大森 そうそう、今日はその話をするために集まったんだった(笑)。昨年、編集長を引き継いだときにまず考えたのが、ミモレをサステナブルなブランドにするということ。スタートした当初からミモレが掲げている「あなたはあなたのままでいい」「人と比べない」「年齢を重ねることは楽しいこと」という価値観を、誰がミモレに出ていても、誰が運営したとしても残していけるようにしたい、と。だからこそ、大草さんとは違った手法で、ミモレの価値観を伝えていくギアチェンジをどうすべきかをずっと考えた。

川良 大森さんが編集長になってから、ファッション以外の新たな試みがかなり増えましたよね。「最近のミモレは社会派ですね」といろいろなところで言われました。

大森 ミモレが掲げるコンセプトを、ファッションを通じて伝えていくことは大草さんがやってきたことだし、今もやってくれていること。でも、ミモレの価値観を伝えられるのはファッションだけじゃないなともずっと思っていて。ミモレを読んでくれている人なら、こういうことにも興味があるんじゃないかな、と。いただくコメントやイベントなどで直接言葉を交わすことで、それは確信していましたね。ファッションは大好きだけれど、絶対にファッションだけに興味があるわけではないはずだ、と。

川良 大森さんのツレヅレを読んでいても、それを感じていました。

大森 あとミモレのコンセプトを言い換えるなら「人をラクにする」ということでもある。それは大草さん時代から変わらないんだけど、大草さんはラクになるための具体的な手段や方法がどんどん湧き上がってくるタイプで、それを自ら体現してくれていた。けれど、ツレヅレでは、問いかけるところで止めた。それは、私自身も答えが出ていないことということが大きいけれど、「私は、今、これがすごく気になるんですけれど、一緒に考えませんか?」というようなスタンスが大切なのかな、と。ミモレ世代の方々は普段は忙しすぎて、それをこなすことに精一杯で、いろいろなことが流れていってしまうと思う。でも、ふと立ち止まって目線を上げてみると、社会にはこんなにもいろいろなことが起きていますよ。そう、呼びかけるような気持ちで。何かに問題意識をもって、それを考える。自分で考えることは本当に面倒ですけれど、でも、考える筋力がつけば何かからは絶対に解放されてラクになれると私は思っているので。

川良 ツレヅレは、そのひとつの思考を提示するような場だなと私は思っていました。大森さんが考えていることや今起こっていることなど、いろんな事象がつながって、問題点が浮き上がっていく感じに、毎回なんてすごいんだと。この人は、いつか著者になる人なのではと密かに思っています。

編集部プチ情報:この日はメイクをしていますが、咲子が眼鏡をしているときは、ノーメイクかメイク途中であることが多いです(小声)。


大森 編集長になって一年、書く作業をしてみたら、意外に自分は文章を書くことが好きだって気づいたし、書いているうちに自分の頭の中にある点と点がつながることの快感に気がついた。スタート時は最低でも2日に1本のペースを自分に課していたのでネタ探しに困るかなと思っていたのだけれど、時間さえあれば毎日でも書けたな、と。自分がこんなに言いたいことがある人だったのかと、正直ビックリしている(笑)。

川良 ミモレを作っていると、自分自身のことでも、初めて気づくことや発見することが少なからずありますよね。こういうことを強く願ってたんだとか、こんなことに違和感を覚えるんだとか。

大森 ミモレって、すべてが自分事として考えやすかったからかも。読者の方と世代が同じだったり、近かったりするということも大きいけれど、イベントでお会いしたり、コメント欄のやりとりで意識を共有しているから、瞬時に自分の皮膚感覚で考えたり判断ができる。今まで編集者として、雑誌を作ってきたときにはなかった感覚。雑誌だとどうしても、雑誌の人格が先にあって、この“人”だったらどうかな、と客観的に分析するように考えるんだけど、ミモレでは“自分”だったらという物差しで考えられた。頭は使わず感覚だけで作業を進められるって、ウェブのスピード感にはとても必要なことだとも感じた。いろいろ新しい企画や試みをしてきたけど、自分が嫌だなと直感で感じたことは、してこなかったように思うよ。

川良 そうですね。自分事で考えられるというのは、そうかも。大森さんは本当に読者への思いが強くて、真剣に将来を心配して、いつか読者が住めるコミュニティを作りたいという夢を語ってましたね。

編集部プチ情報:小学校の通知表に書かれるくらい、泣き虫。「夕日を見ただけで涙ぐんでしまうくらい多感で。小学校の先生だけでなく、自分でも自分の操縦の難しさに困っていたくらい(笑)」。
編集部プチ情報:一方、咲子は卒業式やお葬式などでも絶対に泣かなかったとか。「泣けない自分にコンプレックスを感じてました(笑)」。やっぱり対称的!


大森 将来のコミュニティ構想は「未来は不安じゃない」と思えたら、「今、もっと冒険できる」んじゃないかなという考えから生まれたものなんだけどね。未来の不安要素を消してあげるという仕組みが提示できれば、今、一歩を踏み出せる人が増えて、結果的にいろいろとポジティブに未来は変わっていくのではないか、という。世の中のニュースを見ても、読者の方と話していても、将来への不安が本当に大きいな、と。私自身、のんきにゆらゆらと生きていきたいタイプなので。自分がのんきでいられるためには、皆がのんきになってくれないと困るというのがあるわけじゃないですか(笑)。それで、皆がハッピーにのんきに生きられる仕組みってなんだろうな、と。それは、“互助コミュニティ”なんじゃないかな、と自然に考えるようになったんだけど。みんなが集まってきて、思い思いの楽しみ方で過ごして、自分のできることは自分でして、助け合って、のどかな公園のような場が作れたらいいなと。江戸時代の長屋の暮らし、と思ったこともあるかな。