子育てにおいて重要なキーワードは“安心”と“好奇心”
それでも子育ての基本はある。ひと言で言えば“安心”だ。それは、母親と子供の両方にとって、である。
妊娠中から母親が安心していること、出産授乳期を通して安心して赤ちゃんに向き合えること、そして赤ちゃんが親に信頼を寄せる親子関係を作るうえでも欠かせないキーワードが“安心”だ。
もう一つ重要なことがある。それは、生命はその本質において多様性を愛する、ということだ。そうれでなければ自らが生き残ることができないからだ。
では生命を多様なあり方へと成長させる原動力は何かというと、好奇心である。
ヒトの子供に限らず、哺乳類の子供、さらには鳥の子供であっても、巣立ちの時には「これから何が起こるんだろう、世界には何があるんだろう」という喜びに満ちている。高い学習能力を持つ哺乳類や鳥類の知能の本質というものは、新しいものへの好奇心だ。そして好奇心によって、住む環境を変えたり、個体によって様々な変化を起こす。好奇心に導かれ、多様なあり方へと成長することは、地球上の生命として文明の存在以前に既定された、基本的な育ちのあり方なのである。
多様な子供達が、好奇心に支えられて多様な成長をしていくこと、それが良いことなのだ。もしそれが妨げられるとしたら、それこそが子供の育ちに困難をもたらすだろう。
“愛着”が形成されると外の世界に探索に行けるようになる
もう一点、子育てにおいて重要な「愛着」について話をしたいと思う。
「愛着」とは“アタッチメント”という英語を訳した言葉である。日本では「愛」という漢字に引っ張られてニュアンスが変わりがちだが、アタッチメントとはタッチするということ、つまり触れてくっつくということだ。
もちろん「愛」があってのアタッチメントであるが、大事なのは何のために触れてくっつくか、ということだ。それは、赤ちゃんが“安心”するためである。
赤ちゃんは0歳の後半を過ぎると人見知りを始める。安心できる人とできない人の識別を始め、不安に駆られるとお母さんに泣いて訴えて、じっと見つめる。さらに月齢が進んでハイハイができるようになると、不安になったらにじり寄るようになる。この、泣く、見つめる、にじり寄る、というのが愛着行動である。
子供は親から離れると不安になる、そこでまた親にくっつく。すると元気になってまた外の世界に探索に行く。これが日常的に繰り返されるわけだ。
たとえば見知らぬ人が来たとき、子供は母親にくっついて安心を得たら、見知らぬ人にも興味を示したり、相手ができるようにもなる。つまり、お母さんが安全地帯となっているのだ。
では保育園に行っている子供の場合、愛着形成はどうなるのか? 子供一人一人に対応できるだけの大人の数がきちんと揃えられている保育園であれば、全く問題はない。保育園に行っている子供の方が、ずっと母親が子供に付き合っている場合よりも親子関係が良い例が多い、というデータもたくさん出ている。
『子育てで一番大切なこと』
杉山登志郎著 講談社現代新書 ¥840
『発達障害の子どもたち』『発達障害のいま』などの著書を持つ児童精神科医の杉山登志郎医師が、発達障害や不登校、虐待にはあまり関心のない普通の読者が読めるようにと書いた子育て本。編集者との対話形式で綴られているので、専門的な内容も非常に分かりやすい。子育ての基本を、妊娠時期から乳幼児期、小学生時期と、時期別に分析。また見逃されがちな発達障害、そして子育てにおける課題などについても解説している。
構成/山崎恵
・第2回『社会性の基となる「愛着形成」4つのパターン【子どもの発達障害の権威が解説】』はこちら>>
・第3回『子どもの発達障害を疑う時、言葉の遅れよりも注意したいこと』はこちら>>
・第4回『子どもの発達障害の権威が教える、乳幼児期のしつけで大切なこと』はこちら>>
・第5回『日本の学校制度が発達障害の子を苦しめる【児童精神医学の権威が今伝えたいこと】』は9月8日(日)公開予定
・第6回『日本にビル・ゲイツは育たない。発達障害の権威が指摘する“全体主義教育”の罪』は9月11日(水)公開予定
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