役所広司 ほか

第22回「ヴィーナスの誕生」 演出: 林啓史

22回から登場する日本女性初のオリンピックメダリスト・人見絹枝を演じるダンサーの菅原小春の起用理由を演出家の一木正恵さんに語ってもらった。
「人見絹枝役を探すにあたり、3つのことを強く意識していました。まずは、とんでもないポテンシャルを持ちながら、文学的で女性的な二面性。次に、国内でのコンプレックスが、世界では賞賛に変わる。これを体現できる体格と筋肉を持つこと。最後に、女性が夢を託したスター、アイドルであることができること。この3つを併せ持つ人物は、役者に限らない。世界的な視野があること、圧倒的な存在感があること、なおかつ女性的であることが必須だと考えていました。
かなり早い段階から菅原小春さんが浮かんでいましたが、難しいだろうと思っていました。
そんな時、菅原さんが竹原ピストルさんと対談し、役者ではない人が演技する素晴らしさを指摘していた記事を読んで、来た‼︎と思いました。これはやるかもしれない、と。千載一遇のチャンスが訪れていると確信し、猛烈にオファーしました」

 

ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『連続テレビ小説 なつぞら上』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。
エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。

構成/榎本明日香、片岡千晶(編集部)

 

著者一覧
 

映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。

文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。最新刊は渋谷、浅草、豊洲など東京のいろんな街を舞台にした連作小説『インナー・シティ・ブルース』(スペースシャワー・ブックス)。ほかに『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』、『文化系のためのヒップホップ入門12』(大和田俊之氏との共著)など。

ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。男性俳優インタビュー集『役者たちの現在地』が発売中。twitter:@fudge_2002

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1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。

ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。

ライター 西澤 千央
1976年生まれ。文春オンライン、Quick Japan、日刊サイゾーなどで執筆。ベイスターズとビールとねこがすき。

ライター・編集者 小泉なつみ
1983年生まれ、東京都出身。TV番組制作会社、映画系出版社を経てフリーランス。好きな言葉は「タイムセール」「生(ビール)」。

ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『連続テレビ小説 なつぞら上』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。