米倉涼子さんが、過去に観た映画を紹介するアーカイブ コレクション。
そのときに観た映画から、米倉さんの生き方、価値観が垣間見えます。

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『ビフォア・サンライズ』Castle Rock Entertainment / Photofest / ゼータイメージ

ラブストーリーの名作という噂を聞きながらも、一作も観たことのなかった“ビフォア”シリーズ。3作目の公開時に、3本を一気に鑑賞しました。

 

旅先で恋に落ちたアメリカ人のジェシーとフランス人のセリーヌが、ウィーンの街で過ごした夜明けまでの時間を描く『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離〈ディスタンス〉』。再会を果たしたふたりがパリの街を歩く『ビフォア・サンセット』。最新作の『ビフォア・ミッドナイト』では、パートナーとなり双子の娘たちにも恵まれたジェシーとセリーヌの今が、ギリシャを舞台に描かれています。

とにかくびっくりしたのは、ふたりが話しまくっていること。職業病なのかカット割りが気になってしまうのですが、やり直しのきかないワンシーンワンカットの場面が多いのに、ここまでの会話が繰り広げられているなんて本当にすごいこと!
イーサン・ホークとジュリー・デルピーが脚本作りから参加しているからなのか、かなりリハーサルを繰り返しているからなのか……、ひとつの街のなかでたくさん移動しているのでロケ場所も多いし、きっと撮影は大変だったんだろうな、とつい想像してしまいました(笑)。

また、1作目のふたりはまだコドモなのに恋のことをよく知っていて、日本人のカップルにはこんな会話はできないような気がしました。2作目は、せっかく再会したのに、えっ、ここで終わり!? してやられた!というラスト。でもこの2本を観たからこそ、ふたりの思い出を共有しているような気持ちで3作目を観られるんですよね。

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『ビフォア・サンセット』Warner Bros. / Photofest / ゼータイメージ


そして3作目。若かったジェシーとセリーヌがすっかり年をとって、ルックスと体型の変化に少しショックを受けながらの鑑賞となりました。
ケンカをするとセリーヌの言葉はとげとげしくなって、ジェシーはそんな彼女を許そうと追いかけていく。思わず、「セリーヌ、そんなに人のことを責める暇があったら、まずは体のお手入れをしようよ!」と言いたくなってしまうほど(笑)。

ロマンチストなジェシーと現実的なセリーヌのやりとりを聞いていると、ふたりが世界中の男と女の象徴のように思えてきます。登場人物はほぼふたりで、足元を映してからワンカットがはじまる単調な作りだった前2作とくらべると、カット割りも登場人物も映画として豊かになっているのは確か。友人たちと知的なおしゃべりをしながらテーブルを囲む場面もとても素敵でした。

どのセリフもあまりにも生々しくリアリティがありすぎて好みのタイプのラブストーリーではないけれど、3本連続で観られたのは面白い経験でした。前2作を予習してから『ビフォア・ミッドナイト』を観るのがおすすめです。

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『ビフォア・ミッドナイト』Sony Pictures Classics / Photofest / ゼータイメージ

これで完結のようですが、ふたりは一体どんなおじいちゃんとおばあちゃんになるのでしょう。私が大好きな『愛、アムール』のような夫婦は無理かなぁ。たとえばジェシーが病に倒れたらセリーヌはどうなるのか、ふたりの将来をいつか観てみたいような気もします。

『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』
列車のなかで出会って意気投合し、ウィーンの街で一夜を過ごすことになったアメリカ人のジェシーとフランス人のセリーヌ。半年後の再会を約束して別れるが……。主演ふたりが初々しい表情を見せている。

『ビフォア・サンセット』
数年後、作家となったジェシーがサイン会のために訪れたパリでセリーヌと再会。ジェシーが空港に向かうまでの限られた時間、パリの街をふたりで歩く。互いにパートナーがいながらも惹かれあうが、別れのときがせまる。

『ビフォア・ミッドナイト』
ギリシャの美しい海辺の街。双子の娘を連れて、友人たちとともにバカンスを過ごしにやってきたジェシーとセリーヌ。仕事と家庭、子育て、そしてふたりの関係のこと。男と女の本音をぶつけ合いながら、 一緒にいることの意味を探る完結編。

取材・文/細谷美香
このページは、女性誌「FRaU」(2014年)に掲載された
「エンタメPR会社 オフィス・ヨネクラ」を加筆、修正したものです。