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夫婦対談『今日の買い物』ができるまで 【岡本仁&岡本敬子】

 

ミモレの連載記事でもおなじみのファッションディレクター、岡本敬子さん。これまで家一軒ぶんが買える金額を洋服に投じてきたという、生粋のファッショニスタ、かつお買い物好きとして知られています。かたやご主人の仁さんも、かつて敬子さんを交えて日々買ったものをブログで公開し、それを本にまとめた著書『今日の買い物』を出版されていたこともあるというお買い物好き。今回はその新装版がリリースされるにあたり、お二人から新著にまつわる裏話や、お買い物哲学が垣間見えるエピソードをたっぷりと聞かせていただきました。世間では断捨離ブームでミニマリストが増え、消費活動に元気がなくなっているといわれている昨今。お買い物ってやっぱり楽しい!と思わせてくれるようなお二人のお話に、しばし耳を傾けてみませんか。

 


毎日書くこと、から始まった
買い物ブログが話題に


―2005年に上梓されて好評を得た『今日の買い物』が、今回装いを新たにして出版されました。もともとその本を出されるきっかけになっていたのはブログだったんですよね。

岡本仁さん(以下、仁):そうですね。僕は2000年から2004年までの5年間、『リラックス』という雑誌の編集長を務めていましたが、当時、その編集部では宣伝にかけられる予算が少なかったんです。そこで、予算を有効に使おうと、雑誌を宣伝するためのフリーペーパーを作ってカフェやレコード店に置いてもらっていたんですね。ポラロイドカメラで写真を撮り、原稿を書いてと、制作もほぼ自分でこなしていました。だから、それ以外の仕事も含めると、毎月、結構な量の文章を書いていたんです。
 ところがその後、『リラックス』を離れて『ブルータス』編集部に異動したら、今度は予算を潤沢に使えるというありがたい環境で。そこでは原稿をライターさんに発注できるようになったので、仕事の負担が少なくなって嬉しい……かと思いきや、何だか寂しくなってしまったんです(笑)。『ああ、僕は書くことが好きだったんだな』と。

 

―書く機会がなくなってはじめて気付かれたんですね。

仁:ええ。それで、定期的に書く仕事がなくなってしまったと残念に思っているときに、イラストレーターの原田治さんがブログを始められたのを知って。それを読んでいるうちに、ブログが面白いメディアだということに気付き、『書く場所ができるなら自分もやってみようか』と思い立ったんです。そして、どうせ始めるなら必ず一日一本は書いていきたいけれど、毎日ネタがあることって何だろう? と考えて。その結果、たとえばコンビニにある洗剤やドラッグストアの風邪薬なんかも含めれば毎日何かしらを買っているのだから、そうだ、“日々の買い物”をテーマにしようと。別にそれが魅力的だからというわけではなく必要に迫られて買ったものでも、文章量を増減することなく毎日同じようなボリュームで書いていこうと自分にルールを課しました。たとえば新聞に連載小説を抱えている文豪にとっては毎日が締め切りです。『そういう文豪なんだ、俺は』と思って、妄想プレイを楽しんでいました(笑)。

岡本敬子さん(以下、敬):毎朝、ちょうど小倉さんが出ているフジテレビのワイドショーが始まる頃から書き始めていたわよね。

仁:そう。テレビの音を聞き流しながら、1時間くらいで1話を書いて。そのうちに、カミさんも参加するようになったんですよ。

敬:毎朝いったい何を書いているんだろう? と思っていて。それで読ませてもらったら面白かった。しかもお買い物がテーマだったので、それなら私も書いてみようかな、なんて軽く言ってしまったんです。

仁:これは困ったことになったぞと(笑)。でも、カミさんのアカウントを作らずに、僕のブログに割り込む形で書いてもらうというのが面白いかなと思い、あえてそういうスタイルで続けていました。

敬:私は長文を書けないし、毎回きっちり決まったボリュームにまとめることはできないから、自由気ままに書かせてもらっていました。買ったものについて何か語れることがあるときにだけ割り込んで(笑)。書いているうちにだんだん慣れてきて、書くことが楽しくなっていきましたね。

―そんなお二人のお買い物エッセイが面白いと話題になり、そのブログの内容をまとめた『今日の買い物』が2005年に刊行されることに。そして時を経てこのたび新装版の出版に至りますが、従来版はもう入手しづらくなっていたので、ファンの方にはまさに待望の嬉しいニュースになっていると思います。

仁:ありがとうございます。もともと従来版は友達の小さな出版社から出すということもあって、そんなに売れないだろうと思っていたんです。だから記念に残るような一冊にしたいとクロス張りの装丁にしたんですが、そうしたら3000円くらいの本になってしまって。ただでさえ売れないのをそんな高い値段にしたらますます売れないだろうと心配になりましたが、いっぽうでは、『その方が岡本さんらしい』という人が買ってくれるんじゃないかなとも想定していて。とはいうものの、そんなに部数を刷っていないし、品切れになっても値段が高いからそうそう重版するわけにもいかない。

敬:それで、いざ品切れになってしまって重版なしのままでいたら、アマゾンで結構な値段がついてしまっていたのよね。

仁:そう。だから、今回は新装版を出すことができて嬉しいです。いずれはポケットに入れていつでも気楽に読めるような文庫版も出せるといいなと思っています。

最近の「今日の買い物」―I.ENOMOTOとLescaのメガネ(敬子)
 
「眼鏡が好きなので毎年いくつか購入するんですが、今年買ったお気に入りの一つがこの金縁タイプ。手がけてきた眼鏡のデザインが3000モデル以上もある、日本の眼鏡業界を代表するデザイナー、榎本郁也氏のブランドでI.ENOMOTOのもの。いわゆる金縁メガネというと昔のおじさんがかけているようなものをイメージしがちだけれど、これはマットな質感のおかげで、モダンでスタイリッシュな表情に仕上がっています。このシャンパンゴールドの上品な色みもいい。ちなみに奥様は『pili』でも扱っている『メガネ&ミー』という眼鏡ブランドをプロデュースされています。また、もう一つのお気に入りはフランスのブランド『Lesca』の黒セルフレーム眼鏡。建築家のル・コルビュジエが愛用していたモデルなのですが、こういうポップで打ち出しの強いデザインが好みです(笑)」
 

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『今日の買い物[新装版]』

岡本 仁 岡本 敬子 著


買い物は店へのエールである。今はもう失われてしまった店の記憶や、変わらぬ老舗の味。スタイルのある洋服やアクセサリー、そして古びないプロダクトデザイン。今日もまた、いろいろなものを縦横無尽に買い物する2人の、もの選びのセンスとは? ものを選ぶことが仕事でもある編集者岡本仁+ファッションディレクター岡本敬子の大人気買い物エッセイ、新装版が登場! (解説・平野紗季子)
※9月26日発売予定(予約受付中)

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