こんな素敵な70代がいるのか!と世間をザワつかせているマダム・チェリー。さぞ華やかな恋をしてきた方なのかしらと、その人生にも興味がわきますよね。宝塚音楽学校を卒業後、モデルとして活躍していた頃、マダムは運命の恋に落ちました。
先週発売されたばかりの新刊『マダム・チェリーの「人生が楽しくなるおしゃれ」』から、美しい宝物のようなストーリーを公開します。


 


その瞬間の喜びを、胸に抱き続けて


あるとき「VAN JACKET」のショーのオーディションに出かけた私に、運命の出会いが待っていました。
その人をひと目見た瞬間、まるで雷に打たれたように体中が震えました。直感的に思ったの。「絶対この人と結婚する」って。すごいでしょう。
当時広報部に所属していたその人こそが、夫となった人です。

 

最初は遠距離恋愛でしたから、東京でデートするときは、服がシワにならないように別の服を着て出かけて新幹線のトイレの中で着替えたりしたものです。それくらい気合を入れて、目一杯おしゃれをしていました。面倒だなんてちっとも思わなかった。

結婚は24歳のとき。神戸から東京へと嫁ぎ、モデル業はきっぱりとやめました。私、潔いんです。娘を授かり、子育てにいそしみながら、母として妻として過ごした専業主婦の時代も懐かしく思い出されます。お客さまの多い家で、毎日のように誰か来ていたわね。

VANを辞めて仲間たちと広告会社を立ち上げた夫は、仕事で海外に出かけることも多くて、そのたびに素敵なおみやげを買ってきてくれたものです。
初めてのエルメスのスカーフも彼からの贈り物。まだ日本には入っていなかったカルロス ファルチのバッグを頼んだときは、「高かったよー」なんて苦笑していましたっけ。

同僚には「海外に行くと、ご主人はあなたの服ばかり探しているよ」なんてからかわれたり。どうやらサイズに迷ってワンピースを自分で試着するなんていうこともあったみたい。

贅沢なものをドサッと買う人ではなかったけれど、センスのいい、とても愛情に溢れた贈り物をしてくれる人でした。

孫が生まれることを彼はとても喜んでいたけれど、当時すでに病床にあり、まるで入れ違いのように逝ってしまいました。最期が近づいた頃、私が感謝の言葉を伝えると、「ぽっぽ(私をそう呼んでいました)がそんなふうに言ってくれたらうれしいよ」。淡々とひと言。いつもの彼らしい言葉でした。

私ね、彼に初めて会ったときの身震いまで鮮やかに思い出すことができるの。
今でもあの瞬間の喜びに胸がつまって、涙することすらあるんです。なんて幸せなんでしょう。
これほどに幸せなことが一度でもあれば、人生何があろうと生きていけるのです。

婚約中、大阪万博へ行ったときのスナップ。夫とは遠距離恋愛でしたが、いろいろなところへ連れていってくれました。

 

 

『マダム・チェリーの「人生が楽しくなるおしゃれ」』
マダム・チェリー 著 講談社刊 定価1500円(税抜)


「老化は進化よ!」 70代でモデルになり、そのおしゃれも評判のマダム・チェリーが、毎日の着こなしをたっぷりと紹介! 年を重ねた今だからこそ似合う服やコーディネート、グレイヘアの育て方やアレンジ術など、人生後半のおしゃれを楽しむコツが満載です。

撮影/野口貴司(San・Drago)
インタビュー文/河合映江
構成/生活文化チーム