子どもの発達障害の権威が教える、乳幼児期のしつけで大切なこと_img0
 

「この子のためだ」との思いで取った行動が、子供を傷つけてしまうかもしれない。どう躾をすればいいのか、躾と体罰の境界とはどこなのか……。そんな不安を抱えながら子育てしている方は多いでしょう。児童精神科医の第一人者として著名な杉山登志郎医師が、基本について説いた『子育てで一番大切なこと 愛着形成と発達障害』 (講談社現代新書)。今回はこの本から、乳幼児期の躾と健康維持についての解説をご紹介します。

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どんな暴力であっても脳は確実に萎縮する


子供への躾において問題視されるのが「躾と体罰」だ。体罰というと殴る蹴るのイメージがあるが、子供の虐待の影響を見ていくと、「お前を産むんじゃなかった」という否定的な言葉を子供に向かって言い続けたり、きょうだい間で差別をしたりというような心理的虐待、そして必要な世話をしないというネグレクトのほうが、単純な体罰よりダメージが強いということが分かってきている。

もちろん体罰がいけないことには変わりはない。暴力を受け続けると、脳に明らかなマイナスの影響が出てくることもはっきりしてきている。
下記の表を見てほしい。

「誤った対応で変化する子どもの脳」
 ●性的虐待  → 後頭葉の萎縮、および脳梁の萎縮
 ●暴言被害  → 側頭葉の肥大
 ●体罰    → 前頭前野の萎縮
 ●DV目撃  → 視覚野の萎縮
 ●複合的虐待 → 海馬の萎縮

この研究によって、どの振る舞いがどのように脳にマイナスの影響を与えるのかが個別に判明している。よく「愛情があれば体罰だって良いんだ」という議論がされるが、愛があると判断されるような体罰でも、脳の萎縮は確実に起きてくる。萎縮するのは前頭前野という、考えることを司るとても大事な箇所だ。体罰はどんなものであっても、脳のとても大切なところにマイナスの影響を与えるということが、この研究で明らかにされたのである。
 

褒める回数を叱る回数より多くする


では子育てをする際の躾は、どのようなことに気をつければ良いのか? 勧められているのは、できるだけ「褒め伸ばし」をすることだ。
子供を𠮟らないというのは不可能だ。ただし叱る回数と褒める回数を比較したときに、褒める回数が多くなるようにすることがポイントだ。

そしてもう1つのポイントは、子供のやる気が出るように褒め方の工夫をすることだ。
一例を上げると、トークン・エコノミーというものがある。これは、子供がした良い行動にクーポン券をあげていくというやり方だ。
やり方を説明しよう。まず食事をする部屋にカレンダーを貼っておく。たとえば朝起きたらすぐにトイレに行って着替える、ということができたら、その日にちのところにシールを貼る。そうして、あらかじめ約束した枚数にシールが達したら、何かご褒美をあげるのだ。

ただしこれには注意点がいくつかある。
第1は、減点は絶対にしないこと。できなかったからといって貼ったシールを剥がしてはいけない。
第2は、最初はできるだけご褒美を小出しにすること。シール1枚につき1つのご褒美から始めても良い。定着してきたら、5枚とか10枚とか、貯めた枚数に従って大きなご褒美にしていくのだ。

ご褒美はすぐ消えるような小さなものが良い。たとえばチョコ1個など。毎回、大きなものを買ってあげるわけにはいかないからだ。
もちろん物でなくても良い。シールが5枚貯まったらお母さんがぎゅっと抱きしめてあげるというのでも良い。子供が喜んでくれればそれでいいのだ。

 
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