9月1日から8日間に渡って、京都の清水寺にて「CONTACT つなぐ・むすぶ日本と世界のアート展」が開催されます。総合ディレクターを務めるのは、『楽園のカンヴァス』『暗幕のゲルニカ』など数々のアート小説を生み出している原田マハさん。キュレーターから小説家へ転身以降、初となる大掛かりなアート展とあって、非常に高い注目を集めています。開催を直前に控えた原田さんに、展覧会をより楽しむための極意やアートに触れる意味を教えてもらいました。
予備知識なく「心の目で観る」「心の耳をすます」
「CONTACT つなぐ・むすぶ日本と世界のアート展」は、影響を与えた国内外のさまざまなジャンルのアーティスト、クリエイターの作品を並べて展示することで、世界と日本のアートがどういう風につながりあって発展していったのか、その軌跡を展観するというコンセプトで企画されています。“コンタクト”というタイトルの通り、アーティスト同士のコンタクトを展観するとともに、展覧会を訪れた人がアートやその背景にある世界とコンタクトできるかを重要なテーマとして追求したと原田さん。そのためのいくつかの試みの一つとして、展示された作品にあえてキャプションや解説を一切置かないことにしたそう。その意図とは……。
原田マハさん(以下、原田) まずは心の目で観ていただきたいんです。誰かにとってはアートでもなんでもなくても、誰かにとっては大切な何かかもしれない。先入観なく、心の耳をすませてみると、作品と作品の響き合いみたいなものが聞こえてくるのを感じていただけるんじゃないかと思います。
編集部 過去のインタビューや著書『すべてのドアは、入り口である。現代アートに親しむための6つのアクセス』などでは、作品解説は事前にウェブでチェックしていくことを推奨している原田さんですが、今回は「CONTACT展」の公式サイトを見ても、作品の解説も何も載っていません。
原田 そうなんです。素の状態で来ていただきたい。知らないアーティストも、聞いたこともない現代アーティストもいるとは思いますが、観ればインパクトがありますから。あまり説明はいらない。心に響くか、響かないか、感じるままでいいんです。
編集部 とはいえ、まったく知識なく楽しめるものだろうかと不安に思う方もいらっしゃるでしょう。会場では、原田さんによる全作品解説と、展覧会に合わせて書き下ろされた短編小説『20 CONTACTS 消えない星々との短い接触』の一部が掲載されたタブロイド紙が無料配布されるそう。
この小説は、アンリ・マティスから手塚治虫に至るまで、アート、文学、映画、マンガなどさまざまなジャンルの故人となった巨匠20人に、原田マハさん自身が手土産を一つ持って会いにいくというもの。本展に出品される18人の作家も登場します。どんな場所で会い、どんな会話をして、そして原田さんが何を手土産に選ぶのか……1編1編、非常に短い中にそのアーティストの情報がぎゅっと詰まっています。
原田 展覧会の準備と並行して、短い期間で書き上げたので、とても大変でしたが、とても楽しかった。読んでから展覧会に来ていただくとより楽しめると思います。絶対条件ではないけれど、一つのチョイスとしておすすめします。展覧会を見てから読んでいただいてもいいですし、もちろん、展覧会へいらっしゃれなくても小説としてだけでも楽しめるものになっています。
ミュージアムに来ることは、幸せな空間にコンタクトすること
編集部 子どもの頃から自然とアートに触れていたことが、今の仕事につながっているという原田さん。今回、小学生以下は無料としているのも、子どもたちにもアートに触れて欲しいという意図があるのでしょうか。
原田 大人とか子どもとか関係なく、アートへの敷居を低くしたいと思っています。子どもって知識じゃなくて心の目で見るから、響かないものは響かないだろうし、感じるものは感じる。海外の美術館に行くと、生後間もない赤ちゃんを連れている人を見かけることがあります。その両親は素晴らしい感性を持った人だなあと思うんです。ミュージアムに来ている人って、基本的にすごく幸せな人たちですよね。悩んでいる人もいるかもしれないけれど、アートに触れることによって癒されたり、対話をしたりしたいと思って美術館へいらっしゃっている。そういう平和な空間なんです。全く知識を持たない赤ちゃんこそ、大人には感じられない「平和な空気感」は感じるはず。なにか幸せなコンタクトをしている人たちの空間に、みずみずしい感性の状態で接するって素敵なことですよね。展覧会ってなんて心地のいい空間なんだろう、アートってなんて幸せなんだろう、という気持ちのよさを体験したことがあるかないかというのは、人生の豊かさに関係してくると思います。
