最も良いと考えられている愛着関係はどれか?


西洋では、大人の世界と子供の世界を分けることがいいこと、とされている。それゆえ母親との分離に不安を示さない子が最も良い子、と考えられ、「回避型」が「A型」と名付けられた。しかし愛着を研究している世界中の学者にとっては、今では「B型」が最も良い愛着関係として考えられている。

 
 

良い悪いは別として、AからC型は普通の親子関係と考えられている。
D型は“一般的ではない”が、D型の反応を示したからといって、必ずしも親の側に問題があるとは限らない。愛着形成は親子が互いに関わり合って成立するものであるから、子供側の要因によることもある。一例を言うと、子供の側に発達の凸凹がある場合だ。
発達の凸凹とは、発達障害の一つの言い換えである。簡単に言うと、成長において発達の仕方に段差がある、ということだ。こうした凸凹が子供側にあると、親に上手く接することができない、ということが起こってくるのだ。

それでも愛着が作られないわけではない。アタッチメントの形成時期が後ろにずれる形で、長期化するのだ。私の診てきたところによれば、発達の凸凹があっても、小学校中学年くらいに愛着形成がきちんとできあがる子が多い。過剰に嘆く必要はないだろう。


愛着形成が不十分だとトラウマに対して脆弱になる


愛着形成は親子関係の基本どころか、人間関係の基本である。
愛着形成ができると、子供の中に養育者のイメージが内在化することは先にも述べた。それはつまり、養育者のまなざしがいつも子供を守る、ということである。
たとえば何か悪いことをしようとしたとき、これをしたらお父さんお母さんが悲しい顔をするな、と思い浮かんできて止める。誰もがそんな経験をしたのではないだろうか。

そしてもう一つ、愛着形成による内在化には重要なことがある。
世の中にはトラウマになりそうなことが溢れている。対人関係のトラブル、交通事故、犯罪、災害など、自分ではどうしようもないことがいきなり降ってくる。こうした困難が起こって大変な思いをするのが人生でもあるのだが、この時守ってくれるのが、この内在化したまなざしなのだ。
本当に打ちのめされたとき、それでも人生を頑張ろうと思えるのは、自分の親や配偶者、子供の顔が心に浮かぶから。つまり、しっかりと愛着を結んだ人の存在が助けてくれるのだ。

反対に、基盤となる幼少時の愛着が不十分だと、トラウマに対して脆弱になってしまう。
脆弱といってもいろいろなレベルがある。子供の場合には、愛着障害という名前で呼ばれる、一連の心の問題が起きてくる。そして、それがそのまま大人になった場合には、何か満たされることのない人になりやすい。愛着の変わりに無駄な物を大量に買い込んだり、飼えないほどのペットを集めたりといったことが起きてしまう。人によっては、一生にわたる問題になることもあるのだ。
 

 

『子育てで一番大切なこと』
杉山登志郎著 講談社現代新書 ¥840


発達障害の子どもたち』『発達障害のいま』などの著書を持つ児童精神科医の杉山登志郎医師が、発達障害や不登校、虐待にはあまり関心のない普通の読者が読めるようにと書いた子育て本。編集者との対話形式で綴られているので、専門的な内容も非常に分かりやすい。子育ての基本を、妊娠時期から乳幼児期、小学生時期と、時期別に分析。また見逃されがちな発達障害、そして子育てにおける課題などについても解説している。

文/山本奈緒子
構成/山崎恵
(この記事は2019年8月29日に掲載されたものです)

 

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・第4回『子どもの発達障害の権威が教える、乳幼児期のしつけで大切なこと』はこちら>>

・第5回『日本の学校制度が発達障害の子を苦しめる【児童精神医学の権威が今伝えたいこと】』は9月8日(日)公開予定
・第6回『日本にビル・ゲイツは育たない。発達障害の権威が指摘する“全体主義教育”の罪』は9月11日(水)公開予定

 
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