先週、化学メーカー「カネカ」の男性社員が、マイホーム購入直後かつ第2子の育休復帰後2日目に転勤を命じられ、転勤日延期の交渉もかなわず、結局は退職を選んだという妻のツイートが話題になりました。このツイートやそれを支持する声の多さには、ちょっと隔世の感がありました。
6月15日に新著『なぜ共働きも専業もしんどいのか~主婦がいないと回らない構造』が出ます。日本の雇用システムは、主に男性の正社員に対して長時間労働や急な転勤に応じる代わりに雇用保障を与えてきました。男性がこうした無制限の働き方をするには、妻が夫を支え、家事・育児を一手に引き受けることが必要で、「主婦がいないと回らない構造」ができあがっていきます。
この構造は、専業主婦が働たくても働きにくい、男性が働き方を変えたくても変えにくい、そのために共働き前提の社会的インフラもできていかない……というループを生み出し、結果的に「誰にとってもしんどい社会」になっていったのだと思います。
滅私奉公的に働くことが求められる企業内では、社員が互いに監視し合い、暗黙の規範に従うことを強いる同調圧力も発生します。本来当たり前なはずの権利を使うことに対して「権利主張する人はやっかい」「時短勤務するのはぶら下がり」「男性で育休なんてやる気がない」などと見る向きも、以前は強かったと思います。
私が2014年に『育休世代のジレンマ』という本で「総合職の女性たちは育休から復帰したあともやりがいのある仕事を続けたいのだ」と言ったときにも、「わかる」という声と同時に「どんだけワガママ」という見方が噴出しました。
それが、今回の炎上騒動では、まず男性が育休を取っており、そのあとの不遇に対し「そんなら辞めます」と退職している。なぜ辞められたかといえば、妻が働いているからです。これに対して「これくらいのことで騒ぎ立てるなんて」という向きがなかったわけではありませんが、それよりも圧倒的に「ひどい人事」「こんな会社にいたくない」と会社を責める声が多かったようです。
いま子どもを産み育てている30~40代は共働きも増えていて、社会や組織に対して不満の声をあげられるようになってきている。そして、もっと若い世代は、雇用保障と引き換えの滅私奉公的な働き方なんか信じてもいないし望んでもいない。
SNS上で議論が進むからという側面もあるでしょうが、メディアの中で取り上げる人たちも含めて、世論を作るうえでの世代交代が進んできているように感じました。専業主婦の妻がいることを前提にした仕組み、これまで当たり前にみんなが我慢してきた慣習に、もう従っている必要はない。社会の方が変わってきているので、以前からスタンスを変えずにきた企業も、いよいよ変わらないといけない時が来ていると思います。
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