短い睡眠で生活することのダメージ
子供たちの“発達”を踏まえた子育てにおいては「健康な生活を送るコツ」という課題もでてくるが、これに関しては切実な問題がある。それは、睡眠リズムの問題だ。
この最近の日本は、どの年齢でも睡眠時間が減っている。大人は残業で長い時間働き遅くに帰ってくるため、夜型の生活になる人が非常に多い。それに子供が巻き込まれているのだ。実際、子供の睡眠時間は減っている。
夜型になっても睡眠時間が長く取れればいいかというと、そうではない。人間も生き物だ。太陽と共に生活するようになっているから、やはり健康のためには早寝早起きが大切だ。しかし父親が夜遅くに帰ってきて、そこから子供と遊ぶとなると、幼稚園児が寝る時間は22時、あるいは23時になってしまう。
短い睡眠で生活するというのは、たとえばサバンナとか、危険な中で過ごしているときの状況と同じである。だから子供は睡眠時間が短くなるだけで、安心と真逆の生理的な状況が生まれてくる。つまり、緊張が切れないからイライラしやすくなってくる。体の成長のためのホルモンは、睡眠下で分泌されるものなので、眠らない子はその恩恵に与れない。神経の成長のためには、睡眠は欠かせないものなのである。
発達の凸凹がある子は、緊張がもともと高く睡眠がきちんと取れないこともある。その場合、最初に行うべきは環境調整だ。お父さんを含めて家族全員が協力して、早寝早起きの生活リズムを整えることが一番大切である。
しかし、俗に言う“カンが強い子”の場合、なかなか夜の睡眠が確保できず、そのため母親も睡眠不足でふらふらになることがある。そういう時には幼児であっても、睡眠を安定させるための薬を処方することもある。
子供の病気防止にはテクノロジーの制限も
最後に「子供の病気防ぐコツ」であるが、これはすごく単純なことをすればいいだけだ。まず早寝早起き。そしてきちんと栄養バランスのとれた食事、外でよく体を動かすことだ。この3つの古典的養生訓ができている子は、風邪を引いてもすぐに治ってしまう。
ただ私は、最近は4つ目の新たな項目が必要になったのではないかと考えている。それは情報制限だ。
今は親も子もずっとゲームをしているが、ゲームをすると興奮してしまう。寝る直前までゲームをして、興奮がおさまらないまま寝るとなると、睡眠の質が悪くなることも起こる。ゲームだけでなく、テレビやネット動画なども大情報源だ。そうしたものがつけっ放しになっていると、心が休まりにくいのである。
テクノロジーが悪いわけではないが、子供の病気への備えの第一歩は、情報制限も含め、ごく基本的な健康な生活にある、ということを覚えておいていただきたい。
『子育てで一番大切なこと』
杉山登志郎著 講談社現代新書 ¥840
『発達障害の子どもたち』『発達障害のいま』などの著書を持つ児童精神科医の杉山登志郎医師が、発達障害や不登校、虐待にはあまり関心のない普通の読者が読めるようにと書いた子育て本。編集者との対話形式で綴られているので、専門的な内容も非常に分かりやすい。子育ての基本を、妊娠時期から乳幼児期、小学生時期と、時期別に分析。また見逃されがちな発達障害、そして子育てにおける課題などについても解説している。
構成/山崎恵
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・第3回『子どもの発達障害を疑う時、言葉の遅れよりも注意したいこと』はこちら>>
・第5回『日本の学校制度が発達障害の子を苦しめる【児童精神医学の権威が今伝えたいこと】』は9月8日(日)公開予定
・第6回『日本にビル・ゲイツは育たない。発達障害の権威が指摘する“全体主義教育”の罪』は9月11日(水)公開予定
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