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赤絵の飯茶碗【今日の買い物5】

買い物は店へのエールだから。何だか惹かれると思うものは、買って連れて帰りましょう! そうしてはじめて分かること、たくさんありますよね。ものを選ぶプロともいえる岡本夫妻の新刊、「今日の買い物 新装版」から、5回にわたってエピソードをお届けします! みなさんの買い物とそれにまつわるお話も、ぜひコメントでお寄せください!
 

掌で包むといままで感じたことのない気持ち良さがあった

赤絵の飯茶碗桃居 
東京都港区西麻布2-25-13 

病院の帰りに青学の向かいにある中村書店(※1)に寄った。前に行ったときに『やきもの事典』という古本が売られていたのを覚えていて、それを手に入れたいと思ったのだが、既に誰かが買っていった後だった。気になったらすぐ自分のものにしないとこういう結果になる。とはいえ、最初にその本を目にしたとき、ちょっと気になるかなという程度だったから、いまひとつ思い切れなかった。それが急に欲しくなったのは、先日、赤絵の飯茶碗を買ったせいだ。自分は、その茶碗が赤絵だということくらいはわかる(※2)が、では赤絵というのがどういう焼き物のことを言うのかは何も知らない。そういう自分が恥ずかしくなってきたのである。鎌倉に引っ越したばかりの頃、最初に住んだのは築60年の部屋が7つもある日本家屋で、しかも庭に石灯籠があるようなところだった。ちょっと自慢したいという気持ちもあってやたらと家に人を招いた。そうすると食器もたくさん必要になる。近所の古道具屋で、印判の皿や鉢を見つけては買い足していたら、すごい数になった。いまはほとんど残っていない。その頃も、それが印判だということはわかるが、印判とはどういう焼き物のことを言うのかはやはり知らなかった。一事が万事そんな調子ですませていたことを、これからは改めようと考えたのである。

たぶん、また少し時間の余裕ができて料理をするようになったからだろう。食器がすごく気になる。きちんとした器で食事をしたい。それで、まず飯茶碗を買おうと思った。焼き物についてもいろいろ教えてもらいたくて桃居に行ってみると、ご主人が「誰の作だから、何処の物だからと考えないほうが良い」というようなことを言うので、質問する機会を逸してしまった。「では、これをください」と赤絵の飯茶碗をこわごわ指さす。まるで試験をされているみたいに緊張した。よくわからないが、赤絵はあまり無難な選択ではなかったような気もする。家にある食器と相性が良くないかもしれない。ただ、掌で包むといままで感じたことのない気持ち良さがあり、これしかないと思えたのだ。

※1 詩集を多く取り扱うことで有名ですが、最近は棚に並ぶ詩集の数も少なくなったように思います。
※2 ほんとうにこの飯茶碗が「赤絵」なのかどうか、だんだん不安になってきました。

 

 

『今日の買い物[新装版]』
岡本 仁 岡本 敬子 著


買い物は店へのエールである。今はもう失われてしまった店の記憶や、変わらぬ老舗の味。スタイルのある洋服やアクセサリー、そして古びないプロダクトデザイン。今日もまた、いろいろなものを縦横無尽に買い物する2人の、もの選びのセンスとは? ものを選ぶことが仕事でもある編集者岡本仁+ファッションディレクター岡本敬子の大人気買い物エッセイ、新装版が登場! (解説・平野紗季子)
※9月26日発売予定(予約受付中)

 

岡本 仁

北海道夕張市生まれ。テレビ局を経てマガジンハウスに入社、雑誌『ブルータス』『リラックス』『クウネル』などの編集に携わる。2009年よりランドスケーププロダクツにてプランニングや編集を担当。近年はキュレーションなども手掛ける。著書に『東京ひとり歩き ぼくの東京案内地図。』『また旅。』『果てしのない本の話』ほか多数。
Instagram:@manincafe

 

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次回は新刊発売記念! 岡本夫妻のインタビューです。お楽しみに!