編集部 昨今、山口周さんの『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』を始め、アートを語れるビジネスマンになることを推奨したビジネス書も増えています。
原田 いいことだと思っています。数字とか業績では追いかけきれない「感性」というものは、ビジネスを成功させていく上で非常に重要。お金を稼ぐ直接的な鍵にはならないけれど、その人が豊かに物事を考えられるか、豊かに物事を観られるか、ということは業績に反映されると思います。幅広い知識を持っている優れたビジネスパーソンにこそ、アートに触れる時間を持っていただきたい。仕事帰りにふらっと寄って、自分の好きなアートを見て帰る人がいたら、絶対素敵な人ですよね。そういう人が増えるといいなと思います。
展覧会は、来場した皆さんも含めて展覧会の一部
編集部 今はインターネットで検索すれば、世界中のあらゆる作品が見られる時代。アーティストの情報もすぐに得ることができます。
原田 その良さもあるし、敷居を低くしてくれている部分もあると思います。でも、展覧会は、空間も込みで体験を含めての展覧会。今回は特に「清水寺」という空間自体が非常に美しい場所なので、場所と作品の響き合いも見どころの一つ。足を運んで体験していただかないことには完結しないんです。会場に観察者が入ったことによって展覧会が完成する。皆さんも展覧会の一部なんです。そしてアートは、皆さんとアーティストの間のインターフェイス。心の目で観て、心の声でひびきあって、アーティストたちとぜひコンタクトしてみてください。
「原田マハが仕掛けるアート展!清水寺を舞台に8日間限定の挑戦状」はこちら>>
小説家 原田マハ 1962年、東京都生まれ。関西学院大学(近代文学)、早稲田大学(20世紀美術史)卒業。馬里邑美術館、伊藤忠商事を経て、森美術館設立準備室在籍時、ニューヨーク近代美術館に派遣され同館にて勤務。その後、インディペンデント・キュレーターとなり数々のアートイベントを手がける。2005年『カフーを待ちわびて』で日本ラブストーリー大賞を受賞しデビュー。2012年に発表したアートミステリー 『楽園のカンヴァス』が山本周五郎賞を受賞、ベストセラーに。2017年『リーチ先生』が新田次郎文学賞を受賞。『暗幕のゲルニカ』『ジヴェルニーの食卓』『サロメ』『たゆたえども沈まず』『モダン』『常設展示室』など、アートや美術館を主題にした「アート小説」を多数発表。最新刊は、国立西洋美術館の礎となった松方コレクションを巡る物語『美しき愚かものたちのタブロー』。
<イベント詳細>
「CONTACT つなぐ・むすぶ 日本と世界のアート展」
会期:2019年9月1日(日)~ 9月8日(日) ※会期中無休
開催時間:7時~18時(最終入場は17 時)
会場:清水寺(京都市東山区清水1丁目294)成就院、経堂、西門、馬駐
入場料:大人1,800円、子供(小学生以下)無料
*モーニングチケット(7時~9時入場)大人1,600円、子供(小学生以下)無料
*トークイベントとのセットチケット5,000円
前売券:公式サイト、「チケットぴあ」にて発売中(当日券あり)
主催:「CONTACT/CONNECT展」実行委員会、京都新聞、BS日テレ、anonyme
お問い合わせ:「CONTACT/CONNECT展」実行委員会 事務局
E-mail: info@contact2019.com
TEL: 075-351-9915(チケット販売窓口:株式会社のぞみ内)
*電話応対時間:10:00-18:00 *土日祝・お盆休暇除く
CONTACT展公式ホームページ http://www.contact2019.com
取材・文/川端里恵(ミモレ編集部)
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