日々触れる情報の多さから、「どう育てれば良いのか分からない……」と途方に暮れている親も多い昨今。児童精神医学の第一人者である杉山登志郎医師は、著書『子育てで一番大切なこと 愛着形成と発達障害』 (講談社現代新書)で、人が人間関係を結ぶうえで最も基本となる親子関係の形成とそのパターンを解説。不安な親御さんたちへのアドバイスを送ってくれています。
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愛着の形成とともに進む、親のイメージの内在化
乳幼児は母親のところと外の世界を行ったり来たりしているうちに、徐々に離れる距離が長くなっていく。やがて玄関に、さらには幼稚園に、と。そしてその間に大切なことが起きてくる。目の前にお父さんお母さんがいなくても、そのイメージを子供が呼び起こすことができるようになるのだ。
たとえば目の前にコップを置いて、それを机の下に隠したとする。コップは存在しなくなったかというと、誰もが「机の下にある」と分かるだろう。
しかし赤ちゃんの未熟な認知能力では、目の前にいない人は本当に消えてしまったと思うのだ。それゆえ命綱であるお母さんが見えなくなると、とてつもなく怖くなって泣き出すというわけだ。
「いないいないばあ」という遊びがあるが、あれはまさに目の前の母親が消えたり現れたりするのがドキドキして楽しい、という深い遊びなのである。
私は、愛着が形成されるに従って、養育者のイメージが子供の意識に内在化すると考えている。つまり、自分の心の中に、受け止めてくれる親がいつでもいるから安心して冒険ができる、ということだ。
個人差があるが、この内在化は、普通は3歳頃までには完成すると言われている。そしてこれが、社会的な行動の土台になっていくのだ。
愛着が形成できているか判断する方法とは?
子供がどれくらい愛着を形成できているか判断する方法として、「新奇場面法」という検査法がある。以下のようなものだ。
1)ある一室にお母さんと赤ちゃんを入れて、二人で遊んでもらう。
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2)見知らぬ人が入り、お母さんが部屋を出ていく(赤ちゃんと見知らぬ人だけになる)。
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3)お母さんが再び現れ、見知らぬ人が退室する。
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4)お母さんが出て行き、赤ちゃんが一人取り残される。そこに見知らぬ人が入っていき、赤ちゃんを慰める。
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5)最後に母親が入室して、見知らぬ人が出ていく。
つまり、時間を決めて母親との分離と再会、そして見知らぬ人の存在と不在を繰り返すわけだ。そうすると、母親と離れた赤ちゃんは大泣きする、と考える人が多いだろう。しかし全員の赤ちゃんが泣くわけではないのだ。反応には、いくつかのパターンがある。
「安定型(B型)」
母親との分離では泣いて後追いをし、母親と再会したときには大喜びでべたべたくっつき、すぐに気持ちを落ち着かせる。親もすぐに子供を抱っこして泣き止ませて、子供の出すサインにきちんと敏感に反応している。双方のやり取りができている親子で、日本の子供の場合、6割ぐらいがこのパターンだ。
「回避型(A型)」
母親との分離では不安を示さず、泣いたり後追いもしない。母親が戻ってきても、抱きつくのではなく目をそらしたりする。見知らぬ人が一緒にいても、母親にくっつくという行動もあまり見られない。このような親子関係は、子供の働きかけに親がきちんと相手をしていなかったり、子供が泣いている時に慰めるのではなく𠮟ったり避けたりしてしまっていた傾向が強い場合に起きる、と考えられている。このパターンを示すのは、だいたい15%くらいだと言われている。
「アンビバレント型(C型)」
分離のときには大泣きして、激しい不安や混乱を示し、再開時にはべたっとくっつくだけではなく、母親を叩くなどの攻撃をする。親が自分の気分の都合で子供と関わっていて、子供の様子に敏感に反応することができていないため、子供側は不安定になって、一貫性のない行動をとることが多くなるのだ。このパターンは1割程度に認められる。
「無秩序型(D型)」
母親との分離はあっさりしていて、その後の再会の時には目を合わせず顔を背けたまま親に近づいたり、しがみついたかと思うと離れてしまったりと、養育者に対してどこか怯えたような仕草を見せる。また逆に、見知らぬ人にはべたべたとくっつく。いわゆる子ども虐待がおこなわれていたり、親子関係に強い緊張が続いているときに起きてくるパターンで、15%ぐらいいると言われている。
